手助けのカタチ
修正しまくりで更新が遅れに遅れてすみません。
まるで親が子供を褒めるような感じの声。
俺としてはそんなつもりでした事じゃない。これは偶然に結果がそうなっただけだ。
…でも、結果オーライ。
ただの偶然でも、アイツの敵意をこっちに戻す事が出来たみたいだった。
「そうだ、こっちだ…化け物!」
精一杯の虚勢で叫ぶ。こうしているだけでも、俺の心臓はバクバクと大きな音で鳴っている。
ただそうでもしないと、きっと状況は戻ってしまう…そんな風にイメージが出来ない。
「ガァァァアアアーーーッ!!!」
…またアイツが吼えた。
明らかな怒りが体を突き抜けていく。やっぱり竦んでしまいそうになる。
「うるさい、この野郎っ!!」
だから張り合うように、俺も叫ぶ。
出来るなら逃げたいけど、自分でこうしたいって言ったし、逃げるにしてもルナの家族も一緒に行かない訳にはいかない。
――だけど、そうするにはどうしたら良い…?
ただ向かい合うだけで済むハズがなく、俺は考える時間を失う。
……アイツが動き出した。
俺がつけた足の傷で、その機動力は無かったハズ。でも、それは二足の場合だったのだ。
いきなり振り下ろした両の前腕が地面を叩く。それだけなのに、衝撃が俺の足元をグラリと揺らす。
そしてバランスを崩した俺に向かって、突進して来た。
「ヤバい!」
ひとつの状況が長く続いていたから、すっかり忘れていた。
何とか踏ん張り、突進を避ける為に横へ跳ぶ。…その近くを猛然とアイツは駆けていった。
不恰好に避けたままの俺に、あとから風圧がかかる。それに押されて、膝をついてしまった。
「グォォオオオ!」
あの前腕を地面に突き立て、アイツはその態勢をこちらに向け直す。
そして、赤い目を光らせ闇を吐き出した。
……それは間違いなく追撃する事の証明。
唸り声を上げて、さっきと比べものにならない力を纏った塊となって襲い掛かって来る。
もっと速く、もっと危険な攻撃。
避ける為にも、先程よりもっと遠くに跳ばなければならない―――。
「痛っ…!」
ステップを踏んだ短い助走、それであとは跳ぶだけ……その瞬間、激しく体を何かにぶつけてしまった。
――それは、アイツが作った土の壁。
逃げる場所を失い、気が焦る。そして迫る黒く大きな影に、絶望を感じる。
俺の体から力が抜けて、膝から崩れていく……。
『そのまま!伏せて!』
より強く大きな声が頭の中に響いた。
そして次の瞬間、土の壁が突如吹き飛んだ。
視線だけを向けると、蒼白い光の玉が破片も巻き込みながらアイツに向かって飛んでいく。それも避けるアイツを追い掛けるように……。
「うぉおおっ」
何が起こったのかと思う前に、俺の体は別の方向へと引っ張られる。
光の玉はアイツの周りで弾けて、更に無数の光の玉になって纏わり付いて、激しい光を放った。
――バチンッバチンッと大きく弾ける音。
その光景を、俺は引きずられながら、呆然と見つめていた。そしてまた声が話し掛けて来る。今度は申し訳なさそうに……。
『ちょっとだけ、借りたよ?』
「あ…? えっ……?」
何を言ったのか、すぐにはわからなかった。
『……横を見て?』
言われるままに、顔を上げる。その瞬間驚き、言葉が飛び出していく。
「キュウ!?」
俺の腕を咥えたキュウが、そこにいた―――。
キュウは俺の声を聞くと、その顎をスッと腕から離してくれた。
『あとちょっとだけ借りるけど、我慢して…?』
「ちょっと待て! 一体何を―――――」
質問をしようと言葉を紡いだ瞬間、また体から力が抜けていく。しかも、さっきよりも。
視界までが唐突に暗くなり、意識がボヤけていく。
小さな竜の鳴き声、3本の尾を持つ魔獣の雄叫びが、ほぼ同時に聞こえた。
ーーーーーーーーーー
……朦朧とする中、見えてないハズの場所が見えてくる。
キュウに横乗りになっている女性の姿が浮かぶ。
…違う。キュウじゃない。
その魔獣は9本もの尻尾を器用に揺らし、歩いている。その背に乗る女性は何かを楽しげに話し、笑い、ずっと明るい笑顔。
……それは、俺が直面している状況とは違う。
どこまでのんびりとした友達の輪の中、その瞬間を満喫しているような感じ。
一言で言うなら、『幸せ』……そんな場面。
ただ見ているだけでも、羨ましいって思った。大事な仲間…友達に囲まれ、家族に愛されているのがよくわかる。
何故かわからないけど、目頭が熱くなっていた。涙を堪えて、もう一度女性を見る。
そして、俺は手を伸ばした―――。
………
「グォォオオオーーーッ!!!」
突然体を突き抜ける魔獣の咆哮、それに体がビクッと反応して、伸ばした手を引っ込める。
「アァァアーーーーー!」
まるでさっきと同じように、負けないくらいに俺は叫んだ。
別に、そうする必要は無かったかも知れない。
でも、何かを邪魔されたようで、腹が立ったからそうした。
そして、いきなり振り下ろされてくる腕を躱して、こっちも剣を振る。
「あれ?」
今、自分がしている事が何かを忘れた。
思わず動きを止めてしまった俺に、もう片方の腕が降ってくる。
……間一髪で、そこから飛び退く。
地面を転がる間、アイツの周りで弾ける音が聞こえた。
「そう…、そうだった…」
攻撃を躱せた事にホッと胸を撫で下ろしながら、すぐに立ち上がって敵を見る。
その周りをキュウとミニが交差していった。
そうだ、今はアイツと戦っていた。
勝ち狙うわけじゃない、時間稼ぎの為の戦い、その真っ最中だった。
さっきまでの一人だけの戦いは終わって、復帰したキュウとミニとの共闘。
後は、ルナが報せに走った討伐隊を待つだけの状況だった。
――頼む、早く来い! 限界はすぐそこだから――