知り合いだから
前回:《指定:Aクラス》戦、決着(仮)!
銀月の月 22日(1日遅れ)
森では色々あった。《指定:Aクラス》だか、とんでも魔獣と出会い、ズタボロにされてしまった。
更に、精神的にもズタボロに……。
散々な日は終わったけど、気持ちは晴れず。どうしてこんな目に、なんて言えない。
ごめんなさい、本当に。
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「わざとじゃないって…。本当に迷子って言うか、遭難してただけで…」
「はいはい。…それで?」
リーダー格の女性の言葉が刺々しい。
俺が言ったことは嘘なんて1つもないって言うのに……。
地癒術士のハイドの手当てを受けながら、俺は言葉攻めにあっていた。
お陰でなんとか起き上がる事が出来たのに、大変だった。
「閉じ込められてるのも知らなかったし、あんな化け物がいたなんて知るわけないって…」
「本当に、ですか? 本当に本当です?」
何故こんなにも信用されないのだろうか?俺が一体何をしたって言うのかな、この娘は。
「あっ、そうだ! コレ…だ、ほら見てくれよ!」
自分の間抜けさの証明にもなるのだが、旅立つ時に渡された地図を取り出して、地面に置く。
「これは?」
「見ればわかると思うよ? ついでに言えば、それが元凶だ」
未だに不機嫌そうな表情で、彼女はそれを拾い上げ、地面に広げる。
「これは…、クロノ、本当ですか?」
「うわぁ~、本当に何コレ? うわぁ~!」
「止めろ、止めてくれよハイド!」
彼女はそれを見るなり、我が目を疑う、という感じに驚いたようで、おまけでそれを覗き込んだハイドは、どこか信じられない、ついでにこれを信じるのか?…というニュアンスで声を上げた。
だから俺は、敢えて近場(側)でやり易いハイドにだけ突っ込みを入れた。
……時と場合を選んで欲しい。言葉だって時には暴力なのだ。
「それでもやっぱり、貴方と言う人は~!」
「すみません!」
また呆れから怒りに着火したらしい彼女の言葉を遮り、ルナが話に割って入ってくれた。
それは、割って入ったと言うよりも確かめたかった事を聞いておきたかったらしい。
因みに、治癒術が使えたらしいルナは、さっきからこちらを気にしながらも、ミニとキュウに手当てをしていた。
やっとそれも終わったので、このタイミングになったのだ。
「何でしょう、ルナさん? …もしかして、ご家族に何かあったのですか?」
心配そうな声色で彼女はそう言う。適応力が高いのか、ミニとキュウを家族としてちゃんと見ているみたいで、本当に心配しているのだ。
「いえっ…ミニとキュウは大丈夫です。それよりも、他の家族に会いたくて…」
「ああ、そうですね。…うーん」
彼女も状況は知っているのだったが、その事については、本当にどうしようかと悩んでいるみたいだ。
「うん、そうね。大丈夫ですよ、ルナさん。この人が居れば十分です。…だから、行っても構いませんよ?」
ルナの不安そうな表情に、彼女は優しく微笑み返す。その様子を見ているわけだが、こう言う対人スキルの高さには感心するものだ。
「あ、ありがとうございます! えと…フォルティ……」
「遠慮なくフォルテと呼んで下さい。その方が楽ですし、友は皆さんそうですから、ね?クロノさん?」
「そこで何で俺に……。まぁ良いか。ルナ、本人が良いって言うんだ、フォルテって呼んで上げてくれぇ…」
「?」
瞬間、然り気無くフォルテのランスが脇腹に当たる。上手い事それはルナの見えない位置だった。最後の辺りで声を詰まらせた俺を、ルナは不思議そうに見ながら、次の瞬間には笑顔を見せた。
「エヘヘ、フォルテさん、ありがとうございます♪」
「フフッ♪ルナさんもありがとうございます」
お互いにありがとうと、そして笑顔を交わした。
「あっ、ちょっとお待ちください。…マキ!ルナさんの護衛と関所での説明をお願いします!」
「は~い!姫様!」
…何故そっちを選ぶのか? 俺と同じだけ間抜けな選択をするフォルテに呆れた。
「えっ!」
聞き逃してくれ!…とも思ったのだが、ルナはしっかりと聞いてしまったらしい。
驚いた次の瞬間には、俺に耳打ちして来た。
「ねぇ、クロノ。フォルテさんって騎士じゃないの? お姫様って本当? 気安く呼んで良いの?」
そう言えばそうだ、ルナはこの国の人間じゃなかった。まぁ、きっと言いづらいか、見た目で騎士かと思うのも仕方がない話だ。
…どうせフルネームで自己紹介してたのだろう、フォルテは。
「本人が友って言ったろ? きっとルナもその中には入ってる。気にしないでフォルテって呼んで良いのさ」
それは他の国では良く思われないだろうが、フォルテを含めて、この国での王族はこんな感じだ。…ついでにルナにはそう教えてやる。
「王族とて人、です。先ずは人に距離なく接してこそ。…一風変わってますが、我が家の家訓で、大切な教訓です」
フォルテもついでを補足する。ちょっと混乱気味だったルナも、最終的には納得した。
…元より、ルナは人懐っこい明るい娘だし、友達と言う言葉が決め手といった感じだろう。
そしてルナは、この場のやり取りも知らぬ天然騎士とともに関所に向かって行った。
その去り際にフォルテは、『困った時には騎士団のフォルテを』と、後の保証もして上げていた。
「ではではクロノさん? 説明をお願いしますね?」
あのルナに向けた微笑み。その表情のまま、フォルテは俺にだけは物凄い圧力をかけてくるのだった。
……何で俺だけ?