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職業(ジョブ)は真っ白! ~魂の器に、聖女を添えて~  作者: Gleditsia
第1章 遭難者になりました
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サバイバル

とりあえず、本編始め。


「これって何時代の地図なんだ…」


 既に引き返せる段階を過ぎて、俺は自分が持って来た地図を広げ、愕然としていた。

 そうだと勘を信じて我が道を進む―――。

 …当初のワクワクした、『俺は今最高の瞬間を生きているんだっ!』とかいう高揚感はもうなくなっていた。


 まぁ、最初から間違っているって言えば、そうだったかも知れない。

 ある人からのアドバイス、「西を目指せ」との言葉を聞いて、適当に向かった自分が悪いのだから…。太陽さえあるなら、自分の位置くらいはわかるから、『余裕です!』なんて言って、無計画に旅立つもんじゃなかった。


 行き着いた場所が森だったあたりで、少しは疑うべきだった。



 手付かずな自然にテンションが上がっていたからか、俺は薄暗い森の中でも真っ直ぐに歩いた。

 たまに出会う、ウサギやリスの小動物、目にした事の無い鳥、どこか散歩の延長のような緩い気持ちで楽しかった。

 ……1日目、2日目までは。


 そして、3日目にして現実を知る。

 ―見慣れぬ魔獣との遭遇。

 ―襲い掛かってくる動物。

 ―道を閉ざす森。


 …何故か、生き残りをかけた戦いが始まった。

 これが自然の摂理、ということだかは知らないけれど、理解が追い付かないうちに、俺は森に深く深く引き込まれていった。



 食料も早々に尽き、半ば自給自足のサバイバルをしながらの生活―――多分、6日目。


 俺は思い出し、この時初めてその地図を広げたのだ。

 そして出たのがあの言葉。

 ……だって、自分のいた国はわかるけど、地図の上では、こんな場所に森なんて無い。

 迷子のレベルではなく、存在しない場所に迷い込んだって事実は衝撃的な事じゃないでしょうか?


「先生に騙された…」


 独り言は怨み言しか出ない。ともすれば、これが狙いでけしかけられたのではないか、と思ってしまう。


 ーーーーーーーーーー


 また遠くで、魔獣の鳴き声が聞こえる。

 もう、標的として狙われているのを感じる。


「仕方ない、やるか…」


 まるで棒のような2本の細身の剣を持って、その瞬間を待つ。ガサガサと揺れ動く藪に注意しながら、静かに深呼吸をして心を落ち着かせる。

 一際大きくガサガサと藪が揺れた次の瞬間、横へと跳ぶ。

 …立っていた場所を、とんでもないスピードのイノシシ型の魔獣が過ぎていった。

 見るからに凶悪に、大きく鋭い牙が、その場所の地面を抉り2本の跡を残す。


 そんな状況に驚きよりも、嬉しさが爆発した。…これは、知らない魔獣じゃない。よく知っている魔獣。そう、色々と知っているのだ!


「ご馳走、いただき~っ!」


 その瞬間から、久し振りのまとまった食料としか思えない。

 そんな気を知らない魔獣:レイジボアは、俺を貪るつもりありありといった様子で、もう一度突進する為に身を低くく屈めた。

 …単独での狩りはこれが初めてだったが、嬉しさ爆発中の俺は、いつもよりも自信に溢れていた。


「牙を注意…、一気に避ける…、振り下ろし…、罠にかける…」


 教わった事を口にしながら、武器を構え直してレイジボアが駆ける瞬間を待つ。

 …そして、ここから数時間にわたる戦いが始まった。


 自信があっても、実力と経験が足りなかったから仕方ない。


 牙だけはヤバいから、それを避ける事に集中するのは良いが、スピードにはついていけなかった。当たらない訳でもないけれど、毛皮に浅い傷を残すのがせいぜいだった。

 良く考えれば、最後の一手、罠が無いのもそうだったが、あっちはこの森を熟知した動きをするのに対して、こっちは不慣れ込みで、知らないのだから当然。コケるは、引っ掛かるは、武器を振れないは…、とにかく上手いこといかなかった。


 ……ただ、この時の自分で唯一褒めたい事があった。

 ある思い付きを成功した事。

 罠も作れるという、便利なモノを持ち合わせていたって事を改めて知ったのだから。


 あっちは度重なる突進、そして致命傷とはならない無数の傷、こっちは自然にまで傷付けられ、レイジボアの予想外の反撃にあったダメージ。

 互いにズタボロだった。

 改めて向き合い、決闘のような感じ(想像だけど)。

 このあたりの時は、自信がなかった。暗がりに光る、殺気を放つ魔獣の目が怖かった。


 この一撃で全てを終わらせる…そんな感じで、多分渾身の突進をするレイジボア。

 俺は止まらず走り続けるそれを避けたり、避けれず吹っ飛ばされたり、牙が当たったりと散々だった。

 フラフラにまでなる必要性がなかったけど、逆転の一撃の為に、そうするしか出来なかったのだ。


 「プギィィィイーッ!!!」

 涎を撒き散らしながら、突っ込んでくる、トドメの突進。

 俺は何となく自分の人生を振り返りながら目を閉じて、一気に勘だけで跳んだ。


「うっ! いったぁ…」


 ほんの少しの後で、打ち付けられた衝撃に苦痛の声が漏れる。それと同時に、離れた位置から聞こえた、地面を滑る音と、重たい物が地面を揺らす衝撃。


「ビギィィィイ!ブギィィィイイ!」

 そして、悲痛な叫び声を上げる、レイジボアの鳴き声…。

 丁度、大木で止まっていた魔獣に、俺は近寄る。

 …見ていて気分が良いものではなかった。

 前足2本がギリギリ残ってブラブラしていた。それが自分がした事だとしても、残酷な事をしたものだと暗い気持ちになった。


 起き上がる事がもう出来ない魔獣に、俺はトドメを差した。剣を深々と突き刺し、その体が動かなくなるまでの短い時間、悲痛な謝罪を繰り返していた。



 すっかりと日が落ち、暗さが増す中でのやっとの決着。

 色々あって、喜びなんてなくて、泣きそうになりながら深く大きく息を吐いた。

 そして、大きな声で叫んでいた。


「もう嫌だ…。早くこんな森出たいーーーっ、人に会いたいーーーっ!!」


 返ってくる反応が無い中、もう一度、今度はため息をついて寝転がった。

 木と木の葉っぱの隙間から、欠けた月が蒼白く浮かんでいるのが見える。


「疲れたと思えば、そっか、もう夜かぁ」


 寂しさを誤魔化す為の独り言が森に消える。

 …旅を始めて、話をしたのは行商の馬車に世話になった時。

 そこから2日、森に入って6日くらい…より一層寂しさを感じる夜ともなると、無性に人恋しくなるものだ。ついでに今夜ばかりは、長い戦いの後の疲労も含めて気が滅入っていた。


 暫く、地面に転がっていたけど、情けなく腹の虫が鳴いたタイミングで起き上がる。

 当然、大きな食料を手に入れた事だけで腹が膨れる訳じゃない。

 予想外の肉食魔獣との遭遇、それに横取り…なんてされても困るのでアイテムボックスに収めた。


「やっぱり、しんどいな…。あちこち痛いし」


 立ち上がろうするだけで、関節が軋む。膝に手をついて、休み休みゆっくりと体を起こして、寝床にしていた場所に帰る。


 ーーーーーーーーーー


「?」


 どうにも警戒心が尽きかけていた。

 それでも、寝床への道すがら、何度も繰り返し、何かの気配と視線を感じたのだが、月明かりくらいの明るさでは目も利かない。

 ついでに耳を澄ますのだが、森の中の夜には耳も利かない。キレイな虫の鳴き声、野鳥の声、明らかに夜行性の動物と魔獣の遠吠えに咆哮―――。

 とにかく、そこから情報を得られる知識が無いので、諦めた。


 毎夜、軽い結界がてらに松明を先につける。

 それから焚き火を焚いて、この日も生き抜いた事を感謝する。

 とりわけ、この日は寂しさに堪らず独り言を増やしながら、遅めの食事の用意を始める。


 ちょっと前は、その死体とその状態を前にキツい気持ちで一杯だったのに、空腹感とはより残酷だ。最早、あの魔獣をただの食料にしか思っていなかった。


 切れかかっていた、その2本の足を切り取り下処理をしてから焚き火の上で焼く。

 立ち所に香りだす、肉が焼けて脂が溶ける堪らない匂い、そして冷たい夜風に揺らめき上がる、温かそうな湯気。

 より一層、それを欲しがる腹の虫。


「まだだ、もう少しもう少し…今だっ!」


 誰もいないから、こんな恥ずかしい事でも簡単に出来る。皿代りの大きな葉っぱに一本を置いて、早速、足に齧り付き、先ずは吹き出す。


「熱っ! あ~あ~勿体無い…。やってしまったなぁ…」


 少しだけでも吹き出してしまった肉の欠片に心残りを感じる。

 そんな事はすぐに忘れて、また齧りつく。

 肉とか、そんなご馳走にありつける幸せが、生きる気力を回復させてくれた。


 行商に分けてもらっていた塩だけの味付けでも、わりと太く大きな足の一本を容易く胃に詰め込めた。…自分でもビックリ。



 ……だが、そんな幸せな食事の時間は、突然の乱入者によって、唐突に中断することになったのだった。


 ――気が付かないうちに、焚き火の向こうに魔獣の影があった。

 

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