CASE4:オーレリア/中間地点
店がミーティングスペースとして稼働する時間帯は、お茶はセルフサービスだ。各テーブルに置いた容器から自分で注いでもらう形だ。
最初は有料にしようかとも思ったが、ケチケチしているとかえって損をする。好感をもってもらえるようにすればリピーターになるかもしれない。
さっそく若い冒険者の一団がテーブルについて会議を始めた。
「次の目的地までのルートなんだけど、もう一度確認してもいい?」
「待って、地図出すね」
「やっぱり川沿いに進んだ方がーー」
外ではなく室内でミーティングをするメリットは、まず安全であること。次に平らな机があることだ。こうして地図を広げてメモをすることもできる。外だと平らな場所なんてないからな、
この時間にもオーレリアの仕事は続く。ひとつ、ランチで使った食器の片付け。ふたつ、次の日の仕込みを済ませること。そしてみっつ。
「なんかいい匂いすんなぁ……」
「ね、安いし、頼んじゃおっか」
残った米で煎餅を焼く。在庫処理と単価アップに貢献してもらう。他にも残り物を使ったメニューを用意しておく。
今は減らしたメニューの材料が中心だ。使い道がないからな。仕入れ自体をなくした後はまた別のものを用意しよう。ナンシーの店から果物を仕入れるのもいいかもしれない。
とにかく飲食店では、材料費と人件費を抑えることが重要になってくる。そのために、仕入れたものは少しでも収益化しなければならない。
たとえば、高級店のランチが安いのもこういう理由だ。高級食材であればなおのこと、少しでも売り上げを増やさないといけない。よく、『客寄せだろう』という人もいるが、それは勘違いだ。ああいう店ほど、昼と夜では客層が全く異なる。
もっとも、ランチでの売り上げ以上に人件費がかかってしまえば元も子もないという問題点はある。
その点、ここはオーレリア1人の店だし、手間がかからずにすぐ用意できるものだけに絞ればこの作戦は有効だ。
「ねぇねぇ、これって君が作ったの?」
若い冒険者に声をかけられる。そりゃ気になるだろうな。
「は、はい。私が作ってます」
「え! まじで! 小さいのに偉いなぁ……何才なの?」
おお、ぐいぐい行くな。オーレリアがオロオロしてこっちを見ている。とりあえず笑顔で頷いておいた。
「わ、私、自分の年わからなくて……」
こういう絡まれ方は初めてなんだろうなぁ。ランチ時だと話す暇なんてないんだろうし、今までの客層とは違うからな。反応が初々しい。
「え、そうなの? お父さんに聞いても?」
「私、両親がいないので……」
そう答えた瞬間、冒険者たちの空気が変わった。
「そんな……」
「こんなに小さいのに……それで働いているのか」
「ねね、こっちおいでよ。お姉さんと話そ?」
「え、えっと……」
こいつら、良い奴らだなぁ……。とりあえずまた笑顔で頷いておこう。オーレリアは席に向かった。お、頭を撫でられて戸惑っている。すっかり妹のように扱われている。なんとも微笑ましい光景だ。
◇◆◇◆◇◆◇
それから冒険者たちはしばらくオーレリアにメロメロになった後、「また帰りに寄るからねー!」と言い残して帰って行った。そして丁度17時、ミーティングスペース終了の時間だ。
「楽しそうだったな」
「あ、あのっ……すみません」
責められていると感じたのか、オーレリアがオロオロと謝る。もう目が潤みはじめている。
「待て待て。あれで良いんだ。……俺の期待以上の働きだったよ。お疲れ様」
「あ……はい。ありがとう、ございます?」
あまり飲み込めていないようだ。だが、まぁそのうちわかるさ。
「さて、じゃあ今日はもう店を閉めて振り返りをしようか!」
「え……まだ営業時間ありますよ?」
いつもなら19時までは仕事だからな。だが、今日はもう終わりだ。いや、これからも、だな。
「それも含めて、今から説明するさ。そしてそれが終わったら少し付き合ってくれ」
「はい……どこかに行かれるんですか?」
オーレリアは可愛らしく首を傾げている。さっきの冒険者一行がああなったのも頷ける可愛さだ。
「ああ、俺とデートしよう」
「え……あ、はい。わかりました……えっ」
良いリアクションだ。戸惑っているのを一生懸命隠そうとしている。うーん、抱きしめたい。
今日の作戦はおおよそ成功だが、まだ利益は2倍ほどにしかなっていない。廃止したメニューの仕入れ期間が終われば余計な経費が減り、さらに利益は増える見込みだ。だが、まだ予定の5倍には遠い。
俺の作戦はまだ序盤。やるべきことは山ほどある。だが、最初にやるべきことは決まっている。さぁさっそく取り掛かろう。




