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職業(ジョブ)は真っ白! ~魂の器に、聖女を添えて~  作者: Gleditsia
第1章 遭難者になりました
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最悪、三度(みたび)

前回:開けろ~、開けてくれ~!


 結局、演技の必要性なんてなく、誰一人としてこちらを見る者が居なかった。

 それは幸いとも言えるかも知れないが、ここからは出る事が出来ない、その事実は覆りはしない。


「聞くだけ最悪だっただけじゃないか…! ルナとミニは良いけど、俺とキュウはどうすりゃ良いかなぁ?」


 この場合の選択肢は2つ。

 やり過ごすか、ここ以外…要はさっきみたいに、ルナの誘導ありきで森を抜ける、しかないのだった。


 一応、もう1つの案も考えたけど、その考えは棄てた。

 ルナに飛んで戻ってもらい、向こう側から兵士の感情を揺さぶって、門を開けさせようとも思ったけど、彼らは王命を反古にはしないだろう。

 …俺の国の王様は、彼ら民を愛し、愛される王様。そんな王様の意思を無視する訳ない。


 そして、更に追い討ちがかかる。


「ごめん、クロノ。今日はもう無理だよ…」


 謝りながらルナは言った。そろそろ夕方、森に分け入った俺達を誘導するにも、空からでは暗すぎて見えないのだそうだ。


「じゃあ、せめて広い場所無いかな?…魔獣が何かわからないけど、結界を張って夜は越えたいんだ」


 ざっくりと説明して、空からの探し物を頼む。開けた空間なら、まだ安全に過ごす事は出来るのだ。


 何度か俺達の頭上を行き交い、程無くして、ルナ達が地上に戻って来た。


「向こうに小屋みたいなのあったよ!」


 それは幸運な事に、より安全を得られる場所の発見という情報。また飛び上がっていったミニとルナに導かれ、夕日に向かって道を進む。整備された道が有り難い事この上無しだった。



 ーーーーーーーーーー



 ……ルナが見つけた、小屋らしきもの。それはどうやら、この道での休憩所と言った感じで、簡単に見つける事が出来た。

 それでも、俺達が道に出た場所よりも国境よりだった分、すっかり夕日が沈むギリギリとなってたどり着いたのだった。


 この小屋も封鎖の影響で閉まっていた。

 バレたら困るけど、俺はその閉じきった小屋の鍵を開けて、ルナ達を中に入れる。

 …どこも壊しては無い。人に見られたくないけど、裏口の鍵を()()()()開けただけである。


 キュウはともかく、ミニには大変だったけど、ルナの家族も小屋に入れる。

 入れ替りに外に俺は、いそいそと小屋の四方にナイフを立てて周り、小屋の四隅にも同じようにしてまわる。仕上げに扉に紙を貼ってナイフで縫い留める。


 簡易的な結界を仕上げ、ようやく一息をつく。


「凄いね、クロノ! こんなの初めて見たよ~」


 素直にその感動を受け止める。凄い人はもっといる……とは言えない。

 …だって、ほんの少しくらい優越感に浸ったって良いじゃないか?


 設備自体が、軽い調整一つで動かせたのは幸運だった。灯りも使えるし、水場と火、特に暖房が使えるなんて、贅沢だ!

 …俺達は、ちょっとした贅沢を満喫しながら、早めの食事を済ませる。

 今日は、小屋の調味料を拝借して、より豪華になった。


 食後にお茶も出して、それを啜りながらルナと話す。…ルナはキュウに背中を預けて床に座っていた。


「ところでさ~、あの人が言ってた《指定:Aクラス》ってな~に?」


 少しアクビ混じりに質問される。

 …俺もあまり詳しくは知らなかったから、適当に言ってみる。


「討伐隊とか必要なら、相当危ないって感じじゃないかなぁ?」


「……へぇ~………」


 どうもルナは限界だったみたいで、そのまま寝息をたて始めていた。

 …多分、キュウを探して広範囲を飛んで、相当叫び続けたのだろうから仕方ない。

 家族に寄り添いながら幸せそうだ。

 そんなルナをキュウ達任せて、見張りがてらに結界を確認しに外に出る。


 夜の森からは、魔獣の遠吠えが聞こえ、暗がりの中ではやっぱり気味の悪さを感じる。

 今日は、特に怖い。出会った熊型の魔獣の異常さ…思い出すだけで、胸を圧迫する。


「まさか自分の国にこんなところがあったなんて…、ハァ~……」


 ため息を吐きながら頭を振る。


 人間の領域が及ぶのは、周囲十数キロの森の中でも、隣の国を結ぶこの道を中心とした5キロ以内だけ。…本当に森の端っこの方だけだったのだ。

 よくよく考えても、自分が無事でいられたのは奇跡にも思える。


 どうやら、ちゃんと結界も働いているのもわかった。俺は何も思わず、小屋に入って素直に眠りについた……。



 ーーーーーーーーーー



「ねぇ、クロノ…? なんか怖いよ…」


 ミニの背中のルナが、声を潜めて訴えかける。

 元来た道を、関所に向かって歩くうちに、森の異常な静けさが際立っていた。

 安全圏とされる街道沿い。そこには、まるで動物の気配も、多分、魔獣の気配も無い。その生き物達が息を潜めているというよりも、全く居ないみたいだった。

  

「俺も怖くて堪らない…」


 この森で過ごした数日でも、こんなにハッキリと恐怖心を感じる、そんな静かな日はなかった。

 まるで、別のところに居るんじゃ無いかと思える程、森は何の音も立てない。


 不安と恐怖を感じながら、やっと関所の門の頭が見え始めた頃、それは訪れた。


 唐突に地面が揺れだし、そこから土の塊が突き出し始める!


「きゃっ!」


 辛うじて舞い上がり、下からの()()を躱したミニの上で、驚きの声を上げるルナ。


 ……俺は、あれで終わったとばかり思っていたが、向こうはそうでもなかったらしい。


「そのまま逃げろ、ルナッ!」


 俺も叫ぶと同時に、関所に向かって走り出す。


 走り始めてすぐに、背後からは何かが爆発したかのような破壊音とともに、木が折れ飛び、反対側の木々にぶつかり、静けさが一変した。


「やっぱり、またアイツだ!」


 見ないでもわかる。あの熊型の魔獣の仕業に他ならない。

 2度3度と、あのとんでもない咆哮を上げて、アイツは俺達がいた場所を破壊していく。

 どんどんと距離が開いていくにも関わらず、その音の振動が突き抜けていく。


「キュウちゃんお願い! クロノ、早く乗って!」


 ルナの声に従って、先を走るキュウが俺の横にスピードを落として近付く。横に並びかけたその瞬間に、俺は助走をつけてその背中に飛び乗る。


「私、兵士さんに頼んでみるから待ってて!」


 より高く飛び上がって、加速したミニが関所に向かっていく。

 申し合わせた訳じゃないが、ルナは希望を繋げる為に賭けともいえるそれを選んだ。


 遠ざかるその背中に願いながら、キュウと俺も関所に向かって加速する。

 慣れない感覚に、俺は必死にキュウにしがみ付いていた。


 一見無駄に見えたアイツの破壊行動は終わり、ついに俺達を追い始める。


 ……あの異様な姿のままの、四足での追走。

 口から上がる闇色の呼気を纏いながら、まるで闇の塊となって距離を縮めてくる。


「頼む~!」


 その願いを口にした瞬間、俺は門に向かって飛んでいた―――。




 

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