やっと見つけた
前回:ミニ(小さな竜)が大活躍。主人公は…ねぇ?
激しく転がる俺は、何とか止まった。
いきなり攻撃された為に、受け身も取れず、体にはそのダメージがより大きく感じた。
未だに平衡感覚が定まらず、立ち上がる事が出来ない。……頭もクラクラしていた。
そんな俺の直ぐ横で、金属音が鳴った。
「俺の…剣?」
それは、ルナを受け止める時に投げ出し、その後で見つける事が出来なかった、二振りのうちの片割れ。
どっちにしろ、片腕が動かない為に諦めていたのだったが、それが今ここにあった。
…違う。運ばれてきたのだ。
驚く俺の目の前を、スッと横切る影。
それは、これでも掴め、と言うように目の前から動かない。
時間差で、少し戸惑う背中を不意に突っ突かれる。
ようやくそれが何かを思い出して、その前足を借りて、フラつきながらその横に立ち上がる。
「ありがとう、キュウ…」
その体に体重を預ける。
そうして立ち上がったところで、自分が思いのほか転がっていなかった事もわかった。
俺はキュウによって止められていたようだ。これは本当に偶然だったのだが、お陰で余計なダメージを負わなくて済んだらしい。
キュウの背中を優しく叩く。
だけどキュウは、尻尾を叩きつけるように俺にぶつけて、不機嫌そうな鳴き声を上げた。
(そうだ、まだ終わって無いもんな…)
「ごめんって! 今やるってば!」
実のところ、本来は俺が主導権を持つハズなのに、キュウは急かすように吠える。
ちょっとだけ緊張感に欠けたやり取りをしたことを反省した。
さておき、不機嫌そうなキュウもそうだが、眼前の敵から何かをされる前にしなくてはいけない。
持っていた方の剣を、俺は地面に突き立て、もう1本の剣を探す。
「アウッ!」
その剣を、キュウから渡される。…気遣いされて、どうやら咥えて待ってくれていたらしい。
「あ、ありがとう、ございます?」
そんな事よりも、という具合に今度は睨まれた。だから、急ぎ次の手順に入った。
……渡された剣の柄頭と、地面に突き立つ剣の柄頭の宝石を合わせ、呟く。
「解放…」
その結果を見届ける暇もなく、突然、グイッとキュウの側に引き寄せられた。
「あっ! このっ…!」
剣へと伸ばしていた手が空を切る。
…だが、次の瞬間には、そこから大きく地面が突き上がり、剣を弾き飛ばした。
何と言えば良いか…うん、もの凄く腹が立った。
確かに戦闘中の不注意だったりはするのだが、邪魔をされたのが悔しい。
単純に武器を弾かれただけで、俺は戦えなくなったのだ。
何とか出来ないかと、剣へと向かおうとすると、容赦なく地面がこちらを狙って来る。
魔獣の相手をキュウに任せても、ほんの隙があれば何度も繰り返し、同じ状況が続く……。
やはり状況が良くない。
戦えない自分もだが、キュウも限界になりつつあるからだ。
その感覚が、常に伝わって来る。だから、俺も焦る気持ちが拭えない。もしかしたら、今が最大のピンチかも知れない。
絶えず振れ続ける、その状況…。
2対1と有利な状況は、俺も戦えてこそだ。せめて武器が…なんて事も言えなくなっていた。
(くそっ!くそっ!くそぉっ!)
心の中も頭の中もぐちゃぐちゃになる。
……俺は自分の身勝手を捨てた。
きっと後少し、もうすぐ…なんて、そんな事ばかりが自分の中にずっと引っ掛かっていた。
全部が人任せで済んでしまう、そんな結果ばかりを求めていた。
まだ自分は、自分の「出来る事」をしてない。だからこそ…!
そうして一歩を踏み出した時、フッと体が軽くなった気がした―――。
目に映るものが、全部、後からやって来る。
僅かな隙に突き上がる、魔獣の大地を操る力を越えて、徐々に魔獣との距離が詰まる。
振り下ろされる前腕を潜り抜けた、その勢いのままに拳を繰り出す。
……瞬間、魔獣を覆う闇を霧散させる。
(キュウ! 今だ!)
「ウォゥゥゥーーーッ!」
3本の尾が逆立ち、バチバチと音が響く。
そして、その力を纏ったキュウが魔獣の足元へと一気に加速する。
―ゴキッ!と嫌な音が遅れて聞こえる。
魔獣の闇の上を、蒼白い光が無数に走る。その中心は剥き出しになった、魔獣の足。…それも、俺がつけた傷の箇所。
「グガァッ! ガァアア! グギャアアアーーッ!」
痛みに辺り構わずその豪腕を振り回しながら、アイツがバランスを崩し倒れ込む。
それから、深く入った牙を魔獣の足から外して、踵を返してキュウが走り出す。
(よしっ! このタイミングで……!)
ここだと思った瞬間に、一声鳴いたキュウの鳴き声を聞く。それに俺も助走をつけて跳ぶ。
「やった!」
上手く、俺はキュウの背中にしがみつけた。
喜ぶ声を上げたが、これだけが良くてはダメだ。
気持ちを抑え、集中力を高め直す。キュウの背中からずり落ちないギリギリまで滑り、目一杯に手を伸ばした。
また一段加速して、地面から突き出した土塊を避ける。
俺が必要だと思う動きが、キュウを動かす。
……そして、2度3度と躱すと、ついに俺の指先がそれに届いた。
触れた瞬間、握りしめる。その状態自体が初めて知るというのに、それは驚く程簡単に馴染んでいく。
心の中の呟きをキュウが受け止め、スピードを緩めてアイツに向き直る。
その背中の俺も、あるべきもう1つのカタチとなった武器とともに体勢を整え直した。
「やれるだけの全てを、出来る事を見せてやる!」
俺は目一杯に叫んだ!