CASE4:オーレリア/波乱の幕開け
地球にいた頃、俺はいつも焦っていた。右を見ても左を見ても俺をはるかに凌ぐ能力の持ち主ばかり、少しの努力が実ったところで、上には上がいる、当たり前の現実の重さにますます気付くばかりだった。
だが、それでも前に進むしかないのだと自分に言い聞かせ、弱い心を奮い立たせた。
その焦りから解放されたのは、ある人との出会いがきっかけだったーー
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さて、ここまでの3度の挑戦を振り返ろう。今のところ0勝二敗一引き分けだ。うむ、よくない。だが俺は諦めない。この経験を胸に刻み、まだ見ぬ美女のもとへ、いざ征かん。
というわけで今日やってきたのは街の商店街。ここは比較的所得の低いブルーカラーが多く住んでいることもあり、庶民的なお店が多い。ここのとあるお店に知る人ぞ知る隠れた美少女がいるらしい。
......ここだな、見たところ、小さな定食屋のようだ。お店の外観は古い旅館のような趣だが、あまり流行っているようには見えない。個人的には嫌いじゃないがな。さて、始めようか。
「こんにちは! 最強無双勇者クラーク・ブラッドフォードだ!」
そう宣言して引き戸を開ける。......返事がない。営業中の看板は出ていたのだが店員も客もいない。これは一体......?
「すみません......もう少しだけ、もう少しだけ待ってください」
「そうは言ってもねぇ。こっちも商売だからねぇ」
裏の方から話し声がする。むむむ、これはトラブルの匂い。トラブルあるところに美少女あり、美少女あるところにクラークありだ。(諸説あり)とりあえず行ってみよう。
狭い裏路地。異世界でも地球でもこういう場所は似た雰囲気だ。そこに声の主はいた。見たところ、彼女が今回の美少女だろう。背の高い男と話しているようだ。あの後ろ姿は見覚えがある、なるほど、事情は大体わかった。
「こんにちは!最強無双勇者クラーク・ブラッドフォードだ!」
「うお! ......なんだ、領主さんか。びっくりさせないでくださいよ」
この男は知り合いだ。街の金貸しのレッド。ひょろっとした体格と坊主頭が特徴的だ。審査もなしにすぐ貸し付けてくれるが、利子がべらぼうに高く、たまにトラブルを起こしている。何度か飲みに行ったこともあるが、飲むとすぐに泣くのが厄介だ。
「やぁレッド! 今日も元気に借金の取り立てかい?」
「も~、まぁたいじわる言ってぇ。俺だって食うのに必死なんですよ~」
本人は悪い奴じゃない。職業柄恨みを買うことも多いし、やっていることは黒に近いグレーだが、それでも彼がいないと困る人だってたくさんいる、必要悪だ。
「わかっているさ。ただ、少し話を聞かせてもらおうか」
「別にいいっすけど......俺がこの子に金を貸してけどさっぱり返ってこない。だから担保にしてたあの店をもらうってだけの話です。定食屋で、まぁ立地もいいし、客も来ないわけじゃないんですけど売上が低くてぇ」
本当に何のひねりもなく予想通りだった。
「だけどこの子が全然譲らなくて、どうしようかなぁと困ってたところなんですよ~」
「だって......だって......利子があんなに高いなんて」
涙ぐみながら抗議する少女。ぼさぼさで伸び放題の金髪に、若葉色の瞳、よれよれの服を着ている。俺の胸くらいまでしかない小柄な身体で、見たところ年齢は中学生くらいだろうか。なるほど、身なりは汚いが顔立ちはかなり整っている。将来が楽しみだ。
「とはいってもなぁ、最初にしっかり伝えたはずっすよ」
レッドにそう言われ、少女は返す言葉がないようだ。レッドの利子は高いが、やつは貸す前にしつこいくらいに確認をとるからな。本人曰く「これでもごねるやつはいるけど、それでもちゃんと伝えたっていう事実が大切なんです」とのことだ。
それにしても、こんな小さな子がどうして飲食店の経営なんて......いや、今はそれよりもこの場を収めることを優先しよう。
「ではこうしようレッド。俺が彼女の店を繁盛させる。二週間でだ。そしてその帳簿を君に公開しよう。そして利子だけでも返済する。それで回収が見込めると判断できるならもう少し時間をやってくれ。どうだ?」
「え……」
戸惑う少女。
「えぇ~、なんすかその提案......まぁ、アンタ言い出したら聞かないですからね。その代わり、二週間だけっすよ。ヤクソクです」
坊主頭をボリボリと掻きながらOKを出してくれた。日頃の付き合いって大切だなぁ。今度なにかごちそうしてやろう。
「ありがとうレッド。……君もそれでいいかな?」
「は......はい」
まだ事態をきちんと呑み込めていないようだが、とりあえず首の皮一枚つながってことだけはかろうじて分かったようだ。まだハーレムに加えるには幼すぎるものの、投資だと思えば安いだろう。少女の返事を聞いて、レッドは「それじゃ頼みましたよ~」と言って帰って行った。
「改めて、最強無双勇者クラーク・ブラッドフォードだ。よろしくな」
「オーレリア、です......」
スルーか、いきなり滑ったな。オーレリアは表情を変えない。だが俺はひるまない。
「最初に言っておく。オーレリア、俺が2週間でこの店をもうけさせ、利息を返済する。その代わり、俺の嫁になれ! 大きくなったら!」
「......わかりました」
「そういうと思っていた。もし俺が失敗したら、その時は......え?」
耳を疑う。
「いいですよ......結婚ってことですよね。私でいいなら」
まるで街頭アンケートに対して「いいですよ」とでも答えるような態度のオーレリア。無感情な瞳で俺を見つめている。思わず、思考が止まる。
「......えー」
第4試合は波乱の幕開けを迎えた。正直に言おう。前言撤回、俺は全力でひるんだ。




