再会? いいえ……
前回:一転、また一転。でも有難い出会い。
銀月の月 21日くらい
一度それを知ってしまったら、忘れられない。キュウの尻尾って凄く良い…。
飼い主に戻して上げたいけど、出来たらほんの少しの間、貸してもらいたい。1日、いや2日くらいは。
それだけで無くとも、あの動きを見たら旅のお供には欲しい。
だけど、まずは森から出ないといけない。
単純に食料の問題があるから急ぎたい。
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―森の中を知らない少女が歩いている。
何かに乗っているようで、その移動する早さに追い付けない。何故、俺が追い掛けなきゃいけないのかわからない。
「待ってくれーーっ! そこに、すぐそこに居るんだっ! お願いだ!止まってくれーーーっ!」
本当はもっと別な事を叫びたい。キュウは居るんだ。その少女を必死に追い掛けて、そう叫び続けた。どんどん離れていく距離とともに、キュウの事を思って胸が締め付けられるようだった。
…せっかくの再会の場面なのに、少女はキュウを知らないかのように無視して、置き去りにしていく。
キュウも諦めたように立ち止まってしまっていた。顔を見れば悲しげだ。涙が無くても、どれだけ悲しいのかが伝わって来た。
もう少女の姿もない。
…俺は堪らなくなって、キュウを抱きしめていた―――。
ーーーーーーーーーー
「?」
いきなり、抱きしめていたハズのキュウが居なくなった。
……そして、次の瞬間に俺はキュウに踏まれてしまっていた。
「ごめん~、起きたからやめて……」
そのお陰で、さっきのが夢だったのを知る。
昨夜、どんな状態で寝てしまったのか、なんとなく思い出した。
…キュウのお陰で、久し振りに気持ち良く眠れた。
「おはよう、キュウ。ありがとう」
「ワォン♪」
起きがけにお礼をする。
先に起きていただろうキュウは、俺の頭側にお座りしていた。そこで初めて見た。
「あれ? お前ってそんな色してたんだ…?」
ハッキリと覚えてなかったけど、俺はキュウが金色の毛をしていたと錯覚していた。
目の前のキュウは銀色の毛をした魔獣だったらしい。やっぱり夜は目が利かないな。
「今日は、お前に頼みがあるんだ」
独り言に近い会話をして、軽めな朝食をとった。
……俺の前を歩くキュウが、ゆっくりと森に分け入っていく。
俺は、それをただ後ろから追い掛けるだけ。言葉を理解してくれる、そんな頭の良さに賭けて頼んでみたら、こうなった。
「本当にこったから来たのか?」
道なんてものじゃない。獣道ですらない――。
それだけキュウが、必死に俺の方に来た証明なのかも知れない。
確かに、足元の葉と地面に、恐らくキュウの傷から流れた血があった。どんどん先にいくかと思われたキュウは立ち止まって、ちゃんとこっちを待っててくれた。
「今行くよ」
種族の差もあるけど、とても歩き辛い。
それでも、キュウにとっても不慣れなんだろう。体に葉っぱを付けたりなんかして、少し間抜けな格好だ。追い付いて、その背中からとってやりつつ、先に先に―――。
やがて、拓けた場所まで導かれた。
どうやら、キュウはここで他の魔獣に襲われてしまったらしい。
…無数の魔獣の足跡、そして血が広範囲にあった。キュウのだけじゃないのは一目瞭然。
「そうか、お前って強いんだな…」
素直に感心する。
多分、他の魔獣に漁られてはいたけど、数体の魔獣の死体が残っていたのだった。
労うように、キュウの背中を撫でて上げる。
気持ち良さそうな声を上げてくれた。
……そんなほんわかした気持ちは、飛び出してきた魔獣の群れに邪魔された。
だが、ガサガサ、ガサガサと茂みを揺らしていたのは俺達はお互いにわかっていた。俺とキュウは即座に戦闘態勢になる。
「無理はするなよ? お前のご主人が困るから、なっ!」
話の終わりに合わせて、近くで威嚇していた狼型の魔獣を戦闘不能にしてやる。
明らかな不意討ちはこれで打ち止めだ。
ついでに、俺の後ろの方でキュウも簡単に1体の魔獣を仕留めた。
体格で勝っていたのは間違い無いが、クビに噛み付いて持ち上げたと同時に、骨が砕かれる音が聞こえた。
…忘れていたけど、キュウも魔獣だった。
近くで聞いて、背筋が凍るような感覚を感じた。
残りは4…だったのだが、我先にと逃げ出して行った。
「アイツらが、その傷の犯人か?」
「ワオォーーン! ウオォーーンッ!」
まるで『俺はやり返してやった、勝ったぞ!』…なんて誇らしげな声を上げているように思えた。
よくよく考えると、この結果は然るべきといったところだろう。どれだけ森を彷徨い、どれだけ空腹だったかわからないけど、キュウは満身創痍の状態だったし。
……それでも2、3体を片付けられるんだ。
凄い偶然だったけど、そんなお供をもう一撫でしてやった。
ーーーーーーーーーーー
流石に昼間だと、口許の血が目立つし、その匂いで他の魔獣に襲われても困る。近くにあった水場で洗って、俺はキュウに問い掛ける。
「ここから先はわかるかな? もしかしたら、お前を探してる人がいるかも知れないから…」
俺は、こっちに来た事がなかった。
……だって東の方だったからだ。
ここから先、もしかしたら森から出れる可能性は、キュウをご主人が探しているという可能性に賭けてみるしかない。
「クゥーン…」
だけど、キュウは弱々しく鳴き声を上げると、さっきまでと違って困ったように見える。
そこからは、行き当たりばったりに彷徨う時間が続いた。
何かを確かめるように、匂いを嗅いだりはしていたが、キュウも確信なくあっちへ行ったりこっちへ行ったり―――。
体感、昼を過ぎたあたりで、キュウもついに立ち止まってしまった。
それでも、今度はちゃんと獣道らしい場所だっただけはマシだと思っていた。
不思議と、空をちゃんと見れるだけ木の成育が足りない空間。初めて森に踏み入った時に見た鳥が枝から飛び立つ。
その周囲の雰囲気に安心して、食事をしてのんびり休憩を始める。
本当に困っているのだろうキュウは、疲れているというより、心細さで元気がなかった。食事はちゃんと食べてくれたから、体力的には心配してない。夢の中でやったように抱き締めても、嫌がる素振りはなかった…。
少し長めの休憩を終わらせようとした時、キュウは俺を振りほどいて、いきなり立ち上がった。
一瞬、何が起こったかわからなかった。馴れ馴れしくし過ぎたか……そう思って、見上げた。
しかし、正解は別だったみたいだ。
キュウは何度かキョロキョロと周りを見回すと、ある一点を見つめて遠吠えを上げ出した。
「アオォォォン! アオォォォーン!」
未だに判別がついて無かったけど、キュウは犬型系統の魔獣。その耳に何かを聞いたのだ。
…しばらく繰り返した後、キュウは駆け出した。
「あっ、おいっ!」
その後ろを慌てて追い掛ける。キュウは、俺を忘れて立ち止まりもせずに走っていく…。
気のせいでなければ、もしかしたら、もしかする。俺でそうならば、キュウはもっと期待を持っているのだろう。
危なく見失いそうになりながらも、頑張って追い掛ける俺の耳にも、やっとわかる音が聞こえ始めた。
女性と言うよりもまだ幼げにも聞こえる声が、遠くから微かに「キュウ」と叫んでいる。
背の低い木の枝などにぶつかりながらも走り続けると、さっきの声が近づくのがわかる。
「キュウーーーッ!」
何故か走ってる俺の速度よりも速く、その声が近付いたと思ったら、遠くに流れていく。
「ウォォオーーーン!」
ギリギリ見える尻尾の先から鳴き声がする。
そして、俺はようやくキュウに追いつけたのだった。
「あっちも探してるぞ、キュウ!」
励ますつもりでそう声をかけてやる。
キュウも当然だと言わんばかりに、元気よく「ウォン!」と反応を返して来た。
それは、キュウだけじゃなく、俺にとっても嬉しい。……やっと、やっと人に会えるのだ。
木々の隙間を影が通り過ぎていく。
そこを発信源に、遠くから近く、そして遠くに声が流れていた。
…その影に向かってキュウが吠える。そしてまた、今度はその影を追い掛けるように駆け出した。
やがて、朝とは違う拓けた場所に俺達は着いた。
先を行っていたキュウが止まっていたから、俺はほとんど歩く速度で、そこまで近付く。
…俺はそこで、感動の対面のシーンを見るのだと、ホッとした気持ちでいた。
しかし、状況は最高なんかじゃない!
近付くに連れてわかる情報は、キュウの威嚇の唸り声。
俺達は最高ではなく、この森で最悪の出会いに直面したのだ。
――転がる死体と砕かれた骨の残骸。
この森の頂点捕食者の魔獣の一つ。
熊型の魔獣に遭遇した―――。
冒頭にあるのは主人公の日記的なもの。いつ書いてるかは大体その日の夜か次の日の設定。