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職業(ジョブ)は真っ白! ~魂の器に、聖女を添えて~  作者: Gleditsia
第1章 遭難者になりました
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《指定:Aクラス》

前回:2度あることは3度…


 賭けともいえる願いは通じず、門は閉じきったまま。確かに行動に移せるだけの時間も無かっただろうが、潰えた希望は仕方ない。


 それよりも、キュウ共々吹き飛ばされて、門にぶつかった事の衝撃の方が問題かも知れない。

 アイツが速かろうと、十分な距離があったと慢心していた。希望の先だった門に打ち付けられ、転がる土塊を見て、それを理解する。

 ……まさか、こんな使い方があったなんて。


 そんな事を思っていると、門の上から兵士の声が響く。


『目標確認ー! 《指定:Aクラス》の魔獣、間違いありませーん!』


 門を背中に立ち上がる俺の思考が停止する。

 目の前のそれが、この状況の原因の魔獣…それはいくら何でも信じたく無い事実だった―――。



 それでも、昨日と比べればまだマシかも知れない。

 距離があった事もそうだが、飛んで来たのは細かくなった土の礫だったし、あの咆哮の衝撃波も多分それで弱まっていた、と思う。

 ……十分痛いのは変わらないけど、体は動く。


「グルルル……!」


 どうやら、キュウも無事なようだ。

 アイツに向き直って、威嚇している。

 ……だけじゃない。何か蒼白く体を光らせていた。


 まだある距離をキュウが駆ける。単純なスピード勝負なら、キュウの足が勝っている。

 それに、何か昨日とは違うことをするつもりなんだろう。より一層輝く銀色が、キュウの3本の尻尾が、アイツを撫でるようにギリギリの高さで跳び越えていく。


 その瞬間、アイツの咆哮よりも高い音で、破裂したような、パンッと弾ける音がした。


 それがどんな事か理解できないけど、熊の魔獣は体の制御を失ったように、いきなり道沿いの木々に向かって激しくぶつかっていく。

 ただ、その勢いでもって数本を倒しながらも止まりはしない。何とか止まるために、前腕を掻いて地面を抉る。

 ……整地された道が捲り上がっていた。



 そんな戦いの最中、門の前の俺の耳に向こう側の声が入ってくる。 


『お願い! すぐそこに家族が居るのっ!開けてってば!』


『だ、ダメだ! 開けたら、魔獣がこっちに来てしまう! もうすぐ、と、討伐隊がくる! それまでは絶対に開けんのだ!』


 向こう側では、ルナが懸命に食って掛かってるようだ。だが兵士には聞き入れて貰えない。

 唯一の救いは、彼が言った、討伐隊の到着が全てだ。


『このわからず屋~!』


『あっ! 待て、おいっ!誰か、その娘を止めろーー!』


 ……声だけで状況はわからない。けど、ルナは何かをしようとしたらしい。増えていく兵士の声に掻き消されて、状況がわからなくなった。


「おいっ! 何があったんだ! おいっ!」


 俺は門を叩いて、大声で叫ぶ。

 こっち側はまだキュウのお陰で、まだ何とかなっているが、見えない向こうには誰も答える者が居ない。

 俺は誰かが気付くまではと、門を叩き叫び続けた。


「痛った!」


 何度目か、その叩く手が、門に触れた瞬間にビリッとした痛みを感じて、俺は門から離れる。

 次いで、背後からは閃光が光った。

 ……そして、遅れてくるあの破裂音。そこに、アイツが苦しがる声が混ざる。


「キュウ?」


 振り返った先、逆立っている3本の尻尾がゆっくりと垂れていく。

 自分の周囲で小さな光が弾ける中、キュウはアイツを睨みながら俺の近くまでやって来た。


 どんな脅威か知らないけど、その様子を見るだけで察する。……終わって無い事を。


 ならば、まだこっちを標的にしてるうちに、ここから遠ざけよう、俺はそう考えた。

 …またキュウに乗せてもらい、少しも焦げて、燻ぶるアイツに攻撃をする。


 多分、キュウの攻撃で神経がやられているのだろう。付け焼き刃な騎乗攻撃にも、反撃すら満足にいかない。

 それに、さすがにこっちだって学習する。

 ()()さえいれば、相応のスピードがあれば対処は可能だ。


 俺はあまり上手く攻撃は出来ないでも良かった。挑発さえ出来れば、注意さえこっちに向けれたら。

 …兵士を信じれば、討伐隊は来てくれる。

あとは逃げ回ればこっちの勝ちだ。


 アイツを見れば、その雰囲気に怒りを纏っているのは一目瞭然。…あとは、アイツが動き出したらで良いと、キュウから降りてアイツに近付く。

 少し、余裕が過ぎたかも知れない。

 アイツの攻撃範囲に入りかけた時に気がついた。

 …俺は慌ててキュウのところに駆け寄り乗る。


「キュウ、行ってくれ!早く!」


 俺の声に合わせて、キュウは国境側に走り出す。

 その瞬間、予備動作なくアイツが咆哮を上げて、周囲の木々をなぎ倒した。

 間一髪と言った状況に、間に合って良かったと束の間の安心を感じた。

 ……でも、実際にはそんな余裕は無い。

 またしてもアイツは()()したのだ。

 それがどんな原理か知らなくて良い、逃げ続けなくてはいけない――――。



 あわよくば、本当の国境の川まで逃げれば……確証もなくそう思っていた。

 逃げるだけでなく、わざと足を止めての攻防で時間を費やす。行ったり来たり、目まぐるしく戦況が変わる。

 今度は、俺も戦闘している。

 それこそ、イノシシに対して使った罠で、アイツの前腕は一度大きなダメージを負った。


 それなのに、アイツが纏う闇が時間とともに、そんなダメージさえ治してしまう。


「くそっ!あとどれだけ時間が必要なんだよ!」


 苛立ちがそのまま口から飛び出す。

 どうして自分がこんな目に合わなくてはいけなかったのか?……怒りの矛先を、アイツに我武者羅にぶつける。


 最悪、生き残れたら、どうでも良いって思った。


 もう地面を抱くのは何度目か、体からする土の匂いに、自分の血の匂い。

 なんでこんな選択をしているのか、自分でも呆れる。

 再びキュウに乗って、一度本気で逃げ出す。

 目指すのは、国境まで―――。


 そんな俺達の全力の逃走は、途中で終わりを迎えてしまった。


 そこは、3度目の始まりの場所。

 アイツは、またしてもこっちの予想を越えた用意周到さを見せつけて来た。


 この先には進めない……。


 



ちょっと間延び中。やりたいところはもうすぐ(予定)

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