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CASE3:フローラ/町外れの丘

 今回のテーマは長くなります。なるべくテンポが悪くならないように気をつけますが、もし見づらいようでしたらなんなりとご意見ください。

 次の日、良い天気だ。フローラはいつもよりシンプルなスカートルックに動きやすそうなブーツを履いて待っていた。


 動きやすいように長い青みがかった銀の髪を二つ結びにし、さらに三つ編みにしている。髪型のせいか、いつもより幼く見える。いやむしろ、年相応なのだろうか。それにしても、普段運動しない子のこういう格好はグッとくるな!


「おはよう。ではさっそく向かおうか!」


「向かうって、どこへ?」


もう昼前だが、フローラは気怠げな様子だ。まぁ朝型と夜型は遺伝子レベルで分かれているから、どちらがいいというわけではないが。


「近くの丘だ。行こう!」


「朝からテンション高いですね……」


「美人と一緒だからな!」


 そう言って早速出発する。フローラは顔色一つ変えず、はいはい……と流しながらついてきた。



 ◇◆◇◆◇◆◇



 15分ほど歩いただろうか。中間地点の林に着いた。あたりは背の高い木に覆われ、木の表面には鮮やかな緑色の苔に覆われ、その根元にはチョロチョロと小さな川が流れている。林の中は外より何度か気温が低く、汗ばんだ肌に気持ちがいい。


後ろを見ると、フローラはゼエゼエと肩で呼吸をしているようだ。真っ白な顔が紅潮し、汗だくで足取りもよたよたと頼りない。予想よりもはるかに体力がなかったようだ。


「すまん、歩くのが早かったな。一旦休憩にしよう」


「は……はい……」


 そう言い終わらないうちに、地べたにへたり込んだ。俺も手頃な岩を見つけて腰掛ける。


「はいこれ」


 そう言って水筒を差し出す。俺はいつも持ち歩いているが、フローラにも持ってくるように言っておけばよかった。差し出した水筒を一瞥するフローラ。


「け……結構……です……」


「倒れるぞ。飲んでおきなさい」


 ラチがあかないので、半ば押し付けるように渡した。フローラは目の焦点が合っておらず、さっきから細い肩をせわしなく上下させている。運動不足は深刻なようだ。


 無理やり渡された水筒を見つめて悩んでいる様子のフローラだったが、ようやくチビチビと飲み始めてくれた。水筒を両手で握る姿が愛らしい。白い首がコクコクと動いている。


「……見ないでください」


 また引かれてしまったようだ。だが時を戻せるとしても、俺はまた見つめるだろう。何も後悔はない。


「そういえば、昨日はよく眠れたか?」


「まぁ疲れてましたから、目を閉じたらすぐ朝でした」


 ふむ、良い傾向だ。だが夜中に一度くらい目が醒めるのがもっとも正常なパターンだ。起きたことを覚えていない可能性も多分にあるがら全く目が覚めないのはよくないし、この様子を見ると、やはり体力をつける必要があるな。


「……それと、朝起きて、片付いた部屋を見渡したら、何故だかスッキリした気分になりました。なんというか、肩の荷が降りたような」


「それは良かった、頑張った甲斐があったな。実際に君の頭から『片付けなければ』という仕事が消えたのだから、その感覚は正しいよ」


「そう、なのかもしれませんね。ま、あなたのおかげと思うと少し癪ですけどね」


 昨日は半信半疑だったが、実感が伴った分、今日はリアクションが幾分か素直だ。


 さて、フローラの息も整ってきた。そろそろ進むか。進むスピードには気をつけないとな。



 ◇◆◇◆◇◆◇



 目的地に着いた。ひらけた丘、一面に緑。薄く雲がかった空が広がっている。


「わぁ……良い景色。気持ちのいい場所ですね」


「ここからは街が一望できる。人気もないし、俺の秘密の場所なんだ。よくここにきて考え事をするんだ」


 ふわりと優しく吹く風がフローラの髪を揺らした。彼女はリラックスした様子だ。しかし、景色に夢中で俺の話は聞いていないようだな。愛いやつめ。


 フローラはあっちへこっちへ丘を物珍しそうにウロウロしており、それに合わせて二つ結びにした髪がふわふわと跳ねている。なんだか楽しそうだ。落ち着くまでは放っておこうか。



 ◇◆◇◆◇◆◇



 しばらく草原に生えている花を摘んだり、歴史を感じさせる大木を見上げていたフローラだったが、ハッと我に返ると乱れた前髪を整えながらこちらに歩いてきた。


「……いい場所ですね」


 こほん、と咳払いをしてそう呟くフローラ。


「そうだろ? 俺のお気に入りなんだ、ここ。まぁ座ってくれ」


 手で促すと、促したところよりもかなり遠くに座られた。警戒心。


「でも、どうしてここに連れてきたんですか?気分転換、ですか? たしかに、悪くない気分ですけど」


「もちろんそれもある。だが、もう少し理論的な部分まで話すため、まずは実感してもらおうと思って連れてきたんだ」


「理論……ですか?」


 両手を膝の上に乗せているフローラ、桜色の瞳が早く先を話せと急かしているようだ。

 

「そう、何故今日君の気分が良くなったのか。それを話していこうと思う。そしてその本質を理解し、意識的に日常に取り入れてもらうことが狙いだ」


「……わかりました。続けてください」


 よし、やはり実感があるうちに話すのが一番だな。早速始めよう、日常レベルに落とし込めれば、かなり前進するはずだ。

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