下らない提案
テレビゲームをしながら俺は素朴な疑問を抱き、隣にいる彼に質問した。
「なあ九条」
「なんだ貞介」
彼は素っ気ない返事を返してくれた。
彼の名前は九条研太郎
俺の友人だ。
貞介と云うのは俺のことだ。
俺の名前は安堂貞介
「スケ君はまた下らないことを言うに決まっている」
「ハルさん。下らないとはあんまりじゃないか」
「スケ君が口を開くときは下らないことを言うと相場は決まっている」
どんな相場でそんな根拠の無いことが決まっているというのだろうか。
俺を罵っている彼の名前は城之内春
俺は彼のことをハルさんと呼んでいる。
読み方はシュンなのだが、字を見ただけではハルとしか読めなかったからだ。
初対面の時にそう言うと彼は俺のことを“バカだ”“下らない”と罵り、未だに冷遇されている。
彼は俺のことをスケ君と呼んでいて、略称に君付けなのだから完璧な冷遇を受けているとは言い切れない。
そこがなんだかむずかゆい。
俺は発音しやすいと云う安易な理由で未だにハルと呼び続けているのだから失礼と言えば失礼になるのだろう。
「シュン。あまり貞介をいじめてやるな。彼は友達が少ないのだから優しくしてやらないか」
九条がフォローになっていないフォローをしてくれた。
前々から気付いてはいたのだが、九条もどことなく俺の事を貶しているように思える。
ハルさんは九条のフォローを短い鼻息であしらった。
「で、貞介。お前は何が言いたかったんだ。僕にわかることなのか?」
九条はボサボサに伸びて放置された髪の毛を掻き上げながら訊いてきた。
彼は俺よりも頭が良い。
わからないことは彼に訊けばなんでもわかる。
そういう思い込みから俺は自分で考えることを放棄しているような気もする。
だけど、一人で考えるよりも皆で考えた方がより確実だ。
俺はそうやって自分に言い訳をして言った。
「攻撃力と防御力と素早さと体力。どれに特化したキャラクターが一番強いのかな?」
ゲームをしながら抱いた疑問だ。
当然、抱いた疑問自体が下らないものである。
ハルさんが内容を聞かずに下らないと罵ったのはある意味正解なのだ。
九条は黙ったまま手で口を覆い隠して考えている。
ハルさんが陽気な声で“ほお”と関心して見せた。
「スケ君。君はバカだが、それは私も気になっていた。一緒に考えようではないか」