賭けの行方
確かに、当たらなければいくら攻撃力が高くても意味がない。
しかし、攻撃力が低くても当たりさえすれば良いと云うのも如何なものか。
「さあて、どちらに転ぶかな」
九条は不適な笑みを浮かべた。
画面の中には試合開始の合図を待つポリゴンが対峙している。
3D格闘アクションゲームのようだ。
試合開始後はお互いにらみ合っていたが、先手を打ったのはやはりA君だ。
素早い動きで攻撃をする。
しかしダメージはあまり与えられていないようにも見えた。
P君の反撃を受けてA君の体力は半分近く削られてしまった。
「おい! お前の取り柄はスピードだろ! そんな攻撃避けてしまえ!」
画面に向かって吠えるハルさんに九条は宥めるように言った。
「とっさに相手の攻撃をガードすることは簡単だけど、それを避けるのは案外難しい物だよ」
「糞が」
しかし、流石は最速キャラ。
A君は圧倒的な手数で少しずつP君の体力を削る。
一方、P君の攻撃は避けられてしまう。
ドヤ顔で勝利を確信したハルさんだが、それはP君の反撃と共に消え去った。
ハルさんのドヤ顔は一瞬でムンクの叫びのように豹変した。
「これでスピードが必ずしも重要では無いということが解ったな。どんまいシュン」
ボクシングの試合でスピード自慢がKO狙いでは無く、判定に逃げ込む試合を見る機会が多い理由がなんとなく解ったような気がする。
スピードだけが高くても他が低いと決定打にならないからだろう。
実際はカウンターやヒットアンドアウェイと言った技術を屈指してKOも狙えなくもないが、やはりリスクも高い。
スピードはあっても損じゃないが、プラスアルファが必要なのだろうと思う。
次の試合は単純な殴り合いになった。
殴って殴られて殴り返す。
勝ったのはまたしてもスピードの低い方だ。
なんだかスピードは言うほど重要でもないような気がしてきた。
次の試合は俺が賭けたキャラの番だ。
H君
攻撃力137
防御力137
スピード189
体力137
対
L君
攻撃力150
防御力150
スピード150
体力150
俺はL君に賭けた。
決着にかかった時間は今のところ最長だ。
それなりに良い試合だったと思うが、L君が負けてしまった。
バランスが良ければ良いと云うわけでもなさそうだ。
スピードはやはりあって損は無い。