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職業(ジョブ)は真っ白! ~魂の器に、聖女を添えて~  作者: Gleditsia
第1章 遭難者になりました
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夜の森の出会い

食事中、何かが現れた!


銀月の月 20日くらい(多分)



 今日は、ボロボロ。


 でも、久し振りに戦闘して、実は楽しかった。戦うってよりも全力で動いた事が、だ。

 …それに、戦利品はお肉の山だ!

 あまりにも可哀想な事をしてしまったけど、こっちも必死だ。すまない、そしてありがとう。

 良かった、とても美味しく頂けました。

 初めての狩り、大成功。



 ……それで、よくわからないけど、魔獣と出会った。

 わりといいヤツです。多分。可哀想に、俺と同じく迷子なみたい。どうしたら良い?



 ――――――――――――――――――――――――――――――――― 



 ―月明かりに薄っすらと照らされ、まるで神々しく、突如森に浮かび上がった魔獣のシルエット。

 都合良く、神の使いか何かが助けに来てくれたんじゃないか?……なんて、思ってしまいたくなる。

 生憎、俺は信仰もなければ、神様も良く知らない。…そんなに人助けが好きな神様も居たりするのだろうか?


 だけど、それが神様の使いのようなモノじゃないのに気がついた。


 足取り重く近付いて来るにつれ、大きく見えていたのは錯覚だったとわかる。その魔獣の背後、大きく揺れてボウッと浮かび上がっていたのは、そのモノ自身の尻尾…それも3本の尻尾だった。

 自分の知る限りの知識には、そんな神獣はいなかった。

 …更にそれだけじゃなく、きちんと手入れされているような毛並みに見えたのだが、ところどころがボサボサ、それに傷だらけな足。

 パッと見ただけでも、あまりにも痛々しい姿だった。


 単純にそう思うだけの余裕が戻っていた俺は、早々に緊張が解けて魔獣の心配をしていた。


「お前、一体どうしたんだ?」


 返るハズのない質問をしてしまう。

 人ではないけど、その問い掛けに耳をピクッとさせて、明らかにこちらが何かを知ってるように見てる。しばらく見つめ合うと、不思議と何かがわかる気がした。

 …きっとこの魔獣は人に慣れているんだ。

 だからって訳じゃないけど、こっちの気配(だけでも無いだろうけど…)を感じ、ここに来たじゃないかと思った。


 やがて見つめ合うのを止めた魔獣は、焚き火の前に悠然と進んで来て、それから不意に足を止めると何かを口で拾い上げた。


「あっ! それは…」


 ちょっと申し訳ないけど、その魔獣は、俺が噴飯してしまった、その肉の欠片を口にしたのだった。


 「クゥーン…」


 それを呑み込むと、弱々しい鳴き声を上げて、その場に座り込んだ。顎を地面につけ、まるでこっちに何かを訴えかけるように、低い位置から見つめる。

 …これはどういう意味があるんだろう?


 動物(魔獣)の声を聞くような、そんな特別な力など無い。それだけの挙動から推察するにも、知識が無いから悩む。


「う~ん…、そんな目をされてもなぁ…」


 すっかり、何故か気を許していた俺も離れた位置で腹這いになって、そんな魔獣の視線の高さに合わせて声をかけていた。


 「クゥーン…、クゥーン…」


 明らかに何かを伝えようとするのはわかるのに、まるで正解が頭に浮かばない。

 …そんな時、魔獣の首の近くで何かが焚き火の火を反射させた。ほんの一瞬、キラリと光ったのだ。


「ちょっとごめんな?」


 不恰好に腹這いのまま、ズリズリと近付いて、魔獣の首に手を伸ばした。

 魔獣は頭を上げて少し後ろに反らすような反応を見せたけど、直接体に触れようとしたんじゃないと察したのか、大人しくまた元の状態になってくれた。

 …そんな魔獣の首元で、俺は金属に触れたのを感じた。


「やっぱり…。お前は誰かと居たんだな?」


 細いチェーンの首輪?…なのだろうか、毛並みといい、この反応といい、この魔獣は人の手で面倒を見てもらっているのだと理解した。


 そして、それを辿るように手を滑らせていたら、更なる発見が見つかる。チェーンに鑑札のようなモノがあったのだ!


 さすがに、まだ100%の信頼などはないので、自ら顔を近付けて確認させてもらう。


「これは、もしかしてお前の名前なのかな…」


 彫られているのは、短い文字。最初に触った時も感じたが、職人ではない誰かが、一生懸命に彫り込んだモノ―――。

 イメージだけど、誰かがこれを愛情とともに彫ったんだろう、そう思う。


「え~と、キ、ユ、ウ…? …キユウ、違う……キュウか?」


 確認のために、彫られている文字を口にした。


「ワゥ!」


 そして、俺の声にその魔獣はしっかりとした反応を返して来たのだ。

 いきなり近くで反応されたので、思わずひっくり返ってしまった。

 …だけど、その反応でわかる。目の前の3本の尻尾の魔獣の名前だったんだ。


「そっか、キュウって言うのか、お前は~」


 何て事はない、ただの名前だったかも知れないけど、訳もわからない魔獣とは違う、ちゃんと自分の名前を持つ魔獣。

 …魔獣と言う存在だけど、何だろう?

 けして知り合いではないけど、知り合いに会えたような、そんな嬉しさを感じた。


「お前はキュウ、キュウだよな? 俺はクロノって名前なんだ、よろしくな?」


 一気に打ち解けたような、そんな不思議な感覚に、自分の名前をキュウに教えていた。

 どっちに反応したかはわからないけど、彼?(彼女?)はまた鳴き声を上げてくれた。


 すっかり雰囲気は友達とか知り合いとの再会といった感じになっていた。

 だからこそ、さっき置いておいた、キュウの状態が気になってしまう。


 また立ち上がって、キュウの周りを一周して見る。背中やお腹には目立った傷はない。木の枝や藪で引っ掛けた葉っぱやクモの巣くらいしかない。

 ただ足は前にも後ろにも、噛み付かれたような跡と等間隔の線――他の魔獣の爪痕があった。血は止まりかけていたから、少し前にやられてしまったんだろう。

 少し考えて、俺は手当てをしようと思った。


「なぁ、キュウ? 手当てしてやるから、体に触るな?」


 どこまで理解してくれるか知らなくても、俺はそうお伺いを立てて、キュウの足に触る。


「クゥーン…」


 それにまた弱々しい声を上げて、キュウは俺を受け入れてくれた。

 あまり手当てなんて経験はないが、傷を水で洗い流し、効果はわからないけど回復薬を傷の上からかけてやる。それに薬草を少し揉んでから貼って適当なツタで巻いた。

 やはり痛みに体を反応させてピクッピクッとしたり、「ァオ~ン」と遠吠えのように声を上げたりもしていたが、キュウは我慢してくれたのだった。


「何か変だけど、ありがとな」


 ーーーーーーーーーー


 全てが済んで、キュウがどれ程人慣れしていた魔獣なのかな…と考えていたら、腹の虫が鳴いた。

 ……そう言えば、食事の最中だった。


 キュウと焚き火を挟んだ向こう側、さっき焼いた肉は、すっかり冷めていた。


 焚き火の前に座り込み、冷めた肉を持ち上げた時、反対側のキュウの顔が上がった。

 試しに上下左右に振ってみると、視線だけじゃなく、顔もしっかりと追い掛けていた。


 ……あっ、そう言えば―――。

 思い出した。キュウが最初にした事を。


「そうか、あ~そう言う…!ちょっと待ってろよ?」


 今日の獲物、その足をまた切り取り、焼き始める。…当然、下処理は忘れない。

 ほんの少し経つと、辺りにまた良い匂いが香り出す。キュウも気持ちこっちに近付いた気がするけど、鼻をヒクヒク動かして待っている。

 …俺の腹の虫だって待っている。


「こっちはお前……で、こっちは俺の分な?」


 葉っぱの上に乗せた、イノシシ(型魔獣)の足3本、お待たせ~! 内心、ちょっと楽しかった。

 1本をキュウの前に置いて、俺は温め直した1本をとった。


「それじゃあ、いただきま~す♪」


 最初、匂いを嗅いだりするだけで、どこか遠慮がちに俺を気にしていたようなキュウは、俺が食べ始めると、ほどなく肉を夢中で食べ始めた。

 ちょっと大きいかなぁ、と思った太腿の肉は簡単にキュウの胃袋に収まった。


「気付いてやれなくてごめんな?…でも良かったよ」


 ……食べっぷりを見れば、どれだけ腹を空かせていたのかは良くわかる。

 多分、キュウは俺と違って、人慣れが過ぎて飲まず食わずに森をさ迷い、俺が偶然にもいたからここまでたどり着いたんだろう。


 そんな風に察したからこそ、キュウもまだ無事で、飼い主に悲しい思いをさせなくて済んだ事を良かった、そう思った。



 その後は、焚き火の側でキュウを撫でていた。まだ人恋しさはあるけれど、ちょっと望みが出て来た。…もしかしたら、キュウの知る人間に逢えるかも知れない。


 返る言葉は無くても良かった。俺はキュウに思い付く限りを話していた。

 そのうち、今日の疲労が睡魔を連れてくるまで―――。


 そんな俺にキュウは寄り添い、その体温を俺に貸してくれたのだった。

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