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終わらない想像

眠る前に、世界をひとつ作るのが習慣だった。


学校やバイト先の騒々しさから解放される、僕だけの時間。


人の感情や行動を観察しなくてもいい時間だ。




世界を作るといっても頭の中で想像するだけだが。


「今日はどんな世界で遊ぼうかな」


最近流行っている異世界でも体験してみようか。




ベッドに入り、目を閉じて世界を創り始める。


魔法がある世界がいいな。


魔王とか勇者はいらないや、争いは好きじゃない。


人が少なくて、静かな場所がいい。


風の音と、遠くの気配くらいで十分だ。




そういう世界を、ゆっくり頭の中で創っていく。


いつも通り、世界が出来上がったところでそこに自分を置く。





 ……森の中で目が覚める。




とても静かで、土や草の匂いがする。


背中から伝わる冷たさが心地いい。




「今日は調子がいいな」


調子がいいときは創った世界がリアルに感じられる。


このまま寝転がっているだけでも良いと思えるような居心地の良さを感じる。


まあ自分が創り上げた世界なのだ、当たり前と言われればそうかもしれない。




とはいえ、もう少しこの世界を楽しみたい。


「小屋か何か、休める所があることにしようかな」


この遊びのいいところは世界を自分の都合がいいように調整できるところだ。




休める所があることにして森の中を少し歩く。


吹き抜ける風や、木々の揺れまでもが感じられる。


……心地よさを感じながら、しばらく歩いたが、それらしい小屋は見当たらない。




「あれ、ミスったかな?」


もう一度、休める所がこの先にあるイメージをしながら森の中を進む。




 5分ほど歩いただろうか、一軒の小屋というにはだいぶ大きい建物が見えてきた。


想像の中だというのに、疲れたような気がしてくる。


その建物の入り口に立ち、扉を押し開ける。




中を見ると、この世界には玄関のようなものはないらしく、すぐにリビングと思われる部屋が広がっている。




そこは誰かが手入れしているかのように整然としていた。


端の方に座り心地のよさそうなソファを見つける。


他には部屋の奥に扉が二つあるだけだ。




想像を細かくしたせいか、やけに疲れた。


「今日はここまでかな」


明日も学校があるため休まなくてはならない。




そのソファに横たわり、想像の世界にいるまま目を閉じた。


目を閉じると、すぐに意識が沈んでいく。


いつものように、世界の輪郭がゆっくりぼやけていった。


音も匂いも、遠ざかっていく。





目が覚めると、日の光で目がくらむ。




心拍数が一気に上がるのを感じる。


「やべ!遅刻した!」


まだ半分寝ている身体を無理やり動かす。




掛けている制服に手をかけようとした。


しかし、いつも制服がかかっているはずの壁が無い。


そこにあったのは昨日、想像の中で休むために入った家のリビングだった。




「は?」




間の抜けた声が出る。


今まで何十、何百と想像遊びをしてきたがこんなことは初めてだった。


しばらく、その場から動けなかった。




見覚えのあるはずの景色を、見覚えのない目で眺めている。


なぜ? 僕は間違いなく、一度寝て起きたはずだ


想像が終わってない?いや、ありえない。




……そんな自問自答が終わらないうちに部屋の奥から物音がした。


木が軋む音をたてながら、扉が開く。


「おお、起きたか」




女性の声がする。


人だ、僕以外の。


混乱が加速する。




想像遊びに他人が存在したことなんて一度もない。


その女性は僕の混乱など知らず、こちらへ近づいてくる。


「帰ってきたら知らない子供が寝ていて驚いたよ」


そう笑いながら話しかけてきた。




「あ、その、すみません」


「いいさ、君にも事情があったんだろ?怪我なんかはしてなさそうだが」


事情だと?僕は一人で想像遊びをしていただけだ。


説明できる事情など持ち合わせていない、こちとら状況の整理すらできていない。




僕が言葉に詰まっていると、その人は台所へ目をやる。


「腹は減ってないかい?パンと水くらいは出せる」


「あ、はい。ありがとう、ございます」


僕が答えると、女性は戸棚から器を取り出し、慣れた手つきで水を注いだ。




注いだというより、空中から水を出しているように見える。


木の器に水が当たる音が、小さく響く。


「魔法だ…」




そう呟くと女性が不思議な顔でこちらを見る。


「なんだ?見たことないのか?」


「いえ……その……」


見たことは、ある。想像の中では何度も。




だがあまりにもリアルなのだ。


音や飛ぶ水しぶき、注がれる水の挙動までもが。




「ほれ、パンは切るから少し待っててくれ」




女性から手渡された器をそっと受け取る。


指先に伝わる重みが、思っていたよりも確かだった。




縁に口をつけると、冷たさが喉を通っていく。


体の奥まで、静かに落ちていく感覚がある。


僕ができる想像遊びの範疇を超えた現実感。




ただの想像でここまで五感は刺激されない。


「それで?君はなんだってこんな村の外れまで来て、寝ていたんだい?」


どう説明するべきか。


そもそも説明する必要は?




この人は実在する人物ではないはずだ。


しかし、そんな思考と裏腹に身体が現実としか思えないこの世界を感じている。


口を開きかけて、何も出てこない。




どの言葉を選んでも、嘘になる気がした。


説明するべきなのか。


そもそも、何を説明すればいいのか。




女性はパンを皿に乗せながら、こちらを待っている。


「まあとりあえずこっちに来て食べなよ」


顎でテーブルを指すような仕草をしつつ、女性は席へ着くよう促す。




「話は食べながらでいいからさ」


僕が席に着くと、女性はパンをかじりながら、


「君、この国の子には見えないけど?名前は?」




「…凪です」


「ナギ?やっぱりこの辺の子じゃないね?」


「私はロアンだよ、ここでトアの研究をしてる」




聞きなれない言葉が出てくる。


「トア?」


僕がそう問うと、




「ははは、君は魔法がない所から来たみたいな子だな」


冗談っぽくロアンは言う。


やはり説明するべきだろうか。




ここにいるのは一時的とはいえ、このままでは居心地が悪い。


「トアっていうのは、この世界の土台みたいなものさ」


彼女はパンをちぎりながら、何気なく言う。




「火も水も石も人もぜんぶトアでできてる、それを揺らしたり整えたりするのが魔法だよ」


信じられない、そんな設定を僕は知らない。


この世界を創った僕が知らないのだ。




ロアンは僕の様子を見て、少しだけ目を細める。


「……本当に、知らないって顔をしているね」


彼女の声が真剣さを帯びてきている




「昨日、君を見つけたときも妙だと思ったんだ。見慣れない服、それに…」


僕の方をじろじろと観察しているようだ。


「森に長くいた人間はトアの振る舞いが森のトアに寄るんだ、だけど君にはそれがない」


「かといって火や水、岩の民のトアとも違う、まるで生まれたての人間のようなトアをしている」




生まれたて。


その言葉が、妙に引っかかった。


ロアンは続ける。




「どこかの民の特徴が出るはずなんだ。長く暮らせば、必ずな」


「でも君は、どこにも寄っていない」




自分の中で昨日までの自分の生活が浮かぶ。


ロアンは小さく首を傾げる。


「こんなトアの人間、見たことがない」




「実は…」


自分で作ったはずである世界の住人に説明するばかばかしさを感じながら、ここまでの経緯を説明する。




この世界が想像だとしても、今の僕には現実のようにしか感じられないのだ。


元の世界の事。想像遊びの事。今回の世界が想像にしてはリアルすぎる事。自分以外の人が出てくるのが初めてな事。




途切れ途切れに、言葉を選びながら話す。


ロアンはその間口を挟まず、ただこちらをじっと見ている


「そして目が覚めたら……そのまま、ここにいて」




それ以上、うまく言葉にできない。


ロアンはしばらく考え込むように視線を落とし、


やがてゆっくり息を吐く。




「なるほどな」


「信じるかは置いておいて、それなら君のトアがどこにも寄っていない理由は説明がつく」




「僕は元の世界に戻れるんでしょうか…?」


そう聞くと彼女は笑い出す。


「ははは!創造者の君がそれを聞くのかい?」




確かにそうだ。


この世界を創ったのは僕で、解決できるとしたら僕のはずだ。


「まあ戻れないと決まったわけではないだろう?」




「私が知る限り、この世界も悪くないよ、現実で目が覚めるまでここの生活を楽しめばいいさ」


簡単に言ってくれる、こちらは混乱しっぱなしだ。




「君さえ良ければここに居候したっていい、ただ…」


彼女の視線がこちらに向けられ、ぞわっとする




「対価はもらうよ」


「対価?僕お金なんて…」




「何を言ってるんだ?金なんかより素晴らしいものがあるじゃないか」


「対価は…君の体だ」




僕はいったいどうなってしまうのだろうか…

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