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CASE3:フローラ/お片づけ大作戦

 次の日、フローラの屋敷の庭にあるベンチでヒアリングを行うことにした。庭は荒れ放題のようだ。まぁこれだけ広いと、とても1人では管理しきれないだろうな。


「さて、まずはいくつか聞きたいことがあるから、質問に答えてほしい。無論、言いたくないことは言わなくていい」


「……どうぞ」


 フローラは冷たい声で返事をする。腰まである青みがかった銀色の髪が、まるで朝霧のカーテンのようだ。


「まず、寝る時間と起きる時間についてそれぞれ教えてくれ」


 おそらく予想通りの答えが返ってくるだろう。


「……寝るのは2時過ぎくらいで、起きるのは8時くらいです」


「ありがとう。ちなみに寝る前には何をしていることが多い?」


「別に何も……寝付くまでが長いので、考え事をすることが多いでしょうか」


 やはりだ。概ね予想通り。次に進もう。



 ◇◆◇◆◇◆◇


 質問が続いて、フローラは少しうんざりしているようだ。足を組み、瞳を閉じている。


「最後に二つ、小説が書けない理由について、君自身はどうしてだと思う?」


 桜色の瞳が一瞬こちらを向いたが、すぐにふいっとそらされる。


「……いいアイデアが浮かばないからです。あとは、そう、あまり気乗りしないので」


 ばつの悪そうに答えた。長い髪の毛先を指でいじっている。


「なるほど、ではこれで最後だ。君が小説を書けないこと、いや、そもそも小説を書くことについて、家族は何と言っているのかな?」


「…………答えたくありません」


「わかった。ありがとう」


 やはり答えないか。問題ない。もう問題は見えたも同然だ。さて、もうすぐお昼だ。施策に移る前に腹ごしらえといこう。


「フローラ、もうお昼はとったのか?」


「……まだです。さっきあなたがドアを叩く音で目が覚めたので」


「そうか、ならよかったらこれ、一緒にどうだ?」


 そう言っていくつかのカットフルーツが入ったバスケットを差し出す。ここへ来る前にナンシーの店で親父さんから買った一級品だ。


「……要りません。一人でお食べになってくださいな」


 と口ではいいつつ、横目でチラチラと見ている。


「まあまあ、1人じゃ食べきれないし、助けると思って」


 そういうことなら、とフローラは納得してくれた。午後は忙しくなる。しっかり力をつけてもらわなければ。


「まあまあの味ですね」


 といいつつ、フルーツを口に運ぶ手は止まらない。細くて白い指でフルーツを掴む、その動作ひとつ取っても気品があるなぁ。


「フローラ、食べながら聞いてくれ。君が小説を書けるようになるために、これを食べ終わったらまず君の屋敷を掃除する。いいね?」


 フローラの手がピタリと止まる。


「け、結構です……というか、別に散らかってませんし。だいたい、それと小説になんの関係が……」


「フローラ、君の屋敷を掃除する。いいね?これは絶対に必要なことだ。取り組めば必ず君も納得してくれる。約束する。見られたくないものがあるなら、食べ終わってから先に片付けておいてくれ。なに、あと少しすればもう2度と会うこともなくなるんだ。そうだろ?」


 ここは引かないぞ。まっすぐ目を見てはっきりと伝える。フローラの桜色の目があちこちに泳いでいる。なんとか言い訳を考えていたようだが、やがて諦めたように「……はい」と答えた。よし、まずは第一関門を突破だ。強引な手で少し不安だったが、なにより。



 ◇◆◇◆◇◆◇



 屋敷の中は想像以上に散らかっていた。間違いない、彼女はいわゆる、ものを捨てられないタイプだ。姉上が同じタイプだからよくわかる。


「よし、さっそくとりかかろう。まずは必要なものといらないものを分けよう。いらないものはこれに詰めてくれ」


 そう言って箱を渡す。


「わかりました……」


 フローラは眉を潜めながら低い声で答えた。


「そして片付けのルールは3つ。


 1、収納しているものを全て取り出すこと

 2、全て一度手に持つこと

 3、それから必要か不要か判断すること


 これは俺の知る中で最も偉大な片付けの魔法使いが考案したルールなんだ。よろしく頼むよ」


「なんですかそれ……まぁいいですけど」


 フローラは怪訝そうな顔をしている。こういったこにルールをつけるのは珍しいのかもしれない。そうだろう。俺も前の世界で初めてこの話を聞いたときには同じリアクションだった。


「片付けにルールですか……なんだか大げさに感じます」


「気持ちはわかる。俺も最初はそう思ったからな。だが、なん度も繰り返すことはルール化すると楽なんだよ。よし、始めようか」


「あ、ちょっと待ってください」


 そう言ってフローラは寝室に入っていった。流石の俺も寝室には入らない。


「お待たせしました」


 そう言って出てきたフローラは袖をまくり、長い髪をポニーテールにしていた。こ、これは……。


「……視線がキモチワルイです」


 気付かれてしまった。手で口を隠しながらボソッと言われる。ストレートな言葉に思わずときめく。いかんいかん、今はそういう時間ではない。始めよう。

【参考出典】

・近藤麻理恵(2011) 『人生がときめく片づけの魔法』


ノウハウ本かと思いきや、中身はビジネス書寄りだったりします。


余談ですが、コンマリさんがこの本を出版社に持ち込んだ時、当初は『プリンセス片づけ術』という名前だったらしいです。


しかし、それでは男性がターゲットから外れる上に、女性でもプリンセスという言葉が嫌いな人がいるため、このタイトルになったそうです。

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