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職業(ジョブ)は真っ白! ~魂の器に、聖女を添えて~  作者: Gleditsia
第1章 遭難者になりました
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消えたモノ

前回:覚醒的な。…とにかく、クリティカルヒット!


「くぅっ! ハァハァ!」


 体にぶつかった衝撃で、呼吸するだけでも苦しい。せっかくキュウのお陰で持ち直した体は、またボロボロになってしまった。

 それまでとは違って、直撃よりも先に、それごと斬った感触がしていた。だから、幾分かはマシだったと思っていたが、衝撃はそこまで散らせなかったらしい。

 ……でも、それは仕方ない。それよりも―――。


 フラフラと立ち上がって、魔獣を探す。

 4、5メートル先に、闇が歪に蠢いていた。自分の精一杯を込めて、それに手応えさえもしっかりと感じたというのに、尚も魔獣からは闇が溢れている。


「そんな…。何でだよぉ!」


 悔しいって気持ちよりも、哀しいって気持ちが強く湧き上がる。

 それでも俺は、まるっきり動かない魔獣に近寄る。見てわかるほどの致命的な血溜まりに一歩一歩踏み出して、よりツラい気持ちになっていく。


「どうして、どうしてこんな…」


 もしかしたら、討伐隊が来てもこんな結果になっていたかも知れない。

 でも俺は、あの瞬間から、こんな結果にはしたく無かったのだ。

 そして、まるで俺の心の内に共鳴するように、剣の輝きも無くなった。


 ……不意に蠢いていた闇が止まった。


「? …なんだ、この感じは?」


 体に異様な寒気が走った。それまでの感情も忘れるだけの、そんな心まで底冷えするような、何か。

 慌てて俺はそこから跳び退く。


 その時、闇が大きく膨れ上がって、その周囲の景色まで歪めた。

 ……そして、まるで空気が抜けた風船のように萎んでいき、言い様のない気持ち悪い何かを放って唐突に消えたのだった。


「うぇっ……。なんだ、今の…?」


 指先までが冷たくなるほどの冷たさ、それと、立って居られなくなるほどの恐怖…なのだろうか? …とにかく、体が震えて止まらない。


 あの魔獣の本体、大型の熊の魔獣の姿も消え去っていた―――。


 まるで現実感のない終わり。

 血溜まりと、その上を歩いた、自分の足跡が地面に赤く残っていた。

 けして見間違いでもなければ、幻や夢でもない。体に残ったダメージも、ちょっと力尽きたミニもキュウも、確かにここにいる。


「そうか、本当にあったんだよなぁ…」


 少しずつ、自分らしさが戻ってきた気がする。それは良いようで、非常にマズイ事態だった。

 ちょっとどころじゃない、かなり切迫している。どれだけの時間がかかったかはわからないが、討伐隊が来てもおかしくない。

 それはそれとして、あの声はルナも一緒だと言ってた。…ミニとキュウのこんな状態を見せる訳にはいかない。


 そして、俺は最後の最後でまた失敗をした。




 ーーーーーーーーーー




「クロノ~! ミニちゃん、キュウちゃ~ん!」


(ああ、聞こえる。ルナの声だ。心配そう…。)


 キュウの背中にもたれながら、その声を聞いた。そして、段々と馬の蹄の音が近付く。地面を振動させるその姿も大きくなってきた。

 馬に跨がった5人ほどの姿が見える。それと、遅れて馬車も2台。


 そして、先行する5人の馬があの血溜まりの前で止まる。

 一番前の、多分討伐隊のリーダーと思われる人の背後から、ルナが飛び出してきた。


「キュウ~、ミニ~!」


 家族の名前を叫びながら、2体の魔獣に抱きつく。何とか()()()合わせることが出来て、とりあえず俺も満足。


「あれっ…? ね、ねぇ、クロノは大丈夫なの…かな?」


 家族それぞれの無事の確認と抱擁を済ませたルナは、ようやくお気付きになったらしい。


 別に、感動の再開に水を差すつもりがなくて、黙っていた訳じゃない。

 何でかとってもシンドいから、俺はキュウの背中でぐったりしていたのだ。

 ……正直、遅すぎない?…とか思ってしまったのだが、そう突っ込みを入れる元気もない。


「ルナさん、その2体の魔獣が家族…で良いのですか?」


「あっ、はい!この子達が私の大事な家族です。あの魔獣とは関係ありません!」


 ルナの話に割り込み、リーダーらしい人が確認を取る。きっとルナからも話は聞いていたのだろう。それでも、ちょっと信じきれず、ルナは声を上げた…そんな感じだと思われる。


「いいえ、すみませんでした。…我が騎士達よ! この魔獣は対象、そして敵ではない!」


 ()()は後ろに振り返ると、彼か彼女らに向かって、そう宣言する。それから、テキパキと命令を出した。


「アキとマキは周辺を警戒、アイラは探知魔法にて魔獣を探索、ハイドは怪我人の治療をお願いします。…他は街道の被害状況を確認、それでは散開!」


 声を聞いただけでも…だったのだが、知り合いだ。そして更に、聞いてしまった名前も全員が悉く知り合いの為、俺はとても居心地が悪くなった。

 ……単純に考えても、やましい事がないのだが、俺は失踪者のようなものである。この森で遭難していた事など知られたくない。


「…で、クロノさん。…ハァ~、全く何をしているんですか?」


 声からして、かなり呆れている様子。普通にしていても良いのだろうか?

 ……なんて事を考えていると、俺はキュウから落とされた。


「あうっ! …勘弁してくれよ、キュウ」


 ただでさえ動けないというのに、キュウは俺を踏みつけて、動きを封じ込めてしまった。


「まったく…。死んだフリまでして、もうっ相変わらずの人ですねぇ…!」


 そんな言葉が頭上より降って来た。

今度はどことなく、怒っている様子だった―――。

 

 


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