チョコレート
夜のテンションで書きました。
スゴく短いです。
作者名は、ウシナ ムカシと読みます。
恋愛ものはこの名前です。
明日は2月14日ー
一般にはバレンタインデーと呼ばれる日だ。最近は様々なバレンタインがあるようだが、やはり王道は女子が好きな男子にチョコを贈るというやつだろう。
はっきり言って、『彼女いない歴=年齢』のウブな俺にとっては義理チョコでも自分が告白されたかのように嬉しい。普段人から何かもらうという事がなく、その上女子とほんの少しでも話せるというだけでテンションはアゲアゲのアゲアゲだ。
夕食の買出しを頼まれた俺がやって来たスーパーの入口には、バレンタイン特集と銘打ってチョコレート菓子だけでなく様々な可愛らしい菓子が陳列されていた。
あぁ、誰かチョコくれないかなぁ...義理でもいいから。
そんなことを考えながら鮮魚コーナーに向かおうとした俺は、視界の端に見覚えのある顔を察知した。
視界の端、それは菓子売り場、特にチョコレートの並ぶ棚がある所だ。その棚の前で、実に悩ましい顔をして品定めをするコート姿の女の子...まさしくそれは、先ほどまで俺が妄想内でチョコを俺にくれる役をしてくれていた(いや、させていた)クラスの女子だった。つまり、その子のことが気になっているということ、と言うか好きなわけなんだが...
かわいいなぁ...やっぱり彼氏とかいるんだろうなぁ...とか勝手にあれこれ想像していると、なんとなく話しかける前からネガティブ思考に走ってしまっていた俺だったが、最近友達に彼女には彼氏はいないということを知らされ、今度何かの折にでも話しかけてみようかしらと思っていたので、背後から近寄ってみた。
最早背後から近寄るって時点で嫌われそうだな、と思いつつも、やはり相手に気づかれないためにはこうするしかない。肝心なのは話しかけ方だ。さりげなく、下心はないかのように、偶然を装い......
『あれ、本田さん』
『うわぁっ⁉︎』
明らかに彼女は今防御姿勢をとった。柔道と空手をそれぞれ3週間ずつかじった俺だからわかる。
.....嫌われた!確定だ‼︎もうおしまいだァァァ‼︎‼︎
『...あ..れ?佐藤くん?』
『あ...う、うん。ごめん』
彼女ー本田 千代子ーは目を丸くして、こちらを見た。ダメだ、視線が痛い。耐えられないよ!
『あー、びっくりした....さ、佐藤くんもこのスーパー使ってたんだね』
彼女の頬がほんのり赤くなっていた。びっくりさせすぎただろうか?
『うん、実はここ使ってるんだ。魚とかの質も結構いいしね』
『あっ、だよね!ここのお刺身ってそこの港から直送してるらしくて、お父さんもよくおつまみに買ってるからたまにもらうんだけど、おいしいから好きだよ』
ドッキューン!『好きだよ』だって。魚になりたいな、僕。
それにしても、幸せだ..まさかスーパーネタでこんなに(?)盛り上がれるなんて夢にも思わなかった。お母様、買出しを頼まれたとき渋ってごめんなさい。感謝しております。こんなに素敵な時間を過ごさせて頂き、私佐藤礼人、本当に幸せであります!
それはさておき、気になることが一つ。
『あのサ、もしかして、明日のチョコ?』
俺がそう言うと、本田さんは明らかに驚いた顔をした。もしかして、NGワードだった?
『え、えーっと...まあ、そうだね』
彼女の目が泳ぐ。目に見えて焦っている。やはりNGワードだったようだ。
冷静に考えてみると、そりゃそうだ。こんな俺みたいなモブキャラに神聖なるバレンタインデーのチョコ選びを邪魔されたのだから、本来ならば嫌な顔をされても仕方ないのだ。だが流石は自分の惚れた人だ、そんな仕草は一切見せずそれどころか俺に話題を合わせてくれた。
ということで、俺はさっさと退散することにした。
『ごめん、邪魔しちゃったよな。じゃ、俺はこれで』
『え...そんな、邪魔だなんて、むしろ.....』
少し言葉に詰まりうつむいた彼女だったが、すぐに次の言葉を選び、俺に伝えてくれた。俺の目を、まっすぐに澄んだ美しい瞳で見つめながら。
『ありがとう』
へ?どゆこと?
どうやら俺の心は正直すぎるらしい。
そのまま口にしていた。
『それは...これからのお楽しみかな?』
彼女はその瞳にいたずらっぽい輝きを抱きつつ、微笑んだ。赤い頬が、可愛かった。
そして2月14日はやって来た。
月曜日の朝。
いつもは誰よりも早く学校に着くのだが、この日は違った。
教室には、あの子がいた。
そして、すごく緊張しているように見えた。
彼女と俺の席は教室内で一番離れている。
少し間が空いたのち、先に口を開いたのは本田さんだった。
『おはよう、佐藤くん。いつも早いね』
『おはよう本田さん。本田さんこそ、早いね』
(気合い入ってるなぁ)
なんとものんきなヤツだ。自分のことながらそう思ってしまう。
本田さんは辺りをキョロキョロしてから、カバンから小さな包みを取り出した。可愛く赤いリボンで飾ってある、白い包みだ。そして、ゆっくりと歩いて俺の目の前に立つと、俺の目を見つめてこう言った。
『佐藤くん、これ、もらってくれる?』
来た来た来た来た来たァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎
義理チョコ来たァァァァァァ‼︎‼︎‼︎
内心はお祭り騒ぎだ。だが、そう見せないように平然を保っているように装い、口を開く。
『え?いいの?ありがとう』
『...義理じゃないよ』
『へぇ..........................え?』
『本命なの』
『ほ、本田さん...今..え、え?』
胸のお祭り騒ぎは一瞬で静まった。しかし、胸のざわめきは反比例していく。真剣な眼差しが、さらに俺の思考を乱す。
義理じゃないだって?
頭が着いて来ない。
本命だって?
ダメだ、完全にフリーズしやがった。
まあ、アレだ。とりあえず、状況整理だ。
このチョコは義理じゃない。本命である。つまり、これは本田さんからの告白。
誰への?
『俺ェ⁉︎』
目の玉が飛び出した。
心の臓も飛び出した。
脳味噌はフリーズからのブレイクした。
『...うん』
再び恥ずかしそうに笑う。可愛い。何度見ても可愛い。
『付き合ってくださいとか、そういうのじゃなくてね、佐藤くん...ううん、礼人くんに私の気持ちを知って貰いたくて』
『ほ、本田さん...』
言うべきだろうか...いや。言うべきなんだろうな。
『俺もー』
結局、最後までは伝えられなかった。ヤローどもが集団で入って来やがって、俺の声は掻き消されたのだ。
放課後に屋上か、何処かに呼んでもう一度言い直そうとも思った。しかし、やめにした。
たぶん、俺の声にならない声を彼女は聞いてくれていたんだと思う。
だって、俺が言い損ねた後の彼女の表情は、とても嬉しそうだったから。
俺は彼女の本当の姿を知らない。
彼女も、俺の本当の姿を知らないだろう。
本当に好きだ、って言えるようになるのはまだ先の話。
でも、もしかしたらいつか彼女と、本田千代子と手をつないで、一緒に歩ける日が来るかもしれない。
そう思いながら俺はチョコレートをかじった。
また思いついたら二人を書きたいなぁ...