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職業(ジョブ)は真っ白! ~魂の器に、聖女を添えて~  作者: Gleditsia
第1章 遭難者になりました
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自分と自分

前回:不思議な事が起きた。


 刺したというよりも、そこに入れた、嵌めたって感じがした。

 突き入れた短剣が胸に吸い込まれていく。


 痛みもなければ、苦しくもない。

 むしろ、こんな事が前にもあったな…という、不思議と懐かしい感じ。

 感慨深げにその感覚に浸っていると、胸に一瞬だけ痛みが走った。


 その瞬間、俺の体が勝手に動き出した。

 意識も感覚もあるのに、まったく言う事を聞いてくれない。


「『キュウ、頼む』」


 そして勝手にそう言って、アイツに向かって走り出した。

 すっかり状況が飲み込めないのに、俺は魔獣の相手をし始める。

 動いているのが自分だとは到底思えない。

 …その動きは、普段の自分でも無理だとしか思えない事を、俺の意識に刻み込んでいく。


 あれだけ恐怖を感じていた魔獣に、しかも満身創痍の体なのに、正面からやり合う。

 片腕だけで、アイツの振り下ろす豪腕を受け流し、その隙を埋めるようにその脇を駆け抜けて切り払う。

 アイツが追いかけるように腕を払えば、やはり剣一本で受けて、その腕に剣を振り下ろす。


 ―見ているのが現実なのかわからなくなる。


「『やっぱり、限界なのか…』」

(それの一体何処が限界なんだ!)


 自分に対して、俺はそう叫ぶ。

 見ている戦いの次元はそれだけ違うのだった。


「『見ればわかるだろう?』」


 ……驚いた。俺の言葉に返事をした。


「『そんな事よりも、よく見ろ!』」


 また一気に駆け抜けて、今度は足を切り払って見せる。やっぱり、どこをどう見ても、限界なんて言葉が嘘のように思える。

 でも、その意味はともかく、見ろと言われた以上、ジッと見てみる。


 左へ右へ、アイツの正面から背後へと、まるで圧倒的な戦闘をする自分の体。

 それだと言うのに、まるでアイツが衰えるように見えない。俺の体はもう何度もアイツを攻撃していたハズだった。

 到底真似出来ないが、何度かのうちで、思いっきり入った斬撃もある。


(なんでだ? そんなハズ……あっ!)


 気が付いた。俺の体の攻撃は確かに、その一瞬でアイツを斬ってはいた。

 …だが、その傷はすぐに闇に被われて、傷を回復していたのだった。


(そんな…こんなに攻撃してるのに…)


 信じられない……。

 どう考えても、手数や威力の大きな攻撃をしても、ある意味無効化されている。

 それは大きなショックとなって、俺に諦めをチラつかせる。


「『俺であって、俺じゃない。…やっぱり必要なのはお前であって、お前じゃないと出来ない』」


 そんな風になっている俺に、俺が答える。冷たいとまでは言わないが、凄く冷静にそう言ってきた。


「『わかっただろう? これが限界という意味だ』」


 事も無げにやってのけていたのに、それは無駄にしかなっていなかったのだった。

 俺はただそれを呆然として聞いた。迫る絶望の足音を聞いたような気分だ。


(せめてもう少し、時間を……)


 自分に対して、そう懇願する事しか考えられなかった。

 《指定:Aクラス》だとか、よくわからない相手にも戦える自分。そんな希望縋ろうとするのも当然の事。

 ……だが、俺は冷たく告げる。


「『無理だ、それも。どうやら時間的にも限界のようだ……』」

(そんな…!)


 言葉の言っている意味を察した。

 今の状態がどういう状態かがわかる。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 


『あとちょっとだけ借りるけど、我慢して…?』


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 自分がしている事が何かを忘れた。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 ……さっきの事だ。忘れてない。


 よくわからない状況だが、あの時も同じだった。

 確証はないけど、俺はあの時、忘れたんじゃなく知らなかっただけ。逆に今度は、ハッキリと見ていた。だから、わかる…わかるけど、また戻ってしまうにしても、最悪なタイミングだ。


「『さっきも言った。逆に、お前だからこそ出来る事がある。こんな風に出来るだけの俺が必要じゃあない…』」

(そんな事を言われたって…!)


 出来る奴に言われる事なんて、保証にもならないのだ。俺から俺へと変わってしまえば、その先どうなるかは、もうわかりきっている……。


「『よく()()。俺に出来るなら、絶対にお前にも出来る。それは紛れもない事実だ。後は自分を強く信じてくれ!』」


 自分自身に強く言われる。こんな命のやり取りの場でなくとも、それは正論だ。


(わかった。それが出来て何とかなるなら、俺は賭ける…。でもお願いだ。ギリギリまで、教えてくれ!)

「『わかった。それと、ついでにこれも―――』」


 再び、戦いに身を投じる。

 ただ見るだけだった、驚くだけだったさっきと違う気持ちで、一挙手一投足を追いかける。


 それに合わせてされる呟きにも、耳を傾ける。

 けして、それが出来るというイメージにならなくても、俺自身の可能性である、一つのカタチにはなる。せめて、忘れたりしないように、記憶に焼きつける―――。



 ……そして、ついに時間は来てしまう。


 あの魔獣から離れて、俺の足が止まる。

 体感したのは、長い時間にも思える。でもきっと、それほどでもない。


 つまり、本当の時間稼ぎはここが正念場になる。


「『ここまでだ…。あとはクロノ、お前の時間だ。…任せた』」

(俺なりに頑張ってやる、任せろ!)


 今度は、正真正銘の俺の戦いが始まるのだから。俺は当然だと思って、そう返していた。




 だが俺は、いきなり起きた異変についていけなかった。


 体から力が抜けて、膝が地面につく。

 思わずそのまま倒れてしまいそうな体を、地面に剣を突き刺すことで堪える。

 例え中身が違っても、やれる事をする為にも、今は倒れてる場合じゃないんだから。


 

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