救いの女神
前回:ピンチ!
何処からか飛んで来た火の玉が、魔獣の顔面を直撃した。
そして当たった瞬間に、それがより一層光を放って爆発する。
それがどれ程の威力かわからないが、爆発の衝撃で後ずさる。そこに更に2つ、3つ、4つ……と、連続して火の玉がぶつかって、爆発を繰り返す。
その爆炎がアイツの毛皮を焦がし、燃えていたのかも知れない。
アイツはそれを払うためにキュウを落とした。そして、両腕で顔のあたりを払いながら蹌踉めく。
そんな状態のヤツに、更なる追撃が決まった。
…空から風が舞い降りて、ヤツに向かって衝突したのだ。全くわからない何かが通りすぎ、ヤツは地面へと倒れる。…なんとも間抜けな事に、自身の力で作った土塊にも躓いて、だ。
一気の連続攻撃のダメージもあっただろうけど、それでキュウも解放された。アイツの注意も完全に逸れた。
出所のわからない攻撃によって、俺達はピンチから逃れる事が出来たのだった。
体にどれだけのダメージを負ったのか、まだ苦しそうなキュウはそれでも立ち上がって、空に向かって吠える。
「キュウっ!」
……そうすると、空からは聞き覚えのある声が降ってきたのだった。
ずっと空から名前を叫び続けていた娘の声。
絶体絶命の窮地を救ってくれたのは、彼女だった。
「キュウ、お願い! その人をこっちに連れてきて上げて!」
何となく、状況に置き去りにされていた俺を、彼女はわかっていたらしい。キュウにそうお願いをして、誘導するように移動を始めた。
空を羽ばたく影が、地面をスーッと動いて行く。そして、ほんの少し離れた位置から、「こっちだよ」と聞こえる。
まだまだ回復中の俺は、満足に動ける状態じゃなく、歩こうにも歩けないでいた。
キュウの方がもっとツラいだろうに、彼女のお願いの通りに動き始める。
……俺の服に噛み付き、引き摺るようにして俺を移動させてくれる。
「ごめんな…、大変だろうけど、頼むよ」
地面を引き摺られるのは、正直あんまりだとは思うけど、文句を言うくらいに悪いなんて思わない。状況が状況だけに、どんな形をもってしても移動して貰えるだけ有り難い。
…されるがままに、彼女の待つ方向へとキュウに引き摺られる―――。
ーーーーーーーーーー
移動としては快適では無かったが、彼女とキュウのお陰でヤツからは離れられたみたいだった。
それでも、またいつ現れるともわからない恐怖心が残っているけど、それはそのまま警戒心にしておけば良いだろう。
それから情けなく引き摺られ続ける事、十数分。大なり小なり痛い思いは繰り返したが、ようやく俺も歩けるまで回復出来た。
負担が減ったキュウの足取りは軽くなっているし、きっとそれなりにはキュウだって回復したみたいだった。
それに、彼女の空からの誘導は続いていく。
何処を目標にしているかが全くわからないのだが、それを信じてついていけば良いと、確信めいた気持ちで歩き続けていた。
時折、重なり合う木々の葉っぱで、見上げる彼女の姿が見えなくなっても、彼女の声と、それを聞くキュウのお陰で、どんどん森の中が進める。
そして、彼女が何処を目指しているのか気になりだした頃、ついに人の手がかけられた場所、整備された道に出る事が出来た―――。
そこで初めて、俺は彼女達の姿をハッキリと見ることになった。
道に舞い降りてくる、小さな竜。
そしてその背中には少女の姿。
予想通りと言うか、聞こえた声の通り、大人の女性一歩手前くらいの歳に見える。
上空を飛んでいたからか、少しボサボサな、キュウと同じような銀髪の少女。
彼女は竜が着地するよりも先に、その背中から飛び出して、キュウに向かって飛び付いた。
「キュウ、キュウ~!良かった~! グスッ…本当に良かったよぉ! もう、本当に心配したんだからぁ…」
…本当に心配してたんだろうな、この娘は。
キュウの首に腕を回して、顔をそこに埋めながら、涙声してるし。
こっちの心もホッとすると言うか、感動的な再開は見てるだけで、何故かこっちが泣きそうになる。
キュウも彼女の肩に頭をのせて、感情がのった鳴き声を小さく上げていた。
一頻りキュウを撫でて、その体温と感触を確かめていた少女は、こっちを向いてお礼をしてきた。
「お兄さん、本当にありがとう!」
涙の跡はあるけど、本当に気持ちの籠った言葉と笑顔に、申し訳なさで一杯になってしまう。
「むしろ、逆にありがとう…。やっと森から出れたよ」
彼女は俺の言ってる事がわからない風だった。それは当然だ。
彼女からすれば、偶然合っただろうキュウを、多分保護してくれた…と思ってるハズだ。
…まさか俺が、キュウよりも迷子の先輩だなんて思う事はない。
別に、知らないなら知らないでも良い事なのだが、俺は事情を説明したのだった。…結構、恥ずかしいんだけど。
……………
「………って話。さっきもそうだったけど、キュウのお陰で、俺の方が助かった訳だよ」
「アハハッ!キュウちゃん、このお兄さんって、なんか面白い人だねっ!」
これまた、一層面白そうに笑ってくれるものだから、俺も笑顔になる。
ワケのわからない、死と背中合わせの緊張感も緩まるのだった。
改めて、自己紹介なんてしてみる。
彼女の名前はルナ、と言った。
本人はまだ半人前の『魔獣使い』として、一家と仲間達で、魔獣のショーをする旅の一座だと教えてくれた。
他の家族も教えて貰った。キュウも、そして今すぐ横にいる小さな竜のミニも。あとはここにいない、もう2体の魔獣も『家族』なんだと誇らしげに胸を張る。
……ショーのことも気になるけど、彼女達、絆が俺の事を助けてくれた。
因みに、今回は俺と同じく(正確には方向だけだが)西の地方都市に行く途中だったそう。
そう聞いた所で、俺は重大な事を思い出した。
「あっ、そう言えば…ここって何処ら辺なのかわかる?」
「えっ、うんっ! 空からだったけど…大体はわかるよ?」
この偶然の出会い。ルナは俺にとっての救いの女神様じゃないかな、なんて秘かに祈りを捧げてみたり―――。
何とか一騒動が終わったのだと、俺がそう勘違いしたのは仕方がなかった…のかも知れない。
いきなり設定ガバガバ。あとでしっかりします。読んで頂き感謝。評価もありがとうございます。