グッピーの記憶
小さなガラス越しに出会う、言葉を持たない小さな生命。
静かな水底で揺れるひかりと、指先越しに通い合う微かなぬくもりの記憶を詩に託しました。
世界観と情緒を際立たせる前書き
外の世界がどれほど慌ただしく過ぎ去ろうとも、水槽のなかには静かで美しい時が流れています。
揺れる尾ひれが織りなす「無言の言葉」と、胸の奥に残る淡い虹色の余韻を感じていただけたら幸いです
『グッピーの詩』
小さな硝子の宇宙で
あなたはネオンの微粒子を散らし
夕暮れ色の尾ひれを揺らす
水草の影をくぐり抜けるたび
ひらりとひるがえす一枚の絹
それは声を持たないあなたの
たったひとつの言葉
水槽の外では
大きな時間が音を立てて崩れても
あなたは静かな水圧を愛し
ただ光の束を泳いでいる
胸びれが刻む微かなノック
ここにおいでと誘うように
わたしは指先をガラスにあてて
冷たい水底のぬくもりに触れる
あなたは小さな水泡をひとつ吐き出し
光の影へ消えていった
わたしの胸に
淡い虹色の余韻だけを遺して
ふと立ち止まった部屋の片隅で、水槽の中をゆらゆらと泳ぐグッピーを眺めていたときに生まれた詩です。
わたしたちが生きる現実の世界は、いつも目まぐるしく変化し、時に大きな音を立てて崩れていくような忙しさに満ちています。けれど、ガラス一枚を隔てた向こう側には、まったく異なる時間が流れていました。光を纏って静かに揺れる尾ひれや、胸びれの繊細な動きを見つめていると、言葉を持たない彼らから「ここにおいで」と静かに語りかけられているような心地がします。
触れることのできない冷たい水の中にある、どこか温かい光の感覚。この短い詩を通して、水槽の底に広がる静けさや、胸に残る「淡い虹色の余韻」を少しでも感じていただけたなら幸いです。




