プロローグ
目が醒めると、彼の目の前には荒野で戦う兵士たちの姿があった。
戦場である。
「なにこれ」
急に広がったその風景に、無意識に言葉をもらす。
当然だろう、起きたら戦場にいたのだから。
先ほどまでゆっくりソファで寝ていたはずなのにこうなっている。
その有り得ない場に平然と座り込んだ彼は、完全に場違いのような雰囲気を醸し出していた。
だが思考回路を回復させたのか、ふと立ち上がり、近くの隠れられるような草木に移動した。
「一体全体、どうなってんだよこれ!」
目を醒ましたら突然現れた、この世界。
唸る重装備の兵士たち。
そんな非常識な展開に、動揺を隠しきれていなかった。
だが命だけは失いたくないと、本能が働き必死に息を殺していた。
そこにうっすらと足音が聞こえた。
体からあふれる冷や汗。
呼吸はどんどん早くなる。
心の片隅で、彼は命の危機をただひたすらに感じていた。
そのとき声が放たれる
「おい、そこのガキ出て来いよ」
荒い口調だが、声の主は女であった。
彼は、恐怖感を覚えつつも冷静に考えた。
出ていかなかったらどっちみち殺される。
そう思い、静かに草木を抜け出した。
そこにいたのは、青髪ロングで大人びた女性。
他の兵士と違いプレートアーマーを着用していなく、所々破けたインナーを着た上に帯刀を下げていただけの兵士らしからぬ格好であった。
「何だ、案外可愛い面してんじゃねぇか」
彼女がそう言っても、彼は無言で目を見つめるだけであった。
「そう恐がるなよ。あんたをひどい目に合わせることはねぇ....だけどちょっと気が変わったなぁ。その可愛い面に免じて、私が育ててやる。文句は受け付けねぇ」
彼女はかなり適当な理由で、大袈裟なことを決めてしまった。
だが彼女は心の中では思っていた。
こいつの腕、かなり並外れていると。
「どういうことだよ」
彼はその適当な言い分に、流石に嫌気を刺したのかタメ口で喋り出した。
「何だ、急に生意気な口きくじゃねぇか」
そう言いながら彼の頭を激しく揺らす。
「痛いって」
「お前随分と髪がボサボサだなぁ。よし、さっさと戦い終わらせて、その髪も整えてやる。ついでにみっともねえ服もな」
そんなやり取りをしていると、一人の兵士が駆け寄った。
「報告です、相手軍が自軍の基地に急接近しました」
「ったく、めんどくせぇな。すぐ向かう。さっさと戻って働け!」
「はっ!」
掛け声とともにその兵士は、自軍へと向かっていった。
「よしお前もこれ使って戦え」
そう言うと、彼女は弓を渡す。
「ちょっと待ってくれよ。俺戦い方なんて知らないぞ」
「大丈夫だ!ある程度フォローはする。お前は遠距離攻撃だけでいい」
急なものであったが、不思議と彼の中では闘志がたぎっていた。
まるで闘いの日々を思い出すかのように。
あの楽しさを再び体感できることを嬉しく思うように。
「緑谷士」
「お前の名前か」
士はコクリと頷いた。
彼女は笑みをこぼしつぶやく。
「ヴァルリア・ミリタスだ」
「よろしく」
「行くぞ、士。前進だ!」
二人は、果てなき荒野をひたすらに走っていった。
三人称神視点を意識したいのですが、間違っている可能性もあるのでよろしくです。