アイノカタチ
朝起きて制服に着替える。
私はそれを繰り返す。
高校三年生ともなれば制服を着て六年目になるわけで慣れてしまうものだ。
でも…本来の私は違う…男子の制服を着なくてはならない。
私は紛い物…女のふりをする哀れな男…。
私は…女に慣れるだろうか?
アイノカタチ
作:おれんじじゅ~ちゅ
朝食を済ませそそくさと学校へ行く。
途中で幼馴染の守山さくらちゃんと合流する。
「おはよう、さくらちゃん」
「おはよう、るい」
今日もたわいのない話をしながら学校へと向かう。
教室に着くと男子たちがひそひそ話しているのが聞こえた。
「源ってさ~胸は小さいけど、エロい身体してるよな~」
「ああ、わかる!うちのクラスで一番かわいいよな~」
「絶対領域をわかってるよな~♪」
「ああ…」
やめて!私は紛い物なの…あなたたちの目に写っているのは幻なの…本当の私はあなたたちと同じ男なの…。
だから…私をそんなに見ないで…。
「聴いてるのか?零」
「ああ…」
「なんだよ…しっかりしてくれよ…」
《???サイド》
少年は少女を見つめていた。
「源…」
そっと呟く。
彼の名は阿久津零。
恋に今現在、るいに恋をしている男だ。
一応クラスメイトである。
俺は今恋をしている。
相手はクラスで一番かわいいと言われている源るいだ。
クラスの連中に乗せられたからなんてもんじゃない。
ちゃんと理由はある。
あれは一年前…事故って病院送りになった俺を委員長だった源がクラス代表でお見舞いに来てくれた。
もちろん先生に頼まれてだが。
コンコン!
「誰だ?」
「失礼します」
「ああ…委員長」
「はい。体は大丈夫ですか?阿久津くん」
「ああ…大したことはないよ。ただ…右足をもっていかれた…」
俺は布団の足元をめくる。
「!」
源の頬を涙が伝う。
源が涙を流した理由…それは、俺の右足が…膝から下がないからだ。
なんせダンプの下敷きで右足はぐちゃぐちゃだったからな…こうなると覚悟していたさ…。
「阿久津くん…足が…」
「いやいや、あんだけの事故で生きてるだけ幸せっしょ。気にすんな」
「き、気にならないわけないじゃない!!あなたはもぅ…」
「あぁ…その…なんだ…落ち着いてくれ…」
源は深呼吸をする。
微妙に揺れる胸をついつい見てしまう。
「ごめんなさい…私、取り乱してしまったわ…。
そうね…命があっただけでも幸せよね…。
私…昔、事故で弟が死んでしまったから…」
悲しそうな顔でしゃべりだす源。
「だから…阿久津くんが生きていてよかった…」
源が俺に抱きつく。
頭をそっと撫でてやった…。
それから毎日、源は俺のお見舞いに来てくれていた。
泣きそうになった俺を慰めてくれた。
リハビリにも付き添ってくれた。
なにより、あの一言で俺は…
てなわけで今現在俺は恋をしているわけだ。
そして、今日ついに告白をする。
原始的だが彼女の下駄箱に“らぶれたー”をいれた。
だから、今日の放課後…というか三十分後に告白するのだ。
《るいサイド》
下駄箱の仲を見て驚いた。
“らぶれたー”なるものが入っていたのだから…。
相手は阿久津くんだ。
実はまんざらでもないのだけど…私は…。
あれは七年前…私はまだ十歳だった。
「れいちゃん~はやく~!」
「まってよ~るいちゃ~ん!」
当時の私…僕には双子の姉がいた。
僕たちはいつも一緒だった。
そこにさくらちゃんもいた。
僕らの容姿は本当に似ていた。
周りの人間はよく間違えていた。
あの日、僕はるいになると誓った。
るいが事故で死んだあの日、母さんは病んでしまった。
るいは僕よりも遥かに優秀だった。
だから僕は我慢できなくなった。
母さんには笑ってもらいたい…そんな思いから僕は自分を殺した。
「私はるい…源るい…私は女の子…」
母さんは喜んでくれた。
母さんの中では死んだのは出来の悪い弟・れいということになった。
だけど、父さんは騙せなかった。
私が姉さんの格好をするよになって一週間がすぎ父さんが突然ドライブに誘ってきた。
私は黙って車に乗り込む。
しばらくして、車は止まった。
付いた先は海。
夕焼けがとても眩しい。
父さんは夕日を背に、今まで閉じていた口を開いた。
「れい…やめなさい…」
「嫌…私は姉さんになるの…止めないで…」
「どうしてだ!?」
「母さんのためです…」
「母さんのため?」
「私は僕を殺したの。不出来な僕は死んだ。
優秀で特に可愛がっていた姉さんに私はなる。
姉さんが死んでしまったことを母さんが受け入れられないのなら…僕を居なかったことにすればいい」
パチン!
「バカを言うな!」
父さんが私の頬を叩いていた。
「何するの!?」
「お前はれいなんだよ!」
「違うわ!私はるい!」
「お前は俺の息子だ!」
「娘よ!」
これを五時間くらいくりかえした。
辺はすっかり暗くなり、時計を見ると、もう十時を過ぎていた。
「どうしても…やるのか?」
「やります」
「後悔はしないのか?」
「はい」
「わかった…。俺の負けだ…」
父さんはやれやれといったかんじでため息をひとつした。
「いいか?やるからには徹底的にやれ。協力は惜しまない。なら今からお前は俺の娘、るいだ。
死んだのは双子の弟・れい。
さぁるい。思う存分やれ!!」
「ありがとう…そしてごめんなさい…」
私は父さんの胸の中に飛び込んだ。
父さんは黙って私を受け止め抱きしめた。
その日から私はるいとして生きてきた。
ホルモン剤を飲んだ。
女の子としての知識を身につけた。
努力をした。
でも…体は…男のままだから…。
断ろう。
そう胸に誓い、待ち合わせの場所へと向かった。
「好きです」
やはり告白だった。
「あの…ね…私は…」
「好きです!付き合ってください!」
「ですから…私は…」
彼の熱烈は告白に私は耐えきれなくなり、全てを話してしまった。
「あぁ…そう…なんだ…ははは…」
彼は困った表情をしていた。
「悪い…俺…やっぱやめるわ…」
「そう…ですよね…気持ち悪いですよね…ごめんなさい…帰ります…」
その場にいずらくなった私はその場から逃げ出した…。
《零サイド》
源がさってから俺はしばらく立ち尽くしていた。
何やってんだよ俺は!
女の子(?)を泣かせちまったじゃねぇか!!
それ以前に俺の恋はそんなものだったのか?
本気だったんだろ?
本気だったさ…。
でも…源は…。
「あ~あ泣かしたわね…」
振り返ると源の親友の守山が立っていた。
「守山…」
「るいを泣かしたわね…」
「そ、それには理由が…」
「最低ね…あなたはあの子のこと好きじゃなかったの?」
「好き…だった…」
「過去形…ね…気に入らないわ!!」
「なんでお前にそんなこと言われにゃならんのよ?」
「あなた…あの子の心を踏みにじったのよ…。あの子から事情を聞いたあとのあの一言でね」
「でも…」
「でもじゃないわ!!あんたはあの子を傷つけたのよ!」
そんなのはわかってる…でも…
俺はつい頭にきて拳を握り締めた時だった。
“バチン”
俺は頬を叩かれていた。
「早く行きなさい!追いかけて!好きなんでしょ?行きなさいよ!」
守山は泣いていた。
その表情は本気で、
だから俺は走ろうとした。
しかし、バランスを崩し転げる。
「くそ!」
この時、走れなくなった自分を恨んだ。
右足さえあれば…と。
しかし、今そのことで悔やんでも仕方ない。
俺はあいつを追いかけなければならないのだから!
そして、ゆっくりと立ち上がり、歩き出した。
《るいサイド》
ああ…やっぱり気持ち悪いよね…
私は真似事をしているだけだもの…。
膝を抱えてうつむく…。
「るいちゃん…私はどうしたらいいの…」
部屋の片隅で私は何度も繰り返した。
「好きだった?」
振り向くとさくらちゃんがいた。
「さくらちゃん…」
「やぁ♪」
「さくらちゃん…私…」
私は泣きながらさくらちゃんの胸に飛び込む。
それをさくらちゃんは優しく受け止めてくれた。
「知ってるよ。零くんのこと好きだったんでしょ?」
「うん…でも私は…零くんに嫌われちゃった…」
「大丈夫。彼はきっと受け入れてくれる」
「そうかな?」
「彼はね、今は混乱しているだけできっとあなた一筋よ?」
「だといいね…」
私はまたうつむいた。
さくらちゃんは私を優しく抱きしめ続けた。
それから一時間後、零くんがやってきた。
「源、俺…やっぱりお前が好きだ!男か女かなんてどうでもいい!お前は俺の足になってくれ!」
扉の向こうから聞こえる声は紛れもなく零くんの声だった。
“俺の足になってくれ!”
この言葉…ぐっとくる…。
ふと思い出す。
「私があなたの足になります。だから…泣かないで…」
あの日病室で抱きしめられた時、私はこういったのだった。
その時やっと気づいた。
私は彼に恋をしてしまったのだと。
あの日…クラスの代表としてお見舞いに行った日から…
気づかないうちの好きになっていたんだ…
だから…
「はい…私があなたの足になります」
気づくと私は扉を明け、彼に抱きついていた。
そして、彼は私を優しく抱きしめた。
あれから一ヶ月が過ぎた。
私たちは毎日のようにデートを繰り返した。
「なぁ…るい、そろそろ…」
「何言ってますか!まだ行きますよ!」
「…そっすか」
少々やつれた零がいた。
「うふふ♪よかったわね…れい」
それを優しそうな目で見つめる少女がいた。
だが少女を誰も見ることはない。
まるで彼女がここにいないかの様に…。
「さて…そろそろ母さんをなんとかしましょうかね?」
つぶやいたあと少女は空気のようにそっと消えた。
溶けるように。
「ただいま~」
今日のデートが終わり、私は家に着いた。
すると中から母さんの悲鳴が聞こえた。
「あぁあああああああああ!!」
私は靴を脱いだままに寝室へと駆けつけた。
「母さん!!」
「あぁ…ああ」
そこには絶望のどん底に突き落とされたような顔の母さんがいた。
「母さん…」
「あぁ…だ…れ?」
「るいです」
「違うわ!!」
そこで部屋の状態に気づく。
そこには部屋の片付けをしようとしたのか、様々なものが散らばっていた。
そこに、姉の…本当の”源るい”と”僕”が写った写真があった。
「思い出したわ…るいちゃんは死んでしまった…」
「違います!私はここにいます!」
「もう嘘をつかないで!」
母さんが私を睨む。
「ひぃ!」
「もう一度聞くわ。あなたは誰?何故るいちゃんのふりをしているの?」
私はこれ以上隠せないと判断した。
だから…
「母さん、僕だよ。れいだよ」
「あぁ…れいちゃん…あなた…
あなたが死ねばよかったのに…」
私は思った。
人間は追い込まれると平気で酷い事を言えるのだと。
それが例え…自分の子供にだとしても…。
私は何のためにこんなことをしてきたのか…。
母さんのためなのに…。
パチン!!
突如電気が消えた。
「きゃあ!」
思わず悲鳴をあげてしまう。
暗闇の中、何も見えなくなった。
だが耳元で声が聞こえた。
「れい…よく頑張ったね…」
「え!?」
そこで私の意識が途切れた。
《???サイド》
私が例の体に憑依した途端、身体に変化が起きた。
胸がわずかに膨らみ、下半身の異物が消えた。
ような感覚がしたあ。
アレの感触ってちょっと持ち悪いわね…
体が女の子になってくれてよかったわ…
まあ、でもこれであの子の願いが叶うわね。
さて、この糞母親にお仕置きするとしますかね。
電気が再びつき、私は顔を上げた。
「もうなんなの!?」
「こっちからしてみればあんたがだけどね」
「え!?」
「え!?ってことはないでしょ。あんたの望むとおり娘が帰ってきたのよ」
「るいちゃんなの!?」
「ええ」
「よかったわ…」
安心したような顔で私に近づく母。
「良くなんかないわ!!」
抱きしめようとした母の頬にビンタした。
「!?」
驚き、頬を抑える母。
「る、るいちゃん!?」
「あんたサイテーね。自分の息子が姉になろうとしたことに気づかないなんてさ。努力をさ」
「で、でも」
「でももくそもあるかっ!」
母を睨みながら叫ぶ。
「私はそんなこと望んでなかった!れいには普通に男の子として育って欲しかった。
でも、あんたを慰めようとしてあの子は!!」
もう一度叩こうとしたところで腕が勝手に止まる。
「るいちゃん、やめて!」
「邪魔をするな、れい!」
「母さんを殴るのはやめて!」
「でも私は…」
「るいちゃん!」
「わぁった…」
私は渋々手を下ろす。
「おい!れいに感謝しな。あの子が止めてくれたんだ」
「そ、そうね…」
怯えた表情で母親は答える。
「そんじゃ…私はそろそろ行くわ…」
「待って!」
「無理だよ…私は死んでるんだから…」
私は背中を向け、いつのまにか流れていた涙を隠した。
「ごめん…先に死んじゃっで…母さん」
私はれいの体からすっと離れた。
《れいサイド》
あれから私の体は女の子のままだった。
世の中不思議なこともあるものだ。
戸籍上の死は源れいの死で源るいは今も生きていることになっていた。
そのおかげで将来は零くんと結婚できるのだけれど…。
望んだはずの自分の存在の死がさみしく思えた。
世界は変わっても私たちの認識は変わらなかった。
だからあれ以降、母さんは私のことを“れい”と本来の名前で呼ぶようになった。
「るい。これでよかったのか?」
「ええ。これでいいんです。私は姉さんになれましたから」
「もし…お前が男のままで出逢っていたら、俺たちは同じ名前を持つ者同士で親友になってたかもな」
「かもしれませんね♪」
「ま、いっか。さぁ行こうぜ。遅刻しちまう」
私たちは手をつなぎながら学校までの道のりを歩いた。
●あとがき●
みなさんこんにちは、おれんじじゅ~ちゅです。
約二週間かけてやっとこの作品を書き上げました。
今までより遥かに文章が長いと思います。
それだけ今回は最高の作品が書けたのかな~と思います。
では長話もなんですのでこの辺で…。




