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(5)

 ジネットは城下町に帰った。


 もう二度と見ることができないと思っていた景色に懐かしさと安堵を覚える。来た道を振り返れば、背後に聳える王城があった。それをじっと眺める。



 ――待っている。



 そう告げた彼の微笑がジネットの頭から離れない。後ろ髪を引かれる想いに前に進めずにいると、聞き覚えのある声を聞いた気がした。


 顔を前方に戻す。人ごみをかき分けて駆け寄ってくる女性の姿を見付けた。



「ジネット!」


「……エメ」



 息を切らせてエメはジネットに駆け寄ってくるとその勢いのままジネットに抱き着いた。倒れそうになる身体をどうにか踏ん張って、ジネットは苦笑する。



「エメ、危ないよ」


「……――よかった……」


「……エメ?」



 ジネットの首に顔を埋めるようにして抱き着いているエメの声はくぐもって上手く聞こえない。


 その彼女の声にジネットはそっと耳を傾ける。



「良かった…! 生きていて、本当に……っ」



 その声を聞いて、ジネットは気付く。


 ジネットの肩に顔を埋めている所為ではない。彼女の声は涙で濡れていた。泣いて、その震えで、聞こえにくいのだ。



「……心配かけて、ごめんなさい」



 口にしたのは謝罪なのに、目に浮かんだものは涙だったのに。


 ジネットの顔いっぱいに広がったのは、笑顔だった。



「ただいま」



 告げて、ジネットは小さく笑い声を立てる。


 懐かしい匂い。


 ジネットを大切にしてくれた人の匂いだ。


 ずっと言いたかった言葉を告げれば、エメが顔を上げた。目が合う。彼女の眼の下には隈があって、涙で濡れた瞳は赤かった。


 慈しむように、愛おしむように、額が重ねられる。



「おかえり」



 耳を撫でる、その言葉でジネットはようやく自ら彼女の首に腕を回し、力いっぱい彼女を抱き締めた。


 

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