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没落令嬢は農業で成り上がる!〜転生教師の魔導農園改革〜  作者: 星川蓮
第2幕:『浄化の理論と実践』

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第8話: 『魔導農法の体系化 – 魔術と生物学の融合』

お読みいただきありがとうございます!


いよいよ、オルターナ邸の臨時研究室は「農場」から「魔導工房」へと進化します。

ミレーヌとゴドウィンが共に取り組む実験は、ただの農法改良を越え、新たな学問――

魔導農学マナアグロノミー」 の萌芽へと繋がっていきます。


一方で、ゴドウィンが時折見せる謎めいた一面も少しずつ浮かび上がり……。

果たして彼は何者なのか?

そしてこの研究は、領地を救う大きな武器となるのか?


それでは本編をどうぞ!


【 Laboratory での徹底実験】


オルターナ邸の臨時 laboratory は、もはや当初の面影を留めていない。そこは、生物学と魔術が交差する一種の魔導工房と化していた。


室内には、各種の魔性土壌サンプルが並び、それぞれに魔導キノコの菌糸が植え付けられている。ミレーヌは、温度と湿度を変えた環境で菌糸の成長速度を比較する実験に没頭していた。彼女の手元には、細かい観察記録がびっしりと記されたノートが積み上がっている。


「……温度が高すぎると菌糸の活性は上がるが、逆に魔力的な老廃物の蓄積速度も上がってしまう。かといって低すぎると、浄化速度そのものが落ちる……。十五度前後が、効率と持続性のバランスが最も良いようだ」


彼女の隣では、ゴドウィンが異なるアプローチを取っていた。彼は目を閉じ、両手をかざした培養器の上で、ゆっくりと手を動かしている。指先からかすかな魔力の波動が放たれ、器の中の菌糸の状態を感知しようとしている。


「……ふむ」ゴドウィンが静かに呟く。「お嬢様の言う通り、菌糸は活発に活動しておりますな。しかし……その波動が、通常のキノコとは明らかに異なる。むしろ、ごく初歩的な魔術師が瞑想時に発する波動に近い……。これを『魔力的光合成』と呼ぶべきか……」


ミレーヌは顔を上げ、興味深そうにゴドウィンの手元を見つめた。

「魔力的光合成……?つまり、魔性の汚染物質を『吸収』し、それを『安定した魔力』と『自身の成長のための栄養』に『変換』している……? 生物学でいうところの化学合成細菌のようなものか……!」


二人の会話は、時に難解なまでに専門的になり、お互いの知識をぶつけ合い、補い合っていた。


【概念の定義 – 新たな学問の萌芽】


やがて、彼らは実験データと魔術的感知の結果を照合し、いくつかの重要な概念を定義し始めた。


·魔力的養分マナトリエント: 魔性の土壌中に含まれる、魔導キノコにとっての栄養源。他の生物には毒でも、彼らには糧となる。

·浄化効率パリフィケーション・レート: 単位時間あたりに浄化できる土壌の面積と魔性の濃度。魔導キノコの密度と魔力環境に依存する。

·作物魔力付与クロップ・マナ・インフュージョン: 魔導キノコが放出する純度の高い魔力が周囲の作物に吸収され、成長促進や品質向上をもたらす現象。


「これはもはや、単なる農法の改良ではない……」ミレーヌは興奮してデスクを叩いた。「魔導農学マナアグロノミー という、全く新しい学問分野の基礎を築いているのかもしれない!」


ゴドウィンも、厳格な顔に稀に見る興奮の色を浮かべていた。

“その通りでしょう。かつて、賢者の塔で……”彼はふと言いかけて、それ以上を語るのを止めた。“……いや、失礼。とにかく、これは画期的な発見です”


【マニュアル作成 – 知識の継承へ】


ミレーヌは、この貴重な知見が自分とゴドウィンだけのものに終わってはならないと考えた。彼女は新しいノートを手に取り、ペンを握った。

「ゴドウィン、これを『オルターナ式魔導農法・第一巻』としてまとめましょう。いつか、他の土地で苦しむ人々の助けになるかもしれない」


彼女は、絵や図を多用した、誰にでも分かりやすいマニュアルの作成を始めた。


·魔導キノコの見分け方と採取方法

·菌糸の培養手順(温度、湿度、魔力的環境の調整法)

·浄化したい土地への菌糸のすき込み方

·作物の選定と、魔力付与の期待される効果


ゴドウィンはその様子を温かく見守り、時に魔術的な観点から助言を加えた。

「ここは、『地脈の流れを感知し、魔力的養分が豊富な地点を選ぶと効率が良い』と注釈を入れるべきでしょう。感知方法は……いずれ、私が誰かに教えられる日が来るかもしれません」


【ゴドウィンの過去】


その言葉に、ミレーヌはふと疑問を抱いた。ゴドウィンの知識は、単なる博学の執事の域を明らかに超えている。

「ゴドウィン……あなた、本当はただの執事じゃないんでしょう?賢者の塔って……?」


ゴドウィンの表情がわずかに曇った。彼はしばらく沈黙し、窓の外の荒廃した領地を見つめた。

“……ミレーヌ様。私は今、オルターナ家の執事であり、貴女の片腕であります。それ以上でも、それ以下でもありません”

彼の声には、深い哀愁と、触れてほしくない過去を匂わせる重みがあった。

“……時が来れば、いつか……全てをお話ししましょう。しかし、今は……この農法の完成に、全力を注ぎたいのです”


ミレーヌはそれ以上は追及しなかった。彼にも言えない事情があるのだろう。今は、彼の知識と忠誠心に感謝し、信頼するしかない。


彼女は再びペンを握り直した。

“わかりました。それでは、次の章に行きましょう。『魔導キノコと普通の作物の共生システム』についてです”


書斎には、二人のペンの音と、魔導キノコの培養器から漏れるかすかな魔力の波動だけが、静かに響いていた。外界の荒廃や借金の重圧は忘れ、純粋に「知」を追求する時間――それは、やがて訪れるであろう嵐の前の、貴重で平和な準備期間 であった。



今日は「キノコのバリア」について。


実は、シイタケなどのキノコには「レンチナン」という成分が含まれています。

これは免疫力を高める働きがあるとされていて、昔から“病気に強くなる食べ物”として食べられてきました。

ある意味、人間にとっては“目に見えない防御力アップ”をくれる存在なんです。


……ミレーヌたちも、こんなバリアが欲しいでしょうね。


次回もお楽しみに!


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