攻撃力と防御力とダメージ量
ハルさんが乗ってくれるとは思わなかった。
「よし。シミュレーションしてみるか」
九条がゲームのコントローラを置いて立ち上がる。
そして机の上にあるパソコンの電源を入れた。
シミュレーションソフトか。
なんでもかんでもシミュレートしてくれるこのソフトには何回お世話になったことか。
「攻撃力は相手に与えるダメージ量と仮定して、防御力は相手からの攻撃によるダメージ量を抑えるものと定義しようか」
九条はキーボードを指先で叩きながら説明した。
器用な奴だ。
タイピング速度なら俺もそこそこ自信はある。
だけど喋りながらとなると話は別だ。
「ダメージ量はどうやって決める?」
ハルさんが九条の肩に手を置きながら訊く。
俺もそれは気になる。
九条はキーボードを叩きながら答えた。
「攻撃側の攻撃力をA、防御側の防御力をBとして……(A/2)-(B/4)=ダメージ量にするのが良いと思う」
「単純だな。それだとBがAの二倍以上になるとダメージ量が0になるじゃないか」
たかが設定に俺は何をむきになっているのか。
そんな俺のいちゃもんをハルさんは退けた。
「単純だから良いんじゃないか。ドラゴンボールなんて弱い奴は強い奴に全くダメージを与えることが出来ないのだからな」
ああ……そうか。
なんでもかんでも現実的に考えるのは俺の悪い癖なのかもしれない。
それでいてバカなのだから始末が悪い。
「素早さの設定はどうしようか。その前に戦闘システムだな。リアル思考の貞介と単純思考のシュンの間をとって……ターン制のリアルタイムシステムでいいかな?」
九条が独り言のように呟く。
ターン制ということはドラクエやポケモンのように交互に行動するということだよな。
リアルタイムか……どういう意味なんだろう。
九条の独り言は続いた。
「素早さの名称は【スピード】が良いな。敏捷性と俊敏性と反応速度の総称としよう」
「待て。敏捷性と俊敏性はどう違うんだ?」
俺は慌てて九条の独り言に割り込んだ。
解らないことを解らないまま聞き逃すのはなんだか癪なのだ。
九条は面倒臭そうに答えた。
「俊敏性とはひたすら速く動く能力だ。システム上は行動の早さだな。ゴールになる数値を設定して、秒単位でスピード値を加算していく。ゴール値に達した者から行動出来るわけだ」
なるほどだからリアルタイムなのか。