謎の声と
前回:結構頑張りました。
目を開けると、聞こえた声に感じた微笑みも何も無かった。
そこにはさっきの続き、現実がその跡を大きく残していた。
…倒れているキュウは、多分気絶している。
…同じく倒れているミニは、小さくても竜の特性か、落ちたけど無事なようだ。
…そして、ルナも無事だと思う。間に合ったようで、ちゃんと俺の腕の中にいた。…少し震えているけど。
それともう1つ、嫌な事だが、アイツはまるで勝ち誇ったかのように、二足で立って空に向かって吼えている。
でも、不思議な事に俺のつけた傷跡は回復して無かった。さっきまでは、何かしらの大ダメージでも、時間さえあれば闇が被って傷さえも残さなかったのに……。
『多分、キミだったからだよ』
状況を確認して、ふと湧き立つ疑問。それに対して答えるように、またあの声が聞こえる。程よくわからない事を言ってきたのだった。
「俺だからって何だよ?」
『キミがやったんでしょ?』
それは確かにそうだ。あの傷はまぐれだろうと、必死になった俺がやった攻撃のせいだ。
『ほら、やっぱり♪』
実際には、魔獣との戦いが終わって無いってこの状況に、謎の声は、明るく、どこか嬉しそうに言うのだった。
……いい加減、この声がどこから聞こえるのか困ってしまう。
別に気にしないでも良いハズだったが、そうしないといけないって、何かにそうされてるみたいだった。
「ルナ、ルナっ。…大丈夫か?」
「っ! うんっ、へ、平気だよ!」
不意に自分に向けられた言葉に、ルナは驚いたようだ。…まだ震えているようだし、怖い目にあった事で軽くパニック状態なのだろう。
それでも、ちゃんと俺の言った事に反応を返すくらいではある。
だから、今出来る事、今必要な事を伝えた。
「お願いがあるんだけど……」
「だけど、…だけど、クロノは大丈夫なの?」
俺の話を聞いてから、ルナが逆に俺の心配をする。それはそうだろう。大変なのは、言った俺の方なのだ。
色々と考えなくても、きっと見てるだけでわかるくらい、頼りないし、ボロボロだし……。
「多分、大丈夫だって!」
そんな根拠は無いが、こうした方が良いハズだ。勢いよく立ち上がると、俺はそう言って、足元に転がる手のひら大の土の塊を掴み上げた。
ルナも俺に続くように立ち上がって、遠目に家族を目に映す。それから俺を見つめて、決心したように頷いた。それを見て、
「…じゃあ、頼んだぞ、ルナっ!」
俺はそう言って、掴んだ土塊を思いっきり空に投げた。
…それを合図にルナは森の中に分け入り、木々の間を縫うように、関所の側へと駆け出した。
それほどの時間を掛けず、空に投げた土塊が木の葉にぶつかり、どこかの木で砕ける音がした。…丁度、すっかりと気分良くなっていたアイツの気がそっちに向いた。
すかさず、足元にあった何個もの土塊も同じように続け様に投げる。投げる。投げる―――。
辺り構わず投げたそれは、様々な位置に着弾して、狙い通りに奴の気を反らす事が出来た。
『面白い考えだね?…それで、次はどうするの?』
変わらず、どこからともなく聞こえる声が、耳というか頭というか、とにかく、自分の中に響く。
「うるさい、気が散るっ!」
そこまでは気にならないのだったが、次策を問われても困るので、声を荒げる。
それは元から考え無しで、瞬間の思い付きで土塊を投げただけだったからだ。…一応、アイツの気をルナ達から離す為だったが、それ以上先なんてのは、結果次第だ。
『ねぇ、キミはアイツをどうしたいの?』
今度は本当に不思議そうに、声はそう問い掛けてきた。
出来る事なら、倒すのが一番だろう。
…でも、今の満身創痍な自分達には無理な事。じゃあ撃退するのか、と考えても、それはやっぱりアイツ次第だろう……。
そうなると、今のところは逃げる事にしたい。今、すぐそこまで討伐隊が来てるハズなのだ。
……だったら、その力に縋るのが最善な事だと思う。
『……それで?』
続く声の問は、もっと心の部分を聞いてる気がした。だから、俺は答える。
「キュウとミニを放っては逃げれない! …逃げたくない!」
それが出来る人間かと聞かれても、即答でそんな訳無いって言える。…現に、二度に渡る交戦でも、俺はキュウ程は戦えていない。なんとなく、チマチマと攻撃しては無様にボコボコにされてる。
でも、『出来るのにやらない』のは嫌なんだ。
…離れた場所で動かないキュウ、起き上がっているけどフラついているミニ。
それに比べて、左腕が動かないだけの自分が、今ここで何かをしないで、どうするのか!
『やっぱり、キミはそうだろうね…。うんっ。あの子達は気にしないで良いよ♪ だから、キミも頑張って!』
言葉の意味がわからないけど、その声は、俺を励ますように、そう告げた。
――アイツは、さっきの音の先を手当たり次第に、その力で攻撃していた。
きっと、小躍りしそうな程の愉悦の時間を害する、自分をまだ恐れぬ愚か者がいる…そう思っているんじゃないだろうか?…本当にそれが、ただただ気に食わないって感じだった。もうそれは八つ当たりのようにも見える、過剰な攻撃。
…だと言うのに、それが終わるとアイツは、キュウに向かって歩きだし、あの時のようにその足元に土塊を出現させた。
それはキュウを完全に仕留める為の行動。
「止めろ、この化け物がっ!」
何度も無造作に投げた土塊。それより小さな、破壊された街道の石をアイツに投げた。
それで、その行動を邪魔出来るならそれでいい。…いや、いっそそうなって欲しい。
投げる石は、大したダメージにならないが、それでも大きな的には当たる。上手く当てれなくても、それがいつかこっちを気付かせる役に立てばと、何度も全力で投げた。
やがて、その願いが叶う。
……少し大きめな石が、アイツの足にぶつかった瞬間に、絶叫とも言える声を上げたのだ。
「グガァァァアアアアーーーーーッ!」
叫ぶとともに、アイツは自分が作った土塊を、自分の腕で破壊した。
それは、キュウを掴み上げようと屈んだその時、アイツの足に刻まれた…俺がつけた傷跡に石が的中したからだ。
覆うものの無い出来立ての傷。その痛みに同情はするが、すまないとは思わない。
そして、アイツはその赤い目を俺に向ける。
……必死で感じ無かった、その恐怖心が戻ってしまう。
近くに転がる、自分の剣を咄嗟に拾い上げて、こっちはその切っ先をアイツに向けてやる。
『フフッ。頑張ったね?』
またあの声が、笑いながらそう言った―――。
ちょいちょいペースがおかしいですが、間延びしようと話の締めまで頑張ります。