CASE4:オーレリア/ショットガンアクション
次の日の朝、俺たちは街の入り口の門の脇に来ていた。
「よし、オーレリア。準備はいいか?」
「はい。大丈夫です」
オーレリアは気合が入っている。相変わらず無表情でよくわからないけどな。
「よし、一応確認だ。俺たちにとって最も大事なことはなんだ?」
「はい。お金です」
即答。まぁ合ってるけど。
「……惜しい〜。それも大事、大事だけど……?」
「あ、お客様の笑顔です」
「エクセレント。その通りだ」
オーレリアはまだ幼い。いや、歳を重ねてもわからないままのやつだってたくさんいる。おいおいわかっていけばいいさ。お、そうこうしているうちに最初のお客様がお見えだ。
「こんにちはー! プレミヨンへようこそー!」
「こ、こんにちはー」
オーレリア、硬いぞっ。若葉色の目が泳いでいる。だが可愛い、これはこれでウケそうだ。
そう、最初の作戦はこれだ。午前の営業は捨てて弁当を売る。午前の客入りは非常に少ない。いっそ別のことをした方がいいというのが理由だ。だがそうすると昼の仕込みが問題になってくる。
だから、同時にメニューを大幅に減らす。食材を使い回せないメニューまで対応する体力は今の店にはない。一旦人気商品に絞ることにする。そうすれば仕込みの時間も短縮できるし、お昼の回転率も上げることができる。
もっとも、弁当屋はライバルが多いから、これでの実入りはそれほど期待できないかもしれないな。
「や、やっとプレミヨンかぁ……」
「ねーねー、ちょっと休もうよ〜」
見たところ、若い駆け出し冒険者一行といった風貌だ。男性2人に女性2人、大学のサークルみたいな雰囲気だ。イチャイチャイチャイチャと、全くけしからんな!
「こ、こんにちは……お腹、空いてないですか。お弁当……売ってます」
オーレリアの接客は拙い。無理もない。お店での接客と、こういう外で新しいお客様と接するのとでは全く違う大変さがある。
「おっ、美味そう……」
「だめだよ。こんなところでお金使っちゃ」
「えぇ〜……わかったよ。じゃ、ごめんね」
勇気を出して声をかけても、こうして断られることの方が多い。自分で作ったものを『いらない』と言われるのは本当に辛いものだ。その商品にかけた想いが強ければ強いほど辛さは増す。
「……次、頑張ります」
「えらいぞオーレリア! その意気だ!」
オーレリアはもう次のお客様を狙っている。若葉色の瞳の奥が燃えている。強い子だ。
「こ、こんにちはー!」
オーレリア、さっきより声が出ているな。お、そして今度は買ってくれそうな雰囲気だ。
◇◆◇◆◇◆◇
メニューを廃止すると言っても、仕入れはすぐにはやめられない。そんなことをしたら信用を失うからな。それだけは避けなくては。だからこの弁当作戦は一時的なものだ。廃止メニューでしか使わない食材を弁当にして売る。
そして、思いのほか成果は出た。ほとんど完売だ。だが休んでいる暇はない。すぐにランチ時だ。
というわけで店に戻ってきた。やはりオーレリアは若干疲れを見せている。だが今は休ませるわけにはいかない。
「あ、メニュー変わったのか」
「へぇ、こんなメニューあったんだ。今日はこれにしようかな」
「あれなくなっちゃったんだぁ」
お客様の反応はまちまちだが、概ね悪くない。メニューは減らしたが、メニューの書き方は大きく変えた。
【ランチメニュー】
・生姜焼き定食
→天然豚の生姜焼き定食
・焼き魚定食
→炭火でじっくり焼いた季節の焼き魚定食
・麻婆豆腐定食
→激辛好き限定!ピリ辛麻婆豆腐定食
※米は全て炊きたて、全ての定食には地元でとれた新鮮サラダがついています。
そしてこれを外の看板にも大きく載せておく。見せ方、どこを切り取るかで印象は大きく変わる。せっかく回転率が上がるのなら、少しでも多くのお客様を呼び込まなければ。幸い、この通りは人通りもある。これも成果が期待できるはずだ。
「お待たせしました」
オーレリアはてんてこ舞いのようだ。だが店を回すことに関しては、やはり慣れていることもあって安心感があるな。そして少しでも時間があると自分の料理を食べている姿をジーっと眺めている。
◇◆◇◆◇◆◇
なんとかランチが終了した。だが休む暇はない。次の手だ。予定なら間に合うと思うが……。
「すみませーん。お届け物でーす」
「きた! はーい、今行きまーす!」
この時間からはガラガラだ。だがそれは定食屋としてのニーズを持つ人たちがいなくなるだけ。それなら別の方法を取ればいい。
「クラーク様、これは……?」
「これから14時〜17時までは看板をこれに変える。棒を使ってひっくり返すだけでいい」
看板を簡単に入れ替えられる仕様に変更した。『定食屋』『冒険者用の無料ミーティングスペース』そしてあともう一つあるが、ひとまずは後回しだ。さっきの弁当作戦と合わせ、一度に大量のアクションを起こす。ショットガンアクションだ。
次はターゲットをまた冒険者たちに戻す。入るときには無料、何か食事を頼むなら簡単なものを有料で用意する。また主に売れ残りになるがな。
プレミヨンから北に歩けばすぐに魔物たちが徘徊しているエリアになる。つまり町を出てから安全に話せる場所を確保するのは一苦労だ。だから街にいるうちに一息つける場所があれば、ウケるはずだ。
普通は酒場を使うんだろうが、酒場に行けば無料というわけにはいかないからな。人は来るはずだ。だが、そこからマネタイズできるかについては未知数だ。
よし、さっそく1組目の客だ。思惑通りに進むかどうか……。
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