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イングラザールの決意の白騎士  作者: カビルンバ
始まりは唐突に
3/6

魔装召喚

魔法を使ってみたいと言う潔の要望に答えるため、アルマは王城の地下室を解放してくれていた。

この地下室の壁は全て魔壊石と呼ばれる材質で出来ているため、どんなに協力な魔法を撃っても大丈夫と言うことだった。

魔壊石と言うのはその名の通り、魔法の構造自体を破壊する能力を持った石で、限られた場所でしか採掘できない上に加工が非常に難しいのだそうだ。


そんな地下室で潔は今、アルマ直々に魔法のレクチャーを受けていた。


「魔核から魔力を引き出すイメージですっ!

それさえできれば発動の呪文は思い付く筈ですっ!」


要約すると「フィーリングですっ!」と言って得意気な顔で拳を握るアルマに、どんだけ雑な異世界だよと溜め息を吐く潔。

しかし、言われるままにやるしかない潔は目を瞑り、自分の体に最近出来た器官へと意識を集中させる。


すると、丁度魔核のある位置から強い光が溢れ出していることに気がついた。

潔はその光球目掛けて意識の手を伸ばしていく。

やがてその光球をがっしりと掴むと力任せに引き上げた。


「きたきた!」


意識の中で光球を引き上げた瞬間異変が起こった。

潔を包むように溢れ出した赤い光の粒子が潔の体を完全に包み込み収束する。

やがて、全ての粒子が潔の体に包まれるとそこに立っていたのは白いプレートアーマーに身を包んだ騎士だった。


「魔装召喚‥‥‥ですか。

しかもこのプレートアーマー、全く継ぎ目がありません。

どういった技術なのでしょう。」

「綺麗な鎧だわ。

魔核といいこのプレートアーマーといい何かあんたには勿体ない気がするわね。」


アルマとコロナがうっとりしたようにそう言った。


「ちょ、どうなってんだ。鏡とかないのか?俺も見たいんだけど。」

「ああ、今用意しますね。エドウィーナ!」

「はい。ここに。」


アルマが手を叩いて名を呼ぶと、いつから居たのか潔のすぐ後ろから声がした。エドウィーナと呼ばれた壮年の女性は潔の背後から歩みでると両手で持った大鏡を潔が写るようにセッティングして、洗練された動きで鏡の脇に移動して優雅に一礼した。


「お初に御目にかかります。『神炎の騎士』様。

私、アルマ様の専属メイドをさせて頂いております。

名をエドウィーナと申します。以後、お見知りおきを。」


潔はエドウィーナと名乗るこの女性の、年月を感じさせる落ち着いた声と顔を上げたときに見えた鋭い目に何処か恐ろしいものを感じた。

エドウィーナは潔の気も知らず上半身を起こすと、鏡の後ろに踊るように移動した、と思えば忽然と姿を消してしまっていた。

この間、潔は何も出来なかった。

一人呆然としていると、アルマに声を掛けられた。


「潔様?」


アルマに名前を呼ばれて我にかえる。

気付けば潔は思ったことを口に出していた。


「あ、アルマたん?今のはーー」

「エドウィーナですか?ただのメイドですが。」


何てことないように言うアルマ。


「いやいや、流石にーー」

「エドウィーナはただのメイドですよ潔様。」


凄い笑顔だと潔は思った。

可愛いとかではなく。

潔はアルマのその顔を見てこれ以上聞かない方がいいなと感覚的に理解したのだった。

腑に落ちないところではあったが、潔はひとつ頭を振ると鏡の中の自分を見た。


「おお‥‥‥。」


鏡に写る自分の姿を見て潔は感嘆の声をあげた。

一目見て、プレートアーマーの材質が鉄ではないことがわかった。

見た目で判断するならば石か砂。

潔はあり得ないと思ったが、今自分がいる場所を思いだしその考えを捨てた。

凝った装飾などはあまり無いが、プレートアーマーそのもののデザインが芸術であるといっても過言ではない美しい流線形のプレートアーマーは、アルマの言う通り段差はあれど、何処にも継ぎ目がなかった。

首には真っ赤なボロボロのスカーフが巻かれていて、

背中には白い鞘に入った特大の剣。

頭部にはこれまた流線形のフルフェイスの兜。


そして潔を驚かせたのが格子のようになった顔前面、その奥にある筈のものが無かったことである。

潔の顔があるべき場所は不気味なほど暗黒に包まれており、更には赤い火の玉がポッカリと浮かび、今も尚メラメラと燃え続けているのだ。

そう聴くとホラーだが、実際にそれを目の当たりにすると神秘的にさえ見えた。

個人的にはモノアイのようにも見えてカッコいいと思った潔であった。

拳は他の部位に比べると少しゴツ目になっている。


何の気なしに拳を開こうとして、潔は困惑した。


「んぎぎ‥‥‥ぷはっ!ダメだ開かん。」

「何してるのよ‥‥‥。」


突然奇声をあげ始めた潔を不審物を見るような目で睨むコロナ。

アルマも首を傾げている。


「いや、それがよ。拳がどうやっても‥‥‥んぎぎ‥‥‥はっ、開かねぇんだよ。」

「はぁ?じゃあその背中の剣は何のために付いてるわけ?

足で剣を振るためにあるのかしら?」


コロナの指摘に全くその通りだと肩を落とす潔。

仕方ないわねと、コロナが潔の後ろに回るとその剣に手をかけてこう言った。


「私が抜いてあげるわ。」

「まじすか!?ヒャッホーイ!!あ、優しくしてくだソイッ!?」

「な、なに勘違いしてんのよ‼剣のことよ‼」


頬を赤らめながらも剣を引くコロナだが、その顔は次第に戸惑うような顔になった。


「お、おい、どうした?」

「あー、ご免なさい潔。これ、抜けないみたい。」


コロナの言葉に固まる潔。

暫くして膝をついた潔は力なく床を殴るのであった。


「おもちゃの剣背中に差してるとか、これもうただの痛い人だよぅ‥‥‥。」

「アルマ王女、本当にコイツ伝承の騎士なのでしょうか?」

「それを私に聞くのですか?

潔様をお連れしたのはコロナですよ?

それにこの立派な鎧、伝承にある通り美しい鎧ではないですか。魔核も伝承の騎士の名に恥じない立派な物でした。」

「それはそうですが‥‥‥。」


やっぱり見てたんですねアルマたん。

と言いたかったが、潔は空気を読む、を覚えた!!

コロナはそこで一端区切って潔を一瞥しこう続けた。


「剣を握れない騎士など、聞いたこともありません。

それに伝承には『魔を断ち切る焔の剣』という記述も有りました。魔王に深傷を与えたのもその剣ではなかったですか?」


コロナの言葉に「うーん‥‥‥」と唸るアルマ。

潔はよろしくなさそうな空気の中、ずっと気になっていたことを聞くことにした。


「あの、さっきから言ってるその伝承って何?」


潔の問いに答えたのはコロナだった。


「この世界に古くからあるお話よ。

『神炎の騎士』を主人公に、彼が産まれて魔王を封印するまでの長いお話。」

「へぇ、で、それが俺?」

「そうなるわね。」

「でもよ、どうしてずっと昔にこの世界を救ったとか言うそいつが俺になるんだ?時系列がおかしくないか?」


コロナは一息おいてこう続けた。


「彼の存在はね、消えないの。

どういう原理かは知らないけど。

彼は自分の記憶と引き換えに世界を越えて、何度も何度も輪廻転生を繰り返すことができる。

まぁ、私も最近になって知ったんだけどね。」

「‥‥‥ってことはこれが初めてじゃない?」

「あら、あんたにしては賢いわね。

そうよ。貴方は、潔は3人目の『神炎の騎士』。

グランドベッドに危機が迫った今だから、こっちの世界と潔の世界は繋がった。

そして私があんたを連れて帰る任務を受けた。」


コロナから告げられた事実に、潔は自分の体が何処の誰とも知らない人の物のような気がして軽く吐き気を覚えた。


「でも、当のあんたが剣を握れないんじゃ‥‥‥。」


コロナはそこまで言って口をつぐんだ。

でも、それで十分だった。それから先は潔にも予想がついたからだ。


「‥‥‥前回は、二人目はどうだったんだ?剣は使えたのか?」


潔のその質問に答えたのはアルマだった。

彼女は何か迷うようにしながら口を開いた。


「召喚の失敗で、その、行方不明に‥‥‥。

ですから詳しいことはよく分かりません。

記録も残っていないのです、すみません潔様。」

「失敗したって‼魔王はどうしたんだ!?ここは大丈夫だったのか!?」


アルマにしてみれば、潔と同郷の者かも知れない二人目の騎士の不幸な事故について、潔に何を言われても仕方がないと覚悟した上の発言だったが、潔から帰ってきたのは、怒りどころかアルマ達を心配する言葉だった。


「は、はい。その時は一回目の大戦で生き残ったと思われる悪魔族によるグランドベッド大陸侵攻が危機の内容だったので、何とかなりましたが‥‥‥代わりに大陸の四分の一が人の住めない地域となってしまいました。」


それを聞いた潔は安心したように息を吐き出すと、

すぐに眉を結び確かめるように言った。


「そっか、じゃあ今度は魔王復活の可能性が高いってことだな?」

「そう、なりますね。」

「やるしか、ないよな‥‥‥よし、出来るか分からないけどさ、俺が魔王を倒してやるよ。」


潔がそう言うとコロナが呆れた顔になった。

潔は何か不味いことを言っただろうかと首を傾げた。


「へぇ、あんた初代でも倒せなかった悪魔の王様を倒そうって言うのね?」


含みのある言い方に潔は「どう言うことだよ。」と聞き返す。


「どうも何もそのままよ。

いい?魔王ってのはね文字通りの化けもんよ。

復活されたらその時点で終わりだと思った方がいいわね。」

「は?」


肩透かしを食らったような気持ちになる潔。


「間抜けな顔してるわよ。

どうりで話が噛み合わないと思ったわ。

最初に言うべきだったけど、潔を召喚した目的は魔王復活を阻止するためよ。」

「え?でもお前、剣を握れないとなんとかって、言ってたよな?」

「勿論、剣は必要よ。

初代の時がそうであったように今回もその剣が鍵であることは間違いないもの。」


潔はこんがらがる頭をどうにか整理すると、じゃあ、と口を開いた。


「俺はこれから何をすりゃいいんだ?」


コロナはそうねと言って続けた。


「魔王再封印のために各地の遺跡を巡る、と言いたいところだけど、剣が使えないとどうしようもないからまずはその剣について調べないとね。その間、何も出来ないのは不安だけど‥‥‥。」

「ならば、その間、他種族の領土を巡礼してはどうでしょうか。万が一に備えて戦力を纏めておければ無駄にはならない筈です。剣の事については此方で調べておきますから。」


アルマが小さく手を挙げてそう言った。


「どうなるにしろ、ネックになるのはこの剣か。

使い方知ってる奴とかいねぇかな?」

「あんた馬鹿でしょ、初代が生きていたのは千年近い昔の事なのよ?そんな長い年月生きてる生き物なんて‥‥‥」


コロナはそこまで言って急に黙ってしまった。


「どうした?」

「い、いや、馬鹿げた話よ。

自分でもどうかしてるとしか思えないんだけど。」


はっきりしないコロナに潔は「いいから」と先を促した。


「伝承に‥‥‥あるのよ。初代神炎の騎士と魔王以外に生きていた存在が。」

「ま、まさか‼」


アルマは気付いたようで目を大きく広げている。

コロナは唇を舐めて湿らすとこう言った。


「原初の焔、『祖竜オレメムノン』。

本当に存在するなら、彼ほどの適役はいないでしょうね。」






「‥‥‥目的が見つかったのは良いとして、まさかあんたが魔装召喚以外の魔法を使えないとはね。」


潔は、何度目になるかわからないコロナの溜め息にポッキリと心を折られていた。

潔は白い鎧を身に付けたまま、芋虫のような尻を突き出した体勢で首だけをアルマに向けた。


「アルマたぁん、魔装召喚ってそんなに弱いの?」


アルマは言葉を選ぶ様な仕草を繰り返すと苦い笑みを浮かべた。


「弱い、というか、魔装召喚という魔法は基本誰にでも使えるのです。詠唱や呪文なども必要ありませんし、簡単に言ってしまえば一人で着るのが難しい鎧やドレスなどをですね、その、楽に身に付けるための一種の便利魔法と言いますか‥‥‥。」

「うわぁぁああぁぁあああぁん!!」

「い、潔様どうか元気を出してください‼

素敵な鎧ではないですか!私は良いと思いますよ‼」


そう言って優しく頭を(鎧だが)撫でてくるアルマ。

顔を上げた潔にはそんなアルマに後光が差して見えた。


「ほ、本当に?」

「ええ。」


優しい笑顔を向けてくるアルマ。


「お、おじさんのほっぺにチューしてくれたら信じよっかなぁ?

ゲヘヘ。」

「ちゅ、チューですか!?

そ、その私お父様以外の男性にはしたことがなくて‥‥‥あ、あの、そのぉ‥‥‥。」


耳まで真っ赤にしてあたふたする幼女(体型)のアルマ。


「んー?するのかなぁ?しないのかなぁ?グヘヘ」

「ふ、ふえぇ‥‥‥。」

「何してんのよっ‼この変態っ!!」

「ホフゥッ!?」


潔の尻に突き立てられるコロナの剣。


「む、ムリィ!!こんなにおっきいのムリィ!!

こ、壊れちゃうゥゥーーっ!!」

「ひ、ひぃっ!コイツ本当に気持ち悪いわっ!」

「はぁ、はぁ‥‥‥。」

「あ、アルマ王女も何で鼻息荒くなってるんですかっ!」


その時、コンコンと地下室のドアを叩く音があった。


「失礼します、アルマ様ぁっ!?」


入ってきたのは若い男性だった。

アルマに用があったのだろうが目の前の光景に、アルマの名を呼ぶ声が凄いことになっている。

青ざめた顔のコロナが必死で潔の尻から剣を引き抜こうとしているがもう遅い。


「し、失礼致しました‼」

「ちょっ!ちょっと待って!違うんです‼違うんですよぉっ!!」


閉じられたドアに向かって、慌ててそう言ったコロナだが明日には騎士団長の裏の顔という噂が流れていることだろうと思う潔であった。

その後その若い執事に何とか事情を説明して、どうにか信じてもらう事で事なきを得たが、アルマが開いた新しい世界への扉はもう閉じることは無さそうである。


若い執事の用件はこうだった。

「王陛下が『神炎の騎士』殿に一目お会いしたいと仰っておりましたので、用が終わり次第謁見の間に寄って頂きたい。」

断る理由もないので二つ返事で答えたが、

この世界の礼儀作法もなにも知らない事を思い出して潔は一人慌てるのだった。

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