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職業(ジョブ)は真っ白! ~魂の器に、聖女を添えて~  作者: Gleditsia
第1章 遭難者になりました
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出来ることを

前回:自分であって、自分じゃない感じ。


 (本当にこんな状態で…?)


 急に感覚が繋がった瞬間、体の動かしかたがわからなかった。

 それに、すっかりと忘れていた痛みと苦しさ、疲労がやって来たせいで倒れそうになったのだ。それでもギリギリ何とかなったが、違和感があってやっぱり辛い。


 意思とは合わずに動く体。徐々に馴染んで来るのを待っていたが、そんな暇はなかった。

 …背中がゾクリとする。

 それは明らかな敵意と殺意だった。忘れてた訳じゃない。ほんの少しだけ、注意が逸れただけだ。


 振り返る間もなく、地面を打ち付ける足音とともに大きな影が覆い被さっていた。


(最悪なタイミングで…)


 目の前の敵に対して、この魔獣が目溢しなんてする訳がない。…わかり易く、最大の攻撃を放つ予備動作を始める。


 今の自分には、それを避ける余裕は少し足りないようだ。少しだけは直撃からは逃れられるかも知れないが、そのダメージは計り知れない。

 ……ただし、それはさっきまでなら、だ。


 間違いなく咆哮を使うだろうが、俺は賭けて見せる、今の自分とあの声に。

 自分じゃない自分ほどには出来ないが、今の自分に出来ることをしないといけないんだ。



 俺はアイツに背を向けて、ヨロヨロと逃げ出す。


 ……ただこれは単なるフェイク。本当の目的から目を逸らす為の一手。

 そして予想通りに、アイツは俺を逃がさないように、俺の周りに土塊を突き出させた。

 流石にそれも攻撃の一部なので、一番危険な箇を破壊する為に剣を振り下ろす。


「えっ、あれっ?」


 やれば出来ると剣を振ったのだが、何故かイメージとズレた。

 ……と言うか、土塊の方が()()()出て来たのだ。

 そこにあるように見えたのが実際にはなかった。…錯覚だったのだろうか?


(あ…っと、そんなことより!)


 とにかく、道も確保出来たのだから、とそこを突破する。ほんの少しの地面の凹凸にも引っ掛かりそうだ。

 まぁ仕方がない。別に格好つかなくても。ワタワタと空間を掻きながらバランスをとって、一歩でも先へと踏み出す。


 …より冷たい感覚が背中に走った。


(―――! ごめんな、ミニ…)


 攻撃されると感じた。だから、無理やりに振り返って、アイツに向き直る。

 それは一瞬のタイミングに合わせる為。

 心の中で、この瞬間に頼るべき小さな竜に謝りながら、力を渡す。こっちの準備も間に合った。

 この一瞬一瞬がとても長く感じた。

 そして、魔獣の纏う闇が薄くなって、気持ち悪いくらいに静かになる。


「グォォォオオオーーーーーッ!!!」


(『竜の唄声(ドラゴン・ヴォイス)』「竜の唄声(ドラゴン・ヴォイス)!」)


「キュォォオオオーーーーン!!」


 心の中で、浮かび上がった言葉を復唱する。すると、ミニが高らかに鳴き声を上げた。

 


 ―目の前に渦巻く闇色の暴力的な咆哮に、ミニが放った風が激しくぶつかり合う。


 その攻撃と攻撃の音が、高く低く、大きく小さくと波打つように体を通り抜けていく。

 そして段々小さくなって、その変わりにもの凄い風が吹き起こる。

 中心近くの木々はその枝と幹をザワザワと揺らし、地面では小石が舞って周りで様々な音を立て続ける。風に向けて踏ん張る俺にもビシッ、ビシッとぶつかる。


「頑張れ!後少し、あとちょっと…!」


 地面に爪を食い込ませ、必死に口を開けてるミニを応援する。瞬間、胸に痛みが走った。

 ……限界に達した。それが俺に伝わって来たのだ。


 だけど、それでもミニは頑張ってくれた。

 目一杯にその翼を広げ、より大きく鳴いたのだった。


「ギュオオオオーーーーーーーーッ!」


 何とか堪えていた風が一段と強くなって、体が飛ばされそうな、暴風に変わる。

 やがて一瞬、耳に響く高い音。魔獣の咆哮は消え、小さな竜のその唄声だけがこの場に残る。…せめぎ合う力がなくなって、竜の唄声は魔獣へとぶつかる。

 激しい風は魔獣を巻き上げ、追い討ちをかけるように地面に叩きつけた。そして唄声は地面にぶつかると力が砕け、突風となって道を駆け抜けたのだった。





「ありがとうな、ミニ…。あとでルナにも褒めて貰えるからな?」


「キュィイ~……」


 …あの後、吹き荒れる風をやり過ごした俺はそう言って、頑張って力尽きたミニの側に駆け寄っていた。

 束の間のやり取りだったが、直ぐに向き直り、また臨戦態勢を整える。


 …残念なことに、あれだけの攻撃が直撃したにもかかわらず、あの魔獣はまだまだ敵意剥き出しで起き上がっていたからだ。


「不死身だとかっていうのか…?」


 見た目にはそれ相応にボロボロな魔獣。…それに、あの闇がその体を蠢き、体の輪郭が酷く歪に見えて気持ち悪い。

 ただの影のようなそれの赤い2つの目が、恐怖を覚えさせる。


 しかし、闇でもなければ、実体のない影でもない。手応えこそ鈍いが、足止めするくらいの大ダメージは与えられたハズ……。

 剣を握る手に、腕に、駆ける脚に力を込めて、俺は魔獣へと追撃をかける。


「せいっ! やっ! とりゃあああ!」


 見よう見真似に、自分じゃない自分がやったように、駆け切り抜け、目一杯の攻撃を展開する。

 …だけど、今度はその攻撃が闇を切り払うことが出来ないのだった。


(くそっ! 俺にだって出来たハズだろ…)


 頭の中のイメージは、唯一あの魔獣に傷をつけた時の攻撃だった。

 それが未だに出来ないことに、酷く焦っていたのかも知れない。


 ―瞬間的に、注意が魔獣から外れた。


 自分の手を見つめて、剣を強く握り直す。剣を振る自分を、イメージを強く思い描く。

 ……それは、攻撃する前にしておく基本。

 完全にタイミングを間違っていた。


 次に魔獣に目を映した瞬間、俺は地面を転がっていくのだった。


 


 

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