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イングラザールの決意の白騎士  作者: カビルンバ
始まりは唐突に
4/6

怒り

「中々やりますね、王陛下‥‥‥。」

「何を言う‥‥‥勇者殿もやるではないか、このオルトン。

この年になって久し振りに本気を出さねばならぬようじゃ。」


潔とイングラザール国王『オルトン・フォン・ベディングフィールド』の間には異様な空気が流れていた。

それまで閉じられていたオルトンの目がカッと見開かれると同時に彼の口から神々しい言葉が発せられた。


「乳っ!」

「くっ!?」


その、言葉から放たれる衝撃波に膝を着いた潔。

しかし、彼の目には闘志が燃え盛っていた。

負けじと言葉と言う名の攻撃を投げ掛ける。


「尻っ!」

「ぐうぅっ!」


今度はオルトンが玉座の上で仰け反った。

しかし、彼の心はまだ折れない。

止めとばかりに潔が口を開いたのと、オルトンが反撃したのは同時だった。


「「ふとももぉっ!!」」


両者は荒い息をつきながら睨み合う、とどちらからともなく破顔してこう言った。


「「友よ。」」

「謁見の間に入って早々なにしてんのよっ!!」

「ヘブッ!?」


みんな大好き、潔のみぞおち。

潔は痛む腹を擦りながらコロナに対して恨み言を言った。


「礼儀作法知らないって言ったら『いつも通りでいいわ』って言ったのはコロナだろ?」

「何今の、私の真似なの?確かに言ったけど、流石に平常運転過ぎるでしょう!?あと、似てないわよ。」


コロナは潔から目を離すと、オルトンに向き直って再び膝をつき、頭を垂れてこう言った。


「王陛下、この者が働いた無礼なにとぞ‥‥‥」

「よいよい、伝承の騎士殿がこんなに愉快な御仁だったとは。

いやはや、わしも楽しませてもらったぞ。」


そう言ってオルトンは快活に笑った。

対するコロナは困惑した顔で、「は、はぁ‥‥‥。」と言うしかなかった。

潔達は若い執事に言われた通り、王陛下に謁見に来ていた。

勿論、魔装召喚で召喚した鎧は解除済みである。

潔がオルトンとそうして微笑ましい交流をしていると、

潔の前方、オルトンの左側から小さな咳払いが聞こえた。


「お父様、潔様を御呼びになった目的をお忘れではないですか?」


アルマの言葉にオルトンは「おお!そうであった‼」と膝を叩いて急に真面目な顔になると、


「勇者殿。」

「はい。なんでしょう。」

「此度のこと、先ずは謝罪したいと思う。

こちらの勝手な都合で勇者殿の日常を壊してしまったこと、

わしがいくら頭を下げたとて許されないことではあろう。

勇者殿のその身に我らの求める力が宿ってしまったのはーー」


潔は最後まで聞く気になれずオルトンの言葉を右手で制した。


「あー、そういうの良いですよ。

王陛下のお心遣いには感謝しますが、俺個人としてはあっちの世界に特に未練は無いんです。

皆勤賞もどうせもらえないですし。

だから、どうせだったらそんなつまんない話より、

何か食べ物をくれる方がありがたいと言うか‥‥‥ほら、このドS女が俺を無理やりこっちに連れてきたせいで、俺、昼飯食い損ねてるんで。」


潔がそう言うと、オルトンはキョトンとした顔になった。

それもその筈である。

今の潔の言葉は、一歩間違えば不敬罪になってもおかしくはないからだ。

その証拠に、ドS女と言われたコロナも青い顔で固まってしまっている。

だが、オルトンはそこら辺がちょっと違った。


オルトンは何が面白いのか暫く笑い続けると、

笑いを堪えながらこう言った。


「そうか!わしの話はつまらんか‼これは愉快愉快‼ブランドン!」

「ここに。」


オルトンが名を呼ぶと玉座の後ろから影のように、燕服姿の壮年の男性が表れた。

男性の身長からいっても玉座の後ろに隠れられるとは思わないが、このブランドンという執事はまるで最初からそこにいたかのように出てきた。

あのエドウィーナというメイドと同じ部類だろうか。

オルトンはブランドン含め謁見の間にいる人間全員に聞こえるようにこう言った。


「急ぎ宴の準備をせよ!執事、メイドはブランドンの指示に従い馳走を、残りの騎士達は騎士ディオンの指示に従い会場の設営をせよ!」






「祖竜に会いに行くじゃとっ!?」


潔達は嵐のような勢いで整った宴の場で、短時間で用意したとは思えないほど美味な料理達に舌鼓をうっていた。

先程の言葉はその途中オルトンが潔に今後の予定を尋ね、返ってきた言葉に対するオルトンの言葉だ。

オルトンはあまりの驚きに腰が少し浮いている。


「落ち着いてください。お父様。」


アルマにそう言われて気付いたように椅子に座り直すオルトン。

彼の驚きも分からないではないなと潔は思った。

何せ本当にいるかも分からない者に会いに行くというのだ。

驚かないはずがない。

周りのコロナ以外の騎士達からは不満気な気配も漂ってきていた。まぁ、事情を知らない彼らには無理もないだろうが。


「うーむ‥‥‥考え直しては下さらぬか。

勇者殿にも何かお考えがあってのことだとは思うが‥‥‥何分今は時間が惜しいのも事実。

言い方は悪いとは思うが、我々グレイトベッドに住む人間にとっては死活問題なのでな。」


オルトンの言い分は最もだ。

ただし潔達には祖竜に会いに行くのも遊びではない。

この世界を本気で救うための第一歩なのだ。


「王陛下のお考えは最もだと思います。

でも、俺達にはオレメムノンに会いに行かなければならない理由があります。」


潔ははっきりとそう言った。


「理由とは?」


すかさず聞き返してくるオルトン。

コロナは冷や汗をかきながらも何とか誤魔化そうと口を開いた。

潔が伝承の剣を抜けないことを知られては自分が、もっと悪ければ潔も危ない。

コロナは救世主を連れてくる任務をしくじったと見なされて死刑になるかもしれない。

そんなコロナの考えはその潔によって粉々に粉砕される。


「剣を抜く方法を聞きに行きます。

今の俺には何でか使えないんですよね。」

「ばかっ‥‥‥!」

「‥‥‥なんと‥‥‥。」

「あうぅ‥‥‥。」


潔の言葉にコロナは点を仰ぎ、オルトンは驚愕に目を見開き、

アルマはただおろおろしている。

オルトンは暫く考えていたようだが、ひとつ大きく息を吐き出した。


「わかっーー。」

「そんな馬鹿らしい話があるかっ!!」


オルトンの言葉に被せるようにそう言い放ったのは、金髪のイケメン騎士だった。

顔は鬼のような形相になって潔を睨んでいる。

余程気に入らなかった様だ。


「陛下をこれ以上愚弄するのは私が許さん‼」


座っていた椅子がひっくり返る勢いで立ち上がったイケメン騎士は、怒りから額に青筋を立ててそう言い放った。


「伝承の騎士だか何だか知らないが、まだほんの子供ではないか‼しかもこんな状況だというのに何の危機感も感じられない‼

さらには伝承の力が使えないと来た‼もう十分だ‼」

「まぁまぁ、少し落ち着きましょう。ご飯もこんなに美味しいですよ?」

「貴様っーー‼」

「お止めなさい!ディオン!いくら聖騎士の貴方であろうと、勇者様へのこれ以上の無礼はこの私が許しません‼」

「アルマ様!無礼はこの男の方でしょう‼」


アルマが珍しく怒気を放っている。

しかし、アルマのその潔を擁護するような態度が気に入らなかったのか、ディオンと呼ばれた騎士はピシャリと言い返すと周りにいる他の騎士を見渡しながら続けた。


「皆もそうは思わないか!?

それともこんな子供に仕える主を愚弄されて、何も思わないと!?違うだろう?この国の騎士の魂はもっと気高い筈だっ!私は悔しい!こんな奴に頼るくらいならばーーー‼」


周りの騎士の中にはディオンの言葉に頷く者もいた。

潔は生まれた環境上、誰かに忠誠を誓うということの本当の意味はよく分からなかったが、自分の軽はずみな言動が招いた災いには素直に謝るべきだと思い、口を開こうとした。

しかし、それを遮るように本日二度目の椅子が倒れる音と共に響く聞きなれた声があった。


「いい加減にしてディオン!

潔は本来なら何の関係もない世界のために一生懸命尽くそうとしてくれてるのよっ!?私からすれば子供なのは貴方の方!

王陛下直属の騎士団の長である貴方ならどちらに大義があるか分かる筈よ!それともそんなのも分からないのかしら?

貴方のいうこの国の騎士の魂ってそんなに醜いものなの!?」

「貴様が騎士を語るか!この穢らわしい混血めがっ!」


コロナが潔を庇って立ち上がってくれたものの、ディオンから放たれた言葉に明らかにショックを受けたようで、一瞬目が泳いだかと思うと何も言い返さずに俯いてしまった。

潔はディオンの言った『混血』という言葉に引っ掛かったが、ディオンの言葉はそこで終わらなかった。


「そう言えばこの勇者様を連れて来たのは貴様だったなコロナ。貴様の忌むべき血がやっと役に立ったと思えばこの様だ‼

こんな役立たずの異界の子供を連れてくるとは、国が、大陸が滅ぶかもしれない状況で‼」


ディオンは冷めた目でコロナを見据えてそう言うと、クルリと体の向きを潔の方に変えた。

その目には確かな殺気が宿っていた。


「貴様、潔とか言ったか。騎士として私と戦え‼

貴様に決闘を申し込む‼私が勝てば貴様には王陛下に対する無礼を謝罪し、こちらの命令に素直に従ってもらおう。

万が一にも貴様が勝てば私がこれまでの事を謝罪する。

その後も貴様の好きにするがいい。」

「ディオンっ!何を勝手なことを‼」


アルマの綺麗な声が広いホールに響く。

潔は、途中からディオンの言葉を殆ど聞いていなかった。

潔の視線は普段の様子からは想像できないほど弱ってしまった少女の横顔に注がれている。

潔にとってオルトンに謝ることは何でもないことだったが、

今となってはそんなことの一切が全てどうでも良くなっていた。

何が原因だったか、どちらが正しいのか。

そんな事の全ては少女の目元から流れる雫を見た瞬間大気圏外に吹っ飛んでいた。


今はただ、コロナをこんなに弱らせてしまった奴に対して沸き上がる、殺意にも似た黒くてどろどろした感情に心を侵食されていくのに身を任せてしまうべきだと思えた。

未だ騒がしいホールに良く通るしわがれた声が響き渡った。


「もうよいっ!ディオン、アルマ!これ以上わしに恥をかかせるならばそれなりの覚悟をしてもらうことになるぞ。」

「陛下っ!」

「お父様っ!?」

「黙れっ!!」


オルトンから漂う王者の風格に潔以外のホール中の人間が息を潜めた。

オルトンは溜め息を吐くと落ち着いた声で言った。


「潔殿、我が家臣の無礼、どうか許してほしい。」


潔は声を出す気にもならなかったため、静かに首を振ることで気にしていないと答えた。

オルトンはそれを見て少し微笑むと、再び真面目になって「じゃが」と続けた。


「本音を言ってしまえばわしも不安なのじゃ。

それでなんじゃが、潔殿、ディオンと戦って見てはくれまいか。」

「陛下っ!?」


驚いた様な声を上げたのはコロナだ。

少し落ち着いたようだが、その目は少し赤かった。


「ディオンと戦い、潔殿の力を見せてほしい。

そうすればわしも、騎士達も、安心して潔殿に全てを託せよう。至極勝手なことを言っておるのは自覚しておるが、どうじゃ。」

「陛下っ、ディオンは聖騎士ですよ!?」


コロナが慌てた様にそう言った。


「それを言うなら潔殿は伝承の騎士であろう。」

「ですがっ!潔はつい先程魔法を使えるようになったばっかりで、こちらに来て間もないんですよ!?あまりに無茶な話です‼」

「良いですよ。やりましょうか。

ちょうどさっき俺にも戦う理由ができましたから。」

「潔!?あんた正気なの!?」


潔があまりにも簡単に返事をしたことに驚いたのだろう。

コロナの目は信じられないものを見る目だ。

潔の判断はアルマにも信じられなかったようだ。


「潔様、潔様はこの世界に来たばかりで分からないかもしれませんがーー。」

「いいでは無いですかアルマ様、伝承の騎士様がこのように仰っているのですから。」


アルマを遮るようにそう言ったディオンは潔を見下したように見るとこう言った。


「少し、痛い目を見てもらいますよ。伝承の騎士様。」


潔はディオンの目を、脳が透けて見えるのではないかと思うほどの鋭い視線で睨むことでディオンの挑発に答えた。








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