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山姥に拾われた

山姥に拾われた子供の日々を綴っていきます。

険しく青黒い峰が連なるその山々、その裾野には、青黒い針葉樹がうっそうと繁る森があった。

人の手が及ばないその山々と森を、山姥(ヴァバァヤガ)の住処と言われていた。


実際、森の木を切ろうとしたら、斧が折れただの、迷い込んだ子供が帰って来なかっただの、山姥の邪悪な魔法がかかった不帰の森として、周辺の村からは怖れられていたのだ。


そんな禁忌の森に、一人の子供が転がっていた。

歳の頃は、5、6歳だろうか?薄汚れた貫頭衣から覗く手足は鶏ガラのように細い、そして、身体中が傷だらけだった。


(頭が痛い、手が痛い、足が痛い、お腹が痛い、背中が痛い・・・痛くないところがないなぁ・・・)


くうぅぅぅ・・・


「あ~、身体中痛くても、腹は減るんだなぁ。なんか、笑える・・・ぐぅ、イテテ・・・」


自分の笑い声が、身体に響いて、思わず呻きを漏らす子供だった。


「小鬼か?」


掛けられた声に、顔を上げた途端、また、

「イタタッ」と、声を上げる子供。

もう一度、目だけで、声の主を見上げると、真っ白な長い髪が見えた。


(山姥?!)

子供は、竦み上がった。


山姥と言うには若すぎる、子供の母よりは少し若い年頃の女が子供を見下ろしていた。白い髮、浅黒い肌、そして、木洩れ日に透けた葉のような緑の瞳に、子供は目がはなせなかった。


「盗みでもして、罰で打ち据えられて、森に捨てられたか?」


白髮の女が独り言ちた、温度の無いただの事実確認のような言葉だった。


「うるせー!!」


図星を指され、子供の身体の体温が上がった。傷の熱とは違う羞恥の熱だった。悔しさで、身体の痛みも忘れて、子供は叫んだ。


子供は、春先にたった一人の身内だった母親に死なれた。

そして、夏と秋は、畑を手伝う事で、村に居る事を許された。

だが、冬を越す量の食い物は、子供には与えられなかった。このままでは、生き延びられない。

そう思った子供は、食い物が無くなる前に、村から逃げ出そうと、村の倉庫に忍び込んだ。そして、見つかったのだ。

倉庫から引き釣り出され、強かに打ち据えられても、子供は、まだ、死ななかった。

始末に困った村長が、不帰の森に捨てるよう、言ったのだ。

子供を森に捨てに来たのは、子供の隣家の男だった。


「お前のおっ母さんが死んだ時に、お前も死んでりゃあ、良かったのになぁ。俺を恨んでくれるなよ。」


愚にもつかない事を言いながら、子供を森の中に打ち捨てて、男は、村へ帰って行った。




「あんな村、滅びちまえば良いんだ!」


子供は、身体中から、絞り出した恨み言の後、嗚咽を漏らし、突っ伏した。


女は、俯せの子供に、自分が着ていたマントを被せ、身体をぐるぐる巻にすると、肩に担いだ。


子供は驚き、暴れ騒いだ。

「何するんだ、バカヤロー!降ろせ!」

あまりに騒いだので、女の肩から転げ落ちた。

「痛てぇじゃないか」

ひとまず、子供が元気なのを確認した女は、

「ヴァバァヤガの森にあるものの権利は、全て、ヴァバァヤガにあるんだ」

そう言いながら、子供の額を人差し指で、ついっと押した。

子供は、フッと意識を失った。


女は、再び子供を担いで、森の奥に消えて行った。

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