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大進行㉒

「アルト様、血を1滴」


イヴナが差し出すのは右の手。

そこに、アルトは、親指を刀で切り血を流す。

そして、直ぐに無詠唱で回復魔法を発動させ、傷を癒した。


「では、これより神器の儀を行います」


向かいに経つキウンと目を合わせ、二人同時に首を縦に降る。

そして、アルトはそっと目を閉じた。


暫くすると、イヴナの声が聞こえた。


「生命神レナムの眷属イヴナ 我を立会人とし 神器の儀を行う」


その言葉を合図に、銀色の魔法陣が展開された。

アルトは目を瞑っているため見れないが、その発動時の魔力の大きさから、アルトは規模の大きさを改めて実感する。


「では、精霊王。復唱なさい」


キウンは首を縦にふる。

この魔法発動中、キウンとアルトは特定の言葉以外口にできない。


「我は精霊王 たとえこの肉体が朽ちようとも 主に忠義し 手と足となる事を望む」


イヴナの言葉を、一字一句違えずにキウンは復唱する。


「では、次はアルト様。お願いします」


アルトは、小さく頷いてみせる。


「受け入れよう そして仕えろ 汝の忠義 生涯共に あらんことを」


アルトは目を開き、右の手を胸に当てる。

その右の手の甲には、赤い狼の紋章が浮かび上がる。


「我 魔法神レナムが眷属イヴナの名の元に 神器の儀 ここに認める」


イヴナは血の着いた手をキウンの胸に、血のついていない左手をアルトの手の甲の上、胸の上に重ねた。


銀色の魔法陣は2つに別れるよに吸い込まれる。



ーー



辺り一面を埋めつくした銀色の光は、次第に明るさを失っていく。


「契約は成立されました。アルト様」


イヴナがそう言う。

キウンの肉体は残っていない。地に撒き散っていた戦闘の証であるキウンの血も全てが無くなっている。


その代わりに、漆黒に染まる砂が山になっていた。


「お、おい……イヴナ。これは成功なのか? 」

「えぇ、間違いありません。成功していますよ」


だが、その砂を見る限りやはり成功とは思えない。

失敗して砂になったと言われた方がしっくり来るだろう。


「アルト様、あの砂に念じるように精霊王の名を呼びかけてみてください」


少し戸惑った様子を見せたアルトであったが、取り敢えずはやってみようと目を瞑り、目の前の砂に語りかけるように名前を呼ぶ。


<キウン……>

<主よ、無事成功したようだ>


耳からは聞こえない。脳内に直接語りかけられているような不思議な感じだ。


ふと、アルトは思い出す。

以前ネメス達に言われた。使い魔となった彼らと念話が出来ると。

実際に行ったことは無いが、念話だろうと確信した。


<キウン、なんの神器なんだ? >

<一言で言えば、砂だ>

<砂? >


そうだ、とキウンは続ける,


<自由に動かすことが可能で、盾としても、剣としても、遠隔で飛ばすことも出来る>


強いな、桁外れだ。


誰もがそう思うだろう。

例えば、常に服の下に忍ばせておけば盾として機能する。


「破格ですね。これ程の力を持つ神器は初めてです」

「そうか……。それにしても、この砂はどれ程の強度なんだ? 」

「この砂、いえ石は''生命石''と呼ばれていて、神器は全てこの石で創られます。この生命石の硬さはダイヤモンドを優にしのぎます。それに、この石は魔力に感知されない」


魔力に感知されない。つまり、隠せば完全に隠れるのだ。

この世界では、武器が持ち込み不可能な場所には大抵魔力によって物質を感知する魔法(物質感知)が使えるものが警備をしている。


だが、それが通じないとなれば、この武器を常に服の下に纏っておけば、どんな場所でも武器を使えるという事だ。


<キウン、来い>


俺が右手を出すと、その生命石の砂はアルトの手に絡みつくように纏わる。


「なんだ、全く違和感がない。寧ろ、毛並みのいい毛布に包まれているようで心地がいいぞ」


その漆黒の砂はやがてアルトの全身にまとわりつく。


だが、まだ砂は余っている。


<キウン、ローブのように俺を覆え>

<承知した>


余った生命石の砂は、ローブの如くアルトの姿を隠す。

あっても邪魔にならないこのローブ(生命石)は、とても良い。


「良い相棒になれそうだ。キウン、これからもよろしく頼む」

<貴方様の御心のままに>


キウンとアルトがこのようなやり取りをしている間に、イヴナは姿を消していた。

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