傍観者にちょっかいかけないで下さい。
ゆる~い設定の軽い読み物となってます。
うちには絶対的イケメンがいる。その名は藤原大翔。
昨今の名付けランキング一位の名をいち早く有した先端を行く男である。ごめん、大袈裟だねこれは。
彼は容姿はもちろん仕事も有能で出世頭であり年齢も32とまさに男盛りである。
性格も決して悪くはないのだが唯一の欠点と言えば恋人をとっかえひっかえしているところ。しかしこれもモテるが故の魅力と言えよう。
とにかく女性は彼に惹かれずに居れないのだ。
そしてある日事件は起きた。途中入社で才色兼備が現れたのだ。彼女の名は橘陽菜。これまた名付けランキングを先取ったお方だ。
容姿はもちろん仕事も有能、しかも性格でさえ良いという欠点のない超人である。この人なら仕事も恋も負けても悔しくないと思わせるそんな人いるの?な奇跡の存在だ。
然しもの藤原氏だってきっと彼女に惚れて身を固めるだろうと誰もが思っていた。皆が憧れる美男美女の公認カップルの誕生であった。
「いいよね、いいよね!モテ男が一途になるって萌えるよね!!」
同志である村田沙紀が激しく同意する。興奮で声が大きくなっているが食堂が賑わっているので気にしなくても大丈夫のようだ。
我らは本を貸し借りするくらい好みが似ているので絶対賛同してくれると思っていた。
「あー、同じ部署じゃないのが悔やまれるぅ~。毎日の報告は絶対義務だからね!」
「まかせて!」
熱い握手を交わして仕事場へ向かう。萌えがあると仕事もやる気が出るというものだ!
一応言っておくが我々は二人を無理にくっつけようとかそんな野暮なことをするつもりはない。ただ二人の様子を観察して妄想して萌えたいだけなのだ。
今日も今日とて仕事片手間に二人を観察。有能な二人はやはり通じ合うものがあるのかよく会話する。
あ、橘さんが軽くボディタッチ!「もうっ」って軽く窘めてる感じかな。わ~、藤原氏楽しそう。こっちまでニヤニヤしちゃう。
「うっ」
しまった!目が合っちゃった。思わず声も出ちゃって隣に怪訝な顔されたけど笑って誤魔化しといた。
う~ん、最近よく目が合うんだよなぁ、藤原氏と。見過ぎて警戒されてるのかも……、日々の活力を得られないのは辛いがしばらく自重するか。
見られて良い気がするわけないもんなと反省したのが遅かったのである。
「お疲れ」
「……藤原さん。お疲れ様です」
帰りのエレベーター待ちがこんなに長く感じたことはない。さっきのことがあってこのタイミングで声を掛けてきたって、見てたことを言われるのかもしれないと戦々恐々と待つ。
「お腹すいたね、ご飯食べてかない?」
「………」
予想外の言葉に無反応になってしまった。はっ、お説教長時間コースか?
「あの……」
「ん?」
「今日はちょっと……」
勘弁願いたい!ただでさえイケメンと食事とかハードル高いのに!!
「そう、じゃあ明日は?」
「へ?」
逃がす気なし!うわ~容赦ないなぁ……、悪かったって!反省してるって!!
「申し訳ありません!食事は無理です!!」
窮鼠猫を噛む。私はやけくそに言い放って階段へと逃げた……
が、逃げ切れなかったのである。
「まさか食事は無理って言って断られるとは思わなかったよ」
正面の席で藤原氏が楽しそうに私を見つめる。
次の日出社してみれば待ち構えられており彼は「じゃあお茶はどう?」と誘ってきたのである。まさかの妥協案を出されたら深く深く反省していた私は承諾するしかなく、こうして謝罪の場に着いたわけなのだがすぐ本題に入ることなくじわじわと追い詰められている……。一刻も早くこの場と精神的に解放されたかったので勇気を出して切り出すことにした。
「あの…」
「うん?」
「すみませんでした!!」
「…それはなんの謝罪?」
「御二人のイチャっじゃなくて、大切な時間を、その…ジ、ジロジロと覗き見してしまって…」
「いちゃ?大切な時間?え…覗き見?」
戸惑ってる藤原氏の様子に私は早合点を悟った。なんてこったい、自分からバラしちゃったのか私…
「失礼します!」
恥ずかしいやら悔しいやらで居た堪れなくて慌てて逃げ出そうとしたのにやっぱり逃げられなかった。
「まぁ、いいから落ち着いて座って?」
しっかり手を掴まれて優しく言われたら座らざるを得ない。うう、せめてここに穴ください…同席なんて耐えられない、目に見える格差が欲しい、見下ろしてください~!
「それでなんだっけ?」
「あの、私何故ここにいるのでしょう!」
「オレが誘ったから」
「その理由です!」
責めるのが目的でないのなら一体何の用だというのか!お願いだからさっきの発言にはもう触れないで!!と強引に話題転換する。
「うん、最近よく目が合うからオレに気があるのかと思って誘ってみたんだけど違ったみたいだね。いちゃってイチャイチャってこと?
二人って橘さんのことかな。そういえば彼女と話してる時によく目が合ってたね」
逸らせなかった~!!結局よく目が合うのが理由だったのか…
チーンとマンガとかコントとかで使われる終了~みたいな音が鳴った、…気がした。
「うーん、なんか期待に応えられなくてごめんね。彼女とは何でもないんだ」
「わかってます!今大事な時期なんですよね!美人で有能で人徳のある橘さんに惹かれないはずがないもの。大丈夫です、もう一切邪魔しませんから」
「そうじゃなくて…」
信用できませんか、そうですよね!それなら
「あ、そうなんですか。私の勘違いだったんですね、わかりました~」
「………………」
あっさり信じたのはあからさま過ぎたのか、ええ~、なんですか、その脱力感。もうどうしろっていうんですか!
これ以上解決策が思い付かずとりあえず黙ってお茶を飲むことにした。
「君さ、オレと付き合わない?」
お茶を飲み込んだ後だったので吹くことも咽ることもなく済んで、まさかきちんとタイミングを計ったのだろうか、さすがデキル男。
とバカな想像をしつつ藤原氏のまじまじと見つめる。その真意や如何に…
「なんか否定しても信じてもらえなさそうだから一層のこと付き合ったらいいかと思って」
さすがデキル男、相手の気持ちを目だけで察するとは、じゃなくて!
「なるほど、そこまでして橘さんとのこと秘密にしておきたいんですね。何か尋常ならざる秘密が?あ、別に言わなくていいです!詮索するつもりはありません。人それぞれですから」
「わざとだよね?天然を装って逃げようとしてるでしょ?」
「だって、そんな面倒に巻き込まれそうなこと嫌に決まってるじゃないですか!」
所詮妄想は妄想。別に本気で遊び人が一途になるとかちょっとしか期待してなかったもん!だから藤原氏がこんなんでも別にがっかりなんかしないんだから!
「ただでさえモテるから嫉妬の対象になるのに橘さんっていう誰もが認めるお相手を差し置いて私が藤原さんと付き合うとか絶対認めてもらえません!いじめられます!!絶対イヤ!!!」
「まぁ、分からなくはないけど、それってオレの気持ちは考えてくれてないよね?」
「どう考えてもどう見ても私に本気で惚れてるようには見えませんから。せいぜいおもしろそうとかそんなとこじゃないですか?」
「そのとおりだよ」
「お断りします!」
「じゃあ内緒で付き合うとかどう?」
「また妥協案ですか、お断りします!私には一切メリットがないんで」
「結構言うね。君ってそんな人だったんだ。大人しくて自分からアプローチできない恥ずかしがり屋さんかと思って……、あはは、なんだそれ」
「勝手に誤解して笑わないでもらえます?失礼ですよ」
「いやいや、自分の見る目の無さがおかしかっただけだから」
「正直誰それですよ、私にとっても」
ツボに入ったらしく藤原氏はしばらく笑いを止められずにいた。私をチラ見しては再発するのやめてもらえませんかね!
「あー、腹いてっ」
「良かったですね、きっと話題のシックスパックになってますよ」
「もともと割れてるよ。見る?」
「丁重にお断りしときます」
「見たくなったらいつでも言ってね」
さすが女ったらし、卒がないわ。引き際の良さも好ポイントだ。
「それじゃあ、私はこれで失礼します」
今度こそ、今度こそ!お茶を飲みほしたしと席を立つ…ことがやっぱりできなかった。おい、引き際の良さはどうした。
「なんですか!」
「まだ話終わってないから」
「何の?」
「付き合うってやつ」
「…………」
あまりのことになんも言えねぇ……、マジでどうした藤原氏。
「らしくないですよ藤原さん」
「ん?オレらしいって何?」
「来るもの拒まず去るもの追わず。ポリシー見失わないで」
さすがに女とっかえひっかえとは言えず言い換えたけどなんか慰めた感じになってしまった。それが功を奏したのかとびっきりいい笑顔をいただきました。まっぶし~。
「たしかにそうだね。去るものは追わないけど……」
え?なんすか?溜めないでさっさと言って下さい、嫌な予感しかしない!
「逃げるものは追いかけたくなるみたいだ」
私は今度こそ絶句した。
次の日
「私たち一緒にいても意味ないみたい。別れましょ…って何裾掴んでるんですか!放してください!ここは見送るところでしょう?ポリシー、ポリシー!!」
「うん、何今の?」
「だから去るものですよ!」
「いきなり言われても分からないよ」
「それならこれはどう?」
「?」
「手掴んで下さい」
「うん」
「はい、捕まえましたね?満足しましたね?」
「何が?」
「逃げると追いかけたくなるんですよね?じゃあ捕まえたら満足するんだから、はい捕まりました」
「そんなお膳立てされても、しかも両手差し出すとか逮捕みたいなんけど」
「我儘言わないでください。私はあなたに捕まりました。よって狩りは終了です。お疲れ様でした~」
「………」
「挨拶大事ですよ~?お疲れ様でした~」
「………」
「えっと、それじゃあ、さようなら~」
「逃げたね?」
「え?」
「今逃げたよね?」
「えっ」