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没落令嬢は農業で成り上がる!〜転生教師の魔導農園改革〜  作者: 星川蓮
第9幕『真実の代償』

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第77話『賢者の塔からの使者』

ゴドウィンが賢者の塔へ向かってから十日が経った。オルターナ領には静かな日々が流れているが、その平穏は長くは続かなかった。王都から、思わぬ客人が訪れる──


ゴドウィンが出発してから十日。


オルターナ領には、ここ数年になかったほどの平穏が訪れていた。魔導農園は順調に稼働し、作物は豊かに実り、人々の暮らしは少しずつ豊かになっている。カイルを失った悲しみはまだ癒えないが、リナは父の遺した技術を活かし、新たな装置の開発に励んでいた。


「ミレーヌ様、西の畑の小麦、今年は例年の倍は取れそうです!」

エズラが嬉しそうに報告に来る。


「それは良かった。でも、無理はしないでくださいね」

「ははは、この老いぼれ、まだまだ働けますよ!」


そんな穏やかな日々の中、ミレーヌはふとゴドウィンのことを思い出していた。

(無事に到着したのかな……)


---


その日の午後、領地の門


「ミレーヌ様! 王都から客人です!」

ガルムが慌てた様子で報告に来る。


「客人? 誰ですか?」


「それが……名乗るには及びません、と。『ゴドウィンの旧友』とだけ」


ミレーヌは眉をひそめた。ゴドウィンの旧友? 彼からそんな話は聞いていない。


応接間に向かうと、そこには一人の女性が立っていた。年の頃は四十代半ば、落ち着いた灰色のローブをまとい、知性を感じさせる眼差し。彼女はミレーヌを見るなり、優雅に一礼した。


「初めまして、オルターナ伯爵家当主。私はセレスタ・フォン・ライエン。賢者の塔、第三円環『応用魔導研究所』の者です」


ミレーヌの警戒心が一瞬で高まる。賢者の塔。ゴドウィンを追放し、父を利用し、ギデオンと手を組んだ場所。


「ゴドウィンの……旧友?」


「ええ」セレスタは穏やかに微笑む。「彼とは若い頃からの知り合いです。同じ開放派として、長年研究を共にしてきました」


「ゴドウィンは、塔に追放されたはずですが」


「ええ。彼が追放された時、私は止められませんでした。力が足りなかった。それが今も悔いています」


その言葉には、偽りのない哀しみが込められていた。


「それで、何の用で?」


「まずはこれを」セレスタは一通の封筒を取り出した。「ゴドウィンからです。彼が塔に到着した時、私に託されました」


ミレーヌが封筒を開けると、そこには見慣れた筆跡があった。


---


『ミレーヌ様


無事、賢者の塔に到着しました。

セレスタは私の旧友で、信頼できる人物です。

彼女は開放派の中でも、特に穏健な立場を取っています。

何かあれば、彼女を頼ってください。


塔の中は予想以上に混沌としています。

統制派はまだ力を保っていますが、ギデオン失脚の影響は大きい。

私の証言が、どれだけ受け入れられるかはわかりません。

しかし、やるべきことをやります。


領地のことは、お任せしました。

必ず戻ります。


ゴドウィン』


ミレーヌは手紙を読み終え、セレスタを見上げる。

「ゴドウィンは……今、どうしていますか?」


「彼は統制派の裁判で証言しています」セレスタの表情が曇る。「三十年前の事件の真相、遺物の兵器化計画、そしてギデオンたちとの癒着。彼の証言は、塔の中に大きな波紋を広げています」


「それは……危険ではないのですか?」


「ええ。統制派はまだ力を持っています。彼らはゴドウィンを『裏切り者』『危険な革命家』と呼び、排除しようとしています」


ミレーヌの手が震える。


「しかし、彼には味方もいます」セレスタは真剣な表情で言う。「開放派の者たち、そして……彼の証言に心を動かされた若い研究者たちが、彼を支えています」


「それで、あなたはなぜここに?」


「二つの理由があります」セレスタは指を立てる。「一つは、ゴドウィンの安否を伝えること。もう一つは……」


彼女は懐から一枚の羊皮紙を取り出した。


「あなたに、これを届けることです」


ミレーヌがそれを受け取ると、それは古い記録の写しだった。そこには、三十年前の事件に関する詳細な報告書が記されている。


「これは……?」


「賢者の塔が隠してきた真実の記録です」セレスタの声には怒りが込められていた。「遺物の兵器化実験、暴走の真相、そして……ゴドウィンに全ての罪を着せた計画」


ミレーヌは目を通していく。そこには、父の名前もあった。遺物発見の経緯、賢者の塔との接触、そして──


「これ……父も、最初は兵器化に反対していた?」


「ええ。あなたのお父様は、最初は遺物の農業利用を考えていたようです。しかし、統制派に取り込まれ、次第にのめり込んでいった」


ミレーヌは複雑な気持ちで記録を閉じた。父は最初から悪人だったわけではない。何かに取り憑かれるように、少しずつ道を誤っていった。


「なぜ、今これを?」


「ゴドウィンが言っていました」セレスタは優しく微笑む。「『彼女は真実を知るべきだ。たとえそれが辛くても』と」


---


その夜、領主館の書斎


ミレーヌは一人、記録を読み返していた。そこには、父の知られざる姿があった。


『オルターナ伯爵、当初は兵器化に強く反対。

「この力は人を育てるためにある。壊すために使ってはいけない」と。


しかし、度重なる実験失敗と研究費の枯渇に伴い、

徐々に統制派の主張に傾いていく。

最終的には、兵器化計画の中心的協力者の一人となる』


『伯爵は研究のため、多額の借金を重ねる。

ダンロップ商会からの借入金は、総額で──』


『伯爵、最期に後悔の言葉を残す。

「私は間違っていた。ミレーヌに、この借金だけは背負わせたくない」と』


ミレーヌは深く息を吐いた。


(父さん……あなたは、間違っていた。でも、最後には気づいていたんだね)


その時、扉をノックする音がした。


「ミレーヌ様、よろしいですか?」


イザベラだった。彼女はセレスタの訪問を聞きつけ、心配して来たらしい。


「話があるって聞いて。大丈夫?」


「うん……ちょっと、いろいろあって」


ミレーヌは簡潔に事情を説明した。賢者の塔からの使者、ゴドウィンの手紙、そして父の真実。


「大変だったのね……」イザベラはしばらく考えてから言った。「でも、それで全部、繋がったんじゃない?」


「繋がった?」


「ええ。お父様がなぜあんなことをしたのか。なぜ借金がそんなに膨らんだのか。そして……なぜゴドウィンがあそこまであなたを守ろうとしたのか」


ミレーヌは頷いた。確かに、全ての点が線になった気がする。


「ミレーヌ様、一つ聞いてもいい?」


「なに?」


「あなたは……ゴドウィンを許せるの?」


ミレーヌはしばらく沈黙した。

「……まだ、わからない。でも、彼のしたことを『間違い』だったとは思わない。方法は間違っていたかもしれないけど、彼は私を救おうとしてくれた。それだけは、確かだから」


イザベラは優しく微笑んだ。

「それでいいんじゃない。許すかどうかは、時間が解決するわ」


---


数日後、領地の門


セレスタは帰途につくことになった。


「ミレーヌ様、この数日、お世話になりました」

「こちらこそ。ゴドウィンのこと、よろしくお願いします」


「ええ」セレスタは頷く。「彼はきっと戻ってきます。あなたに裁かれるために」


「裁く……ですか」


「ええ。彼はずっとそう言っていました。『彼女に裁かれるまでは死ねない』と」


ミレーヌは胸が熱くなるのを感じた。


「私、裁くつもりはないんです。ただ……彼に帰ってきてほしい。それだけです」


セレスタは優しく微笑んだ。

「その言葉、彼に伝えます」


馬車が動き出す。セレスタの姿が次第に小さくなっていく。


「戻ってきて、ゴドウィン……」


ミレーヌの呟きは、春の風に乗って遠くへ消えていった。


賢者の塔からの使者、セレスタの登場。彼女を通じて、父の真実がさらに深く明らかになりました。父は最初から悪人だったわけではない。少しずつ道を誤っていった――そこに、人間の弱さと哀しさがあります。


そしてゴドウィン。彼は「裁かれるため」に戻ってくると言い続けていますが、ミレーヌは「裁くつもりはない」と。二人の関係性が、少しずつ変化していく予感です。


次回、第78話『ギデオンの最後の言葉』では、王都の牢獄にいるギデオンから、ミレーヌに最後の面会を求める手紙が届きます。彼が最期に遺す言葉とは?


お楽しみに!

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