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職業(ジョブ)は真っ白! ~魂の器に、聖女を添えて~  作者: Gleditsia
第1章 遭難者になりました
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一時帰国

前回:熊は消えた。でも何かいたっぽい。何それ?

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――


「ヒドいよ、クロノ…。うぇぇ…、まだ気持ち悪い……」


 帰りの馬上、ハイドは何度もそう繰り返していた。

 多分、あの魔獣の消えた瞬間に立ち会っていたら、もっとヒドい気持ちになる。

 …ハイドの愚痴を耳に入れながら、俺はそう思っていた。


「それはもう良いって…。それよりも、俺はこれからどうなる?」


「え~? 僕としてはすぐに病院行き、入院、かなぁ?」


 ……あの後、俺はある程度は説明をした。

 ただある程度しか、そう出来なかった。討伐隊として欲しい情報をこっちから選ぶことは出来ないし、どこまで話せば良いかなんてわかってなかったのだ。

 結果、俺の説明は進んで戻ってと、何度も繰り返し始めたらしい。

 フォルテはなんとも歯切れ悪いって感じていたと思う。


「やっぱり、この状態では無理かも知れないですね…。出来る限り、情報は早い方が良いのですが……」


 少しずつ難しい表情に変わりながら、フォルテはそう言った。

 やがて、何かを呟きながら、彼女は考え込み出した。ただ間が悪く、続々と報告などがそこに集まり出したために、その時間を失ってしまった。

 言ってしまえば、俺の相手ばかりに時間を使う訳にもいかないって訳で、フォルテは新たな指示を出し、その結果、先行して帰還する事にしたのだった。


 ……………


「とりあえず、今日だけは治療院で大人しくしてなよ。…怪我もそうだけど、色々あったんだから」


「……ん。わかった…」


 それも仕方のないことだろう。俺はハイドに答えを返して伸びをする。

 …やっぱり、幾らか治癒魔法を受けてはいても、体の中の悲鳴が聞こえた。


(キツい1日だったなぁ…)


 思い返せば、どれだけの無茶をしたのかも、何となく霧がかかったように曖昧になっていく。

 自分の人生の中でも、激動とも言える1日だった。それはけして幸運な1日じゃないけど、やっぱり少しは幸運もあった。

 新たな出逢いと、旧友との再会―――。


 話題をすっかり変えて、ハイド達との適当な会話をしながらのんびり街道の移動。

 いつの間にか、周りは俺の見慣れた風景へと変わっていた。


 そして、もうそろそろで街が見えるって時に、俺は思い出したかのように限界を迎えた。


 これが緊張の糸が切れるってやつだろう。

 変わらなく響く馬の蹄が石畳を叩く音、一定のリズムで揺れる馬の振動。

 暫く感じることのなかった、何の危険もない平穏な時間は、温かくて、懐かしくて、心地好かった。


「大丈夫だよ、クロノ。落とさないから、ゆっくり寝てて良いよ?」


「ん…そうする。……ありがと……」


 …ちゃんとそう言えたかわからない。それほどあっさりと、俺はこの時最高に気持ち良く眠りに落ちた。




 ーーーーーーーーーー



 久し振りのベッドの上。

 森の中、固い地面と違うだけでとんでもなくよく眠れた気がした。

 それはあくまでも気持ちの上でだ。体の痛みはそれなりに残っていたし、結局はその違和感で起きてしまった。もう少しいけないか(寝れないか)と思って枕に顔を埋めてみたけど、そうも言ってられなかった。


「治療院じゃ無かったの?」


 視界の端に映った人影に話し掛ける。

 見れば手慣れた様子で()()の中を物色していた。


「お茶って、この棚じゃ無かったっけ?」


 彼女はそ知らぬ顔して、なおも探しまわる。いい加減に答えて貰いたい。


「そんなのとっくに使い切ってあるわけないって…」


「ああ、そう言えばそうだったね。忘れた」


 そう言って、仕方なくと言った体でコップに水を入れて運んで来た。

 それを手渡しながら、彼女はベッドに腰掛ける。


「で、何で俺の家なんだ?」


「最初こそちゃんと治療院に運んだよ? でもさ、クロノの家があるんだから、こっちの方が良いでしょ、色々と」


 相変わらず、説明が足りなくて困る。言いたい事はわかるが、決定的に話を単純にし過ぎるのは彼女、元同僚のアキの悪いところだ。


「えーと、何も無いから帰されたってことで良いのか?」


「そうそう、何か見た目に反して大丈夫だって、ハイドも話してたし、フォルテもそれならって」


「あっそ」


 不思議なペースで会話が終わる。

 こっちはそれでも状況が理解出来たからそれでも良い。

 だからといって、アキがいる理由はわからない。第一、彼女はフォルテの側が居所だろう。


「フォルテは他になんて?」


「えっと…『明日、私も話があります』とか言ってたし、私にも今日はもう良いって」


 また微妙に言葉が足りない答えを返して、彼女はコップの水を一気にあおった。

 ……要はアキも仕事上がりと言ったところだ。


「じゃあ、帰れば良いだろう?」


「え~! 久し振りなんだし、別にいいでしょ? それにさ、あの魔獣と戦ったってことだし、その話を聞かせてよ~!」


 こんな怪我人に対して、何も考えないでそんな事を言った。

 ……本当に、コイツも変わらずマイペースな奴だと、呆れるばかり。


 そこまでの戦闘狂でも無いクセして、昔から何故だかこんな事を言って困らせる。

 状況で察する能力のなさも変わらず、アキは期待した目で俺を見ていた。


(仕方ないなぁ…)


 などと、目の前でタメ息をついたところで、アキはやっぱり理解してない。

 懐かしい感じと言ったらそう。でも面倒くさいってのも感じた。


 出来たら後で…そう言っても良かったのだが、結局は俺が折れた。

 でも、話始める前に、一言だけ言っておきたかった。


「そうだ。アキ、久し振り」


「うん、久し振り! ……それより、早く―――」


 目覚めたのは、俺の家。

 そこに居るのは元同僚。気付けば外は夕暮れ時になっていた。


 


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