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彩違いの姫と時の王国  作者: カナデ@ちび神獣1/30発売
2章 旅立ちは勢いで
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最初の一歩1

「お嬢様、大丈夫ですか?」


「大丈夫よ。もう少しで確か・・・。あ、これだわ」

 カチンっという何かがはまる音と同時に、手元のランタンの灯り以外は闇に閉ざされた空間に光が溢れる。その光は、今は真夜中だというのに昼間みたいに明るく全てを照らし出す。


 そこは、不思議な空間だった。

 上を見上げても天井がほとんど見えない程高く、ずっと遠くに向こう側の壁が見える程広い、一見ガランと何もない広間だった。

 そこへの入り口の扉のわきの窪みに、緑に光る球体がはめられていた。リンシアがそれをはめることによって、灯りがついたらしい。

 けれどこの空間を照らし出している物体は見渡す限りに見あたらず、どこから何によって照らされているのかさえも分からなかった。


「ふう。良かったわ。この前に来た時に、この装置に気づいて。気づいてなかったら、さすがに私でも夜の間に来ようなんて思わなかったもの」

「それでも無謀でしたよ。ここまで来る間に、何度怖い思いをしたことか・・・」

 夜の山道を登って来たことを思い出したのか、イアラが身震いをする。

「だって仕方がないじゃない。どうやってもこの組み立てかけの装置を完成させないと、これからの計画がだいなしになるのですもの」

「でも本当にそれが完成したら、そんなことが出来るのですか?」

 リンシアが手に持っていのはリンシアが今までこの遺跡で発見した部品を持ち帰ってはずっと組み立てていた、イアラにはさっぱり分からない装置らしきものだった。その装置を指さしながらイアラは首をかしげる。

 大きさもリンシアの片手に乗るくらいで、それが完成したからといって、リンシアが言うような効果が出るのかイアラには想像もつかなかった。

「そのはずよ。とりあえず朝までに部品を見つけて完成させて。そして予定していた効果が出るものなのか実験しなきゃならないのよ。急ぎましょう」

「あ、待って下さいよ、リンシア様っ」




 夕食を終えて部屋に戻ったリンシアは、いつもと同じように本を読み、そして寝る支度の時間にイアラを呼んだ。そうしてイアラの耳に誰にも気づかれないように支度を整えるように言うと、深夜に屋敷が寝静まったころ、そっとイアラと二人抜け出して来たのだ。

 物心ついた時から毎日通った塔までの路を、ランタンを灯さずに星明かりだけを頼りに進む。そしてたどり着いた塔の二階で素早く必要なものをまとめると、一層目の円柱階段へと向かった。

 何故塔に向かったのか。

 塔にはかねてから色々いざという時のために準備したものを、こつこつと運んであったのと、そしてもう一つ、叔父クライヴとの秘密があった。

「ここ、でしたよね?」

「ええ。ここだったはずよ。叔父さんにいざという時の為に絶対使うな、って言われていたけれど、今がその時よね?」

「まあ、そう、ですよね・・・」

 叔父の顔でも思い出したのか、イアラの視線が微妙にそれる。

「イアラ?だって、大体叔父さんが居ないのが全て悪いのよ?」

 リンシアも叔父の顔を思い出し、うっと詰まる。それでもここは引き下がってはだめだ、とばかりにまくし立てた。

「だって叔父さんがいたら、成人の儀が終われば叔父さんと結婚してしまえばこっちのものだったのですもの。今だって一人抜け駆けして遺跡巡りの旅なんかしている叔父さんが悪いのよっ。うん。そうよ。そうなのよ。だから行きましょう、イアラ」

 一つ頷くと自分の言葉に勢いを得て、床の石畳の一つを思いっきり蹴りつけた。するとその石が下へと沈み、階段がある方の壁の一部がずれて、扉一枚分の空間がぽっかりと出現した。

 その先は暗くて何も見えない。

「この仕掛け、この塔が立った当初からのものらしいですけれど、凄いですよね。どんな仕掛けなのか、クライヴ様が調べても、結局分からなかったっておっしゃっていましたよね」

「そうなのよね。多分ウェステア時代の技術が応用されていると思うのだけれど・・・。私も調べてみたけれど、結局分からなかったわ。さあ、行きましょう」


 灯りを灯したランタンを手に、足下もほとんど見えない薄暗い空間へと足を踏み入れる。その後ろを、大きな荷物を持ったイアラが続く。

「叔父さんが言っていたのって、確か入り口横、下から五段目の石、だったわよね?」

「ええ。確かそのように言っていましたわ。開けるときは、床の三段目、でしたか」

「そう、よね」

 ランタンをしっかり持って、しゃがみこんで下から五段目の石を今度は手で押す。するとギギーっという音ともに壁が元に戻り、暗闇の中に二人、ランタンの灯りだけを頼りに取り残された。

 分かっていたとはいえ、その暗さにひるんで、思わずリンシアはイアラの手を掴んだ。

「・・・荷物、一つ持つわ。ここからしばらく下りの階段だもの。気をつけて後ろをついてくるのよ」

「わかりました。リンシア様も気をつけて下りて下さいね」


 そこは、地下へと続く階段だった。塔の表の部分と同じ、古びて所々ひび割れた石畳の階段が、ずっと下へと続いている。

 リンシアはイアラから受け取った荷物の入った袋を小脇に挟むと、ランタンを持った手をかかげて思い切って階段へと踏み出した。

 カツーン、カツーンと響く足音だけが暗闇に沈む階段に反響し、二人の心細さをあおり立てる。

 下へ一歩踏み出すごとに、かなりの勇気が必要だった。多分一人では、この階段を下まで下りきることはリンシアにも出来なかったかもしれない。それでもここで引き返すという選択しを選ぶということは今までの準備と決意が無駄になる。それだけは出来ずに、イアラと二人、心細さを感じながらもただ下を目指して下りて行った。


「これから、どうするのですか?リンシア様」

 それでも息の詰まるような閉塞感に、イアラが不安に促されるように口を開いた。

「とりあえず遺跡に行って、最後の部品を探して完成させて。そして効果を実験して立証出来たら・・・」

「どうするのです?」

 そうイアラに聞かれて、ぼんやりと思っていた計画が形になって行く。

「とりあえず一度戻って来ましょう。それだけで朝になってしまうのは確実ですもの。それから山を下りて、ではすぐ追っ手に見つかってしまうでしょう?」

「そうですね・・・。朝食の席にリンシア様が顔を出さなかったら、屋敷にいないのはすぐにばれてしまいますものね」

「そうなると、多分お父様は遺跡と屋敷の外を探させると思うのよ。そうすると、逃げる時間が今から遺跡に寄ってからだと、ほとんどないのよね」

 今日遺跡に来ることにしたのは夕食の時の父との会話のせいだったけれど。リンシアは元々ずっと前から計画を立てていたのだ。

「ええ。そうですね」

「どうせならリーチャも連れて行きたいし。一度屋敷に戻るわ。朝食を食べてから、改めて隙をみて屋敷を抜け出すわ。だから荷物は下に下りたらそこに置いて遺跡に向かいましょう」

 だから、今は落ち着いてその計画通りに動けばいい。そう思うとリンシアも少しずつ気持ちが落ち着いてくるのを感じる。

「分かりました。じゃあ、急がないといけませんね」

「ええ」


 一番下まで階段を下りきると、通路が二手に分かれて闇の中へと伸びていた。その分岐の地点に荷物を置き、必要なものだけ一つの鞄に詰めて右へと進む。

 その通路はいつの時代に作られたのか、地下を掘ったまま壁と天井は山肌のままだったが、下は階段同様に古い石畳になっていた。その中を、ランタンの灯りだけを頼りに、そのまましばらく進んで行く。

 ランタンの灯りに照らされてリンシアとイアラの影が、ゆらゆらと山肌に映し出され、二人の足音だけが響く路に、このままずっとたどり着かなかったら、という不安に押しつぶされそうになる。そんな不安に負けないように、声をあげた。

「そうだ、イアラ。ここを出る前にこの服を着替えなくてはね。今日はイーチャもいないし、抜け道を行くにはこのドレスの裾がひっかかって邪魔になるわ」

 今まで遺跡に行く時はいつもロバのイーチャを連れ、その番に厩のアトキを共に連れて三人で屋敷の裏手から山へとのびる道を登っていた。

 その道は常に一応人が通れるように下生えと草は刈り取られて歩けるようになっていたけれど、この通路の出口から続く今から行く裏道は、抜け道なだけにほとんど何も手をつけていない山道と同じで、下生えや草、藪に半ば以上覆われている。

「そうですね、そうしましょう。確か厚手の乗馬ズボン用の布地をこっそり持ち出して、前に縫っておいたズボンを入れておきましたよ」

「さすがイアラ。上着はあるかしら?ドレスの裾を上にあげる、っていうのも邪魔になりそうなのですもの」

「ええ。ユリアス様の服を見本に、上だけのブラウスなども作ってみましたよ。一応女の子ですから、フリルなど付けてみましたが」

「すごいわ、イアラ!でも私はフリルとかは別に良かったのに。とりあえず動きやすくて着やすいお洋服が欲しかったのよ」

「いいえ、だめです。リンシア様は多分そうおっしゃると思いましたけれども。フリルくらいはないと、リンシア様はご自分が女性だということさえ忘れてしまおうとなさるでしょう?」

「ああ、そういう意味で必要だったのね・・・。そうね。そう、かもしれないわね」

 なんで自分が産まれて来たのか。その問いは叔父にこの遺跡に連れて来て貰った時からそう思うことはなくなった。けれど、男に産まれたら良かった、とはずっと前から今でも思っているから。

 男だったら外の世界に出て行くことも、もっと容易だったんだろうに、と。


 どのくらい歩いただろうか。ふと風が動いた気がして顔を上げると、それまでの暗闇とは違う、夜空が前方に見えた。遠い星の瞬きに、張り詰めていた気持ちがふっとゆるむ。

「ここで着替えて行きましょう」

そこで二人は一度荷物を置いて服を着替え、着替えた服などのいらない荷物は置いて、必要な荷物だけを持って外へと向かう。出た場所は山の中腹にあたる木の茂みの裏だった。

「ここからは気をつけないとね。・・・多分、獣が襲ってくることはないと思いたいけれど」

「そんなこと言わないで下さいよ、リンシア様。本当に襲われたら、私はどうしたらいいのですか」

「大丈夫よ、イアラ。私が弓で撃退してやるわよ。さあ、行くわよ」

 朝までに部屋へと戻らなければならない。その為には、一刻も無駄には出来なかった。

 星明かりがあると行っても、夜中の山道に女の子二人でランタンの灯りだけを頼りに行く、ということはどう考えても無謀だ、という自覚はリンシアにないわけではないけれど。それでも決めたからには後戻りすることは出来なかった。それは、これからの自分の人生を、男爵家の娘としての価値の中で生きていかなければならないことを示すのだから。


「リンシア様・・・。道、おわかりになりますか?」

「ええ。前に一応叔父さんに教えられているわ。確かここから遺跡はまっすぐ登って行って、開けた場所に出たら左に曲がると、山肌に遺跡の裏口があるの」

「裏口、ですか?そんなものがあったのですね」

 イアラもほとんどリンシアに付き添って、何度も遺跡には訪れていた。けれど、裏口があることは知らなかった。

「ええ。これも叔父さんに口止めされていたのよ。いざという時にだけ使いなさい、って。でもこの裏口から行けば、目的の扉のすぐ近くに出るのよ。だからかなり時間も短縮出来るわ。と、いうことで。行くわよ、イアラ」


 今度は荷物をイアラにまかせ、いざという時の為に肩に矢筒をかけ、小弓を手にリンシアが先導しながら夜の山道へと足を向けた。


 自分の自由な未来だけを信じて。今は一歩を踏み出した。


長いので切りながら更新します。

読みずらくてすいませんが、2章までは毎日更新しますので宜しくお願いします。

(書いてあるので手直しだけしてます)

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