久し振り!
前回:ボス戦からは逃げられない!
道を遮る、土と倒木の残骸―――。
アイツが何故必要以上の破壊行動をとったかの理由がこれだった。
完全にアイツは、俺達にキレながらもこんな策を張っていたらしい。
アイツもこっちを見て、学習したってことだろう。俺達が動き回れるのは確かに限定的な場所だった。
森の中では戦えない。それに、何処にいるかも完全には把握出来ない。
それに対して、奴はこの森を知り、何なら破壊しようとも気にせず戦う。……そうやって生きて来たのだ。
最初からアドバンテージは奴にあった。
正面切って戦おうにも、疲労やダメージを負った今は結構キツい。
頼りにして来たキュウだって、俺のせいでかなり消耗している。走るだけ走って、それに雷系統の魔法を使っていたんだ。それも、何度目かの交戦からは打ち止めの状態―――。
「腹立つなコイツ~!」
―どれだけしつこく俺達を狙う必要があるって言うんだよ!
俺は心の中、アイツに向かってそう叫ぶことしか出来ない。口から出た言葉も本心だが、理由のわからないで標的にされて、既に3度の遭遇だ。
俺達は別にコイツのテリトリーを犯してない。最初の遭遇時は逃げれたハズ。
……まさか、逃がした? 何の為? 遊び?狩り?
頭の中でごちゃごちゃして、何も出ない。
何となく、ガキ大将のそれに近いのか?
…抵抗されてマジになった、そんな感じ。
そこで少しだけ恐怖が振り返して来た。
「これで成獣……じゃあないっていうのか?!」
魔獣の生態は知らない。でも、今思った通りなら、この状態で《指定:Aクラス》なんて化け物の以外の何でもない。
急に自分の中のイメージが崩れる。微かに希望的に見えていた『生き残る』姿が消えていった。
そこを、その空白の時間をアイツは逃さない。
足元から迫り上がる土が、俺の腹を直撃した。息が詰まる、そして吐き気。その場に膝をついて、込み上げるものを吐き出す……。
出来るなら、ダメージを負った中身まで全部出してしまいたい。
涙を浮かべながら、アイツを見上げる。そんな俺を、ただ振った腕で後ろに吹き飛ばした。
確かに痛かったが、まるで殺気がなく、邪魔だから退かした…そんな感じが悔しい。
上手く出来ない呼吸を必死に繰り返して、また始まったキュウとアイツの戦いを睨みつける。最後の最後で、絶対に傷をつけてやる…そう思った。
アイツが本気で腕を振るうだけで、キュウは風圧に煽られてしまう。
細かな傷では、アイツは止まりもしなかった。そんなダメージは、闇がすぐに治してしまうから。
本能的に急所を狙うが、高さで防がれ、より深い踏み込みは、咆哮と、土の塊で遮られる。
「スゥー、ハァー、スゥー、ハァー」
せめて邪魔くらいしてやる。…俺は、焦りながら呼吸を整える。
夢を見る少女の、その家族を助けて上げたいのだから。
「うおおおお!」
両手の剣に、自分の足に力を込めて、地面を蹴った。
―今までで一番の手応え。
自分にかかる魔獣の血。目の前の魔獣の足に、大きな傷が開いていた。
それは、自分でも思いがけない戦果だった。
その隙を逃さず、キュウが追撃をする。
……ほんの僅かな勇気が、状況を好転させ始める。
遠くの空から、ルナの声が届く。
「クロノーーー!キュウーーー!もう少しで討伐隊が来てくれよーーー!」
確証もなく信じた、あの兵士の言った通りだ。本当に、待ちに待った救援。俺達の無茶が、やっと報われるのだ。
消えていった、可能性が甦ってくる!
……ならば、俺達が次にすべき事は、その討伐隊との合流だ!
「ルナ、キュウ! 関所に向かおう!」
だが、そんな俺の考えが甘かった。
それもまたよく聞く話。
……手負いの獣の脅威の話。
完全に想定外だったのだ。
何度も回復しては立ち上がるような化け物が、偶然の一撃でその状態になってしまうなんて……。
高度を落として、ルナは離れた位置で地面に降り立とうとしていた。
俺の叫ぶタイミングが悪く、そのルナの行動の方が早かった。
それにいち早く気がついたキュウが駆け出した途端に声を上げながら、道沿いの木に叩きつけられた。
「ギャウンッ!」
キュウが苦し気に一鳴きした。そして、俺の目の前を過ぎて行く大きな影―――。
そう、アイツの本能的な行動も早かった。
黒い影がそのままルナ達に向かう。
先に危機を察したミニが疾風を放ちながら、無理やりにルナを乗せて高度を上げる。
アイツは一気に射程に捉えていた。
そして、空中のルナ達に向かってあの咆哮を上げた。
「きゃああああ!」「キュィイイ!」
吹き飛ばされたルナ達が、悲鳴を上げ、別々に離れ地面に向かって落ちていく。
俺だってただ見ていた訳じゃない。
ルナの落下点に向かって、全力で走っていた。
それがどんなに無防備な格好で、アイツに背中を向けたとしても、そんな事を考える余裕は無かったのだ。
なんで上手くいったかわからない。
でも、俺の伸ばした腕にはルナを抱き止めた感触があった。
そして感じた体温と、謎の感覚。
ただ、俺が出来たのはそこまでだった。
その後、自分がどうなってしまったのか、全然わからなかった―――。
………
『大丈夫?』
どれだけ時間が経ったかもわからない……。
多分、ルナを抱いてる。その体温を確かに感じていたからわかる。
体の感覚を確かめると、左腕以外は感覚がしっかりとしている。
『ごめん、またやっちゃった…』
そして、さっきからやけにハッキリと聞こえる声が、俺に向かって話しかけていた。
『でも、ありがとう』
知らない声は、マイペースに俺にそう言った。何の事かがわからない。
それでも、その女性の声は、言葉を続ける。
『また逢えたね。タイミング悪いかもだけど』
なんだろう? 俺は知らないハズだって言うのに、その言葉に懐かしさを感じていた。
『あっ、ごめん。そっか…まだかな?』
どんどん、自分の言いたいだけを話し続ける声。その言葉の意味は……?
『…うん。でも良いや。……久し振り!』
何故だか、その声の彼女が微笑んでいるのを感じた―――。
ハイペース更新中。とりあえず、そろそろ……?