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職業(ジョブ)は真っ白! ~魂の器に、聖女を添えて~  作者: Gleditsia
第1章 遭難者になりました
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再会? いいえ……

前回:一転、また一転。でも有難い出会い。


銀月の月 21日くらい



 一度それを知ってしまったら、忘れられない。キュウの尻尾って凄く良い…。

 飼い主に戻して上げたいけど、出来たらほんの少しの間、貸してもらいたい。1日、いや2日くらいは。

 それだけで無くとも、あの動きを見たら旅のお供には欲しい。


 だけど、まずは森から出ないといけない。

 単純に食料の問題があるから急ぎたい。



 ――――――――――――――――――――――――――――――――― 



 ―森の中を知らない少女が歩いている。


 何かに乗っているようで、その移動する早さに追い付けない。何故、俺が追い掛けなきゃいけないのかわからない。


「待ってくれーーっ! そこに、すぐそこに居るんだっ! お願いだ!止まってくれーーーっ!」


 本当はもっと別な事を叫びたい。キュウは居るんだ。その少女を必死に追い掛けて、そう叫び続けた。どんどん離れていく距離とともに、キュウの事を思って胸が締め付けられるようだった。

 …せっかくの再会の場面なのに、少女はキュウを知らないかのように無視して、置き去りにしていく。

 キュウも諦めたように立ち止まってしまっていた。顔を見れば悲しげだ。涙が無くても、どれだけ悲しいのかが伝わって来た。


 もう少女の姿もない。

 …俺は堪らなくなって、キュウを抱きしめていた―――。


 ーーーーーーーーーー


「?」


 いきなり、抱きしめていたハズのキュウが居なくなった。

 ……そして、次の瞬間に俺はキュウに踏まれてしまっていた。


「ごめん~、起きたからやめて……」


 そのお陰で、さっきのが夢だったのを知る。

 昨夜、どんな状態で寝てしまったのか、なんとなく思い出した。

 …キュウのお陰で、久し振りに気持ち良く眠れた。


「おはよう、キュウ。ありがとう」


「ワォン♪」


 起きがけにお礼をする。

 先に起きていただろうキュウは、俺の頭側にお座りしていた。そこで初めて見た。


「あれ? お前ってそんな色してたんだ…?」


 ハッキリと覚えてなかったけど、俺はキュウが金色の毛をしていたと錯覚していた。

 目の前のキュウは銀色の毛をした魔獣だったらしい。やっぱり夜は目が利かないな。


「今日は、お前に頼みがあるんだ」


 独り言に近い会話をして、軽めな朝食をとった。



 ……俺の前を歩くキュウが、ゆっくりと森に分け入っていく。

 俺は、それをただ後ろから追い掛けるだけ。言葉を理解してくれる、そんな頭の良さに賭けて頼んでみたら、こうなった。


「本当にこったから来たのか?」


 道なんてものじゃない。獣道ですらない――。

 それだけキュウが、必死に俺の方に来た証明なのかも知れない。

 確かに、足元の葉と地面に、恐らくキュウの傷から流れた血があった。どんどん先にいくかと思われたキュウは立ち止まって、ちゃんとこっちを待っててくれた。


「今行くよ」


 種族の差もあるけど、とても歩き辛い。

 それでも、キュウにとっても不慣れなんだろう。体に葉っぱを付けたりなんかして、少し間抜けな格好だ。追い付いて、その背中からとってやりつつ、先に先に―――。



 やがて、拓けた場所まで導かれた。

 どうやら、キュウはここで他の魔獣に襲われてしまったらしい。

 …無数の魔獣の足跡、そして血が広範囲にあった。キュウのだけじゃないのは一目瞭然。


「そうか、お前って強いんだな…」


 素直に感心する。

 多分、他の魔獣に漁られてはいたけど、数体の魔獣の死体が残っていたのだった。


 労うように、キュウの背中を撫でて上げる。

 気持ち良さそうな声を上げてくれた。


 ……そんなほんわかした気持ちは、飛び出してきた魔獣の群れに邪魔された。


 だが、ガサガサ、ガサガサと茂みを揺らしていたのは俺達はお互いにわかっていた。俺とキュウは即座に戦闘態勢になる。


「無理はするなよ? お前のご主人が困るから、なっ!」


 話の終わりに合わせて、近くで威嚇していた狼型の魔獣を戦闘不能にしてやる。

 明らかな不意討ちはこれで打ち止めだ。


 ついでに、俺の後ろの方でキュウも簡単に1体の魔獣を仕留めた。

 体格で勝っていたのは間違い無いが、クビに噛み付いて持ち上げたと同時に、骨が砕かれる音が聞こえた。

 …忘れていたけど、キュウも魔獣だった。

 近くで聞いて、背筋が凍るような感覚を感じた。


 残りは4…だったのだが、我先にと逃げ出して行った。


「アイツらが、その傷の犯人か?」


「ワオォーーン! ウオォーーンッ!」


 まるで『俺はやり返してやった、勝ったぞ!』…なんて誇らしげな声を上げているように思えた。

 よくよく考えると、この結果は然るべきといったところだろう。どれだけ森を彷徨い、どれだけ空腹だったかわからないけど、キュウは満身創痍の状態だったし。

 ……それでも2、3体を片付けられるんだ。

 凄い偶然だったけど、そんなお供をもう一撫でしてやった。


 ーーーーーーーーーーー


 流石に昼間だと、口許の血が目立つし、その匂いで他の魔獣に襲われても困る。近くにあった水場で洗って、俺はキュウに問い掛ける。


「ここから先はわかるかな? もしかしたら、お前を探してる人がいるかも知れないから…」


 俺は、こっちに来た事がなかった。

 ……だって東の方だったからだ。


 ここから先、もしかしたら森から出れる可能性は、キュウをご主人が探しているという可能性に賭けてみるしかない。


「クゥーン…」


 だけど、キュウは弱々しく鳴き声を上げると、さっきまでと違って困ったように見える。


 そこからは、行き当たりばったりに彷徨う時間が続いた。

 何かを確かめるように、匂いを嗅いだりはしていたが、キュウも確信なくあっちへ行ったりこっちへ行ったり―――。


 体感、昼を過ぎたあたりで、キュウもついに立ち止まってしまった。

 それでも、今度はちゃんと獣道らしい場所だっただけはマシだと思っていた。


 不思議と、空をちゃんと見れるだけ木の成育が足りない空間。初めて森に踏み入った時に見た鳥が枝から飛び立つ。

 その周囲の雰囲気に安心して、食事をしてのんびり休憩を始める。

 本当に困っているのだろうキュウは、疲れているというより、心細さで元気がなかった。食事はちゃんと食べてくれたから、体力的には心配してない。夢の中でやったように抱き締めても、嫌がる素振りはなかった…。


 少し長めの休憩を終わらせようとした時、キュウは俺を振りほどいて、いきなり立ち上がった。

 一瞬、何が起こったかわからなかった。馴れ馴れしくし過ぎたか……そう思って、見上げた。


 しかし、正解は別だったみたいだ。

 キュウは何度かキョロキョロと周りを見回すと、ある一点を見つめて遠吠えを上げ出した。


「アオォォォン! アオォォォーン!」


 未だに判別がついて無かったけど、キュウは犬型系統の魔獣。その耳に何かを聞いたのだ。


 …しばらく繰り返した後、キュウは駆け出した。


「あっ、おいっ!」


 その後ろを慌てて追い掛ける。キュウは、俺を忘れて立ち止まりもせずに走っていく…。

 気のせいでなければ、もしかしたら、もしかする。俺でそうならば、キュウはもっと期待を持っているのだろう。


 危なく見失いそうになりながらも、頑張って追い掛ける俺の耳にも、やっとわかる音が聞こえ始めた。

 女性と言うよりもまだ幼げにも聞こえる声が、遠くから微かに「キュウ」と叫んでいる。


 背の低い木の枝などにぶつかりながらも走り続けると、さっきの声が近づくのがわかる。


「キュウーーーッ!」


 何故か走ってる俺の速度よりも速く、その声が近付いたと思ったら、遠くに流れていく。


「ウォォオーーーン!」


 ギリギリ見える尻尾の先から鳴き声がする。

 そして、俺はようやくキュウに追いつけたのだった。


「あっちも探してるぞ、キュウ!」


 励ますつもりでそう声をかけてやる。

 キュウも当然だと言わんばかりに、元気よく「ウォン!」と反応を返して来た。


 それは、キュウだけじゃなく、俺にとっても嬉しい。……やっと、やっと人に会えるのだ。


 木々の隙間を影が通り過ぎていく。

 そこを発信源に、遠くから近く、そして遠くに声が流れていた。


 …その影に向かってキュウが吠える。そしてまた、今度はその影を追い掛けるように駆け出した。


 やがて、朝とは違う拓けた場所に俺達は着いた。

 先を行っていたキュウが止まっていたから、俺はほとんど歩く速度で、そこまで近付く。

 …俺はそこで、感動の対面のシーンを見るのだと、ホッとした気持ちでいた。


 しかし、状況は最高なんかじゃない!

 近付くに連れてわかる情報は、キュウの威嚇の唸り声。


 俺達は最高ではなく、この森で最悪の出会いに直面したのだ。


――転がる死体と砕かれた骨の残骸。

 この森の頂点捕食者の魔獣の一つ。


 熊型の魔獣に遭遇した―――。

 


 


 

冒頭にあるのは主人公の日記的なもの。いつ書いてるかは大体その日の夜か次の日の設定。

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