前日譚 -1話(2/2)
本編前日譚を各キャラ視点で書いてます。
冒険者ユナの前日譚をどうぞ。
後編です。お楽しみください。
その場でみっともなく泣き喚く私。
この人達も言うのだろうか?この人達も汚いものを見る目で見てくるのだろう…か……
「ねぇ…どうして泣いているの?」
「…だってぇ…黒魔法が…」
「え…?」
エステルさんがせっかく訳を聞いてくれたのに、子供のように泣きじゃくるしか出来ない私…そんな私を私は嫌い、嫌い。嫌われるのはヤダぁ…
どういうこと?とエステルさんがアルフさんを目で訴える。
「…あーつまり白魔導士なのに黒魔法が使えるってやつだ。賢者の素質持ちだよ……何十年鍛錬してやっと手に入れられるモンらしいが…その様子じゃ産まれたときから素質持ちだったみたいだな…」
「ぇんじゃぁ?(賢者?)」
頭を掻きながら説明したアルフさんの言葉を反芻する私。すっごい変な声が出てて……恥ずかしい…
「そうか…賢者は知る人ぞ知るユニーク職。その昇格条件は周知されてないもんね…」
「…だけじゃないよ!ユニーク職って事は仲間外れだってことだよ!みんなと違う、おかしな部分があればそれはダメな事なんだよ。迫害、追放、そうじゃなくてもイジメられちゃうんだよ……よく頑張ったね…」
そう言ってネルさんは私を抱きしめてくれた…ちょっとムカついたのはなぜなのでしょうか…?
「ぁたし…おかしくなぁい?…ケガレの子じゃ、なぁい?」
「違う!絶対に違うよ!!」
強い声でネルさんは否定してくれた。…暖かいね。
貴方で2人目だよ……
「…まぁ俺は白魔導士が黒魔法使ってもかっこいいと思うけどなぁ…感性の違いなんだろうか…」
「ふぇ…?」
ボソッと呟いたアルフさんの1言を私は聞き逃せませんでした…
「…かっくうぃい?」
そんな事言ってくれたのは…
「ヤベ…聞こえてた?…ぐほっ…脇腹はヤメロぉ!」
直後、エステルさんの肘鉄が脇腹に刺さっておりました。
かっこいい。かっこいい…か…
…可愛いって言葉の方が!断然好きなんですが!!…かっこいい…ですか……えへへ…
一瞬の和んだ空気の直後。
『ウォォォォォ』
響く、魔物の声。
「この声……まさかダンジョンから!?」
私達は顔を見合わせて、頷き、立ち上がる。
私も涙を拭い、駆け出す。
魔物大量発生の原因になったダンジョンへ急ぐ。
ダンジョンの中はダンジョンの体をなしておらず、一本道の洞窟状態になっていた。
その最深部には怪我だらけの神父さんと…
「ラース…ドラゴン……こいつが…こいつが魔物大量発生の原因だったんだ…!!」
エステルさんが絶望の声色で告げる。
ラースドラゴン。難易度Sランク。推奨:Sランクパーティー
無理だ。絶望と恐怖で動けない私達。
「神父さんを連れて逃げろォ!!…こいつは俺に任せて先に行けぇ!!」
アルフさんの叫びで我にかえる、エステルさん達。
ネルさんは神父さんを回収し即座に逃走。エステルさんは棒立ちする私の腕を引っ張り逃げ出す。
「…生きて、帰ってきてね」
小さく呟くエステルさん。その目には涙をためながら…
その言葉はアルフさんに届く事は…
「あたりめぇだ!生きて帰るぞ!バカヤロー!!」
…心で通じ合っているの…?背を向けて走る私たちに聞こえるぐらいの大声で叫び……いいなぁ…私も。誰かとこんなに通じあえたのなら…
「よかった。神父さんは大丈夫。気絶してるだけ…遊ばれていただけで致命傷に至ってはない…大丈夫…大丈夫だから…っ!!」
自分に言い聞かせるように…泣くのを堪えながら私に安心するように話しかけるエステルさん…
ありがとう。神父さん。
私、今から親不孝をします。
意識のない神父さんは困ったように笑った気がした。
(いきなさい。それが貴方の選択なら…私は止めません…)
ありがとう。おとうさん。
私はエステルさんの手を振り払い、最深部に戻る。
「エステルっ!」
「…っ!!…逃げるわよ…私達は要救助者の救助と冒険者ギルドへの緊急要請が先決!!…死地に赴いた子を救うことは…やっちゃいけないんだからぁ!!」
ありがとう。エステルさん。
最深部にたどり着くと、ラースドラゴンと互角に渡り合っているアルフさんの姿が。
…いえ、アルフさんは高速機動で全ての攻撃を避けていますが攻撃力が足りずダメージを与えられていない…
【全狂化】【狂化スタイル:人狼『脚力狂化』】
…こころなしかさっきよりも顔が白い。息があがっている…!?
なら…【回復】…っ!?
え…回復魔法で回復出来ない…!?
その時、私は知らなかった。
今の彼の前で動く意味を。
真紅に染まった眼。…狂戦士が狂化してるときに出る特徴的な眼。
…そんな状態の彼と眼があった。
殺意がこっちに向けられる。
コロサレル
脳裏に過る恐怖…しかし彼の剣が私を切り裂く事は無かった。
ドラゴンの方が脅威だから…?いえ、邪魔で弱い方を簡単に片付けるのが普通でしょう。
…彼は、私を私と認識した上でターゲットから外してくれたのだと理解するのに一瞬も必要ありませんでした。
なんで戻ってきたの?と苦い顔しているような彼に叫ぶ。
「合わせて下さいっ!!【攻撃力上昇】【防御力低下】【鈍足化】!!」
彼は私の白魔法が発動した直後。ノータイムで柔らかい片翼に狙いをつけ、剣が切り裂いた。
怯んだ瞬間、もう片方の翼も切り裂く。これで機動力を奪った。すぐには周辺地域に赴く事は出来ない…
ダメ押しの剣の投擲はドラゴンの眼球に突き刺さる。
痛みで暴れ回るドラゴン。こっちをみる余裕さえないようですね…なら…
ふぅ…と私は深呼吸。
試した事はない。でもやる為に来たんだ。
おとうさんも言っていた。生きなさいって。
だから生きる為に…!!
全力で黒魔法を使う!!適正があってもまともに使ったことがない黒魔法!!
初級火魔法に全魔力を注ぎ込み……足りない…魔力が…威力が…これじゃ…足りない…
そんな私の隣に、私の黒魔法をかっこいいって言ってくれた人が並び立ってくれた。
私ぼ手のひらから展開している魔法陣に彼も手をかざし……なんだか邪悪っぽい色と力が流れ込んできて…
「ファイアァァァボォォォォル!!」
初級魔法とは思えない威力と範囲。全力でダンジョンの天井に放つ。
直後崩落するダンジョン。…狙いはダンジョンの崩落
「あっ……」
魔法を放った私は身体から力が抜けてしまい…動けない…私…死ぬの…?
「手間かかるお嬢様だなぁ!!」
【半狂化】【狂化スタイル:人狼『脚力強化』】
またも私をお姫様だっこして崩落するダンジョンから脱出する私達。
…脱出した直後に貧血で倒れ気絶した彼の側でわたわたする私……寝顔…?……またちゃんとした時にみたいな…
その後、冒険者ギルドから戻ってきたエステルさん達と合流。
後日、Sランクパーティーが崩落したダンジョンに向かって調査したがラースドラゴンは影も形も無かったらしい…
「それで…彼らについていくのかい?」
「…彼らじゃないです。パーティーリーダーはエステルさんですから……でもついていく事を決めたんです。…この街を救ったのは私達ですが、私を救ってくれたのは彼らなんです!!…だから…!!」
「いいですよ。行ってきなさい。ただ、たまには顔を見せて下さいね?」
「わかりました!おとうさん!!」
それから私はエステルさん勇者パーティーに加入しました。
アルフさんは賢者になれると言ってくれましたが、私は彼と背中合わせで戦いたい。…ネルさんは彼にアシストされるだけですので、私の方が互いに互いをアシストしてもっといい感じにできるはずなのです…
ねぇ…私の英雄さま。私の暗かった心を晴らしてくれた英雄さま…いつか…背中を預けられる相棒に…してくれませんか…?
…長くなりました。あと1個前日譚ありまづ




