表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
没落令嬢は農業で成り上がる!〜転生教師の魔導農園改革〜  作者: 星川蓮
第9幕『真実の代償』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

76/79

第76話『父の遺品 - さらなる真実』

ゴドウィンの告白から一夜明け、ミレーヌの胸には複雑な感情が渦巻いていた。父の野心、ゴドウィンの罪、そして自分自身の存在。しかし、父の遺品にはまだ、さらなる真実が隠されていた──

朝日が領主館の窓を柔らかく照らしていた。ミレーヌは昨夜からほとんど眠らず、書斎の椅子に座ったまま、父の日記を読み返していた。


手に取ったのは、日記の最後の方のページ。


『娘よ、もしこの日記を読んでいるなら──

お前に伝えなければならないことがある』


ミレーヌの手が止まる。父の直筆だった。


『お前が生まれる前から、私はこの遺跡に取り憑かれていた。

その力を使えば、領地は豊かになり、人々は幸せになれると信じていた。

だが、それは間違いだった。


私はのめり込んだ。

もっと強い力を、もっと多くの富を。

そのために、どれだけの借金を重ねたか。

ダンロップ商会から、賢者の塔から、ありとあらゆるところから金を借りた。


お前に残すのは、汚染された土地と莫大な借金だけだ。

すまない。

本当に、すまない。


でも、一つだけ真実を伝えておく。

私は殺されることを知っていた。

ギデオン・ダンロップが、賢者の塔が、いつか私を消そうとしていることを。

だから、お前を守るために、ある人に託した。


ゴドウィン。

あの男なら、お前を守ってくれる。

たとえ私が死んでも、あの男はお前を見捨てない。

なぜなら──』


そこで日記は途切れていた。次のページは破り捨てられていた。


「なぜなら……何?」


ミレーヌは眉をひそめる。父はゴドウィンに何を託したのか。そして、なぜこの部分だけが破られているのか。


---


その時、書斎の扉がノックされた。


「ミレーヌ様、よろしいですか?」


ゴドウィンだった。彼の目には深い隈があり、昨夜はほとんど眠れなかったことが伺える。


「どうぞ」


ゴドウィンは部屋に入ると、机の上の日記に目をやった。

「それを……読まれましたか」


「ええ。でも、最後のページが破られていた。なぜなら……何? 父はあなたに何を託したの?」


ゴドウィンはしばらく沈黙し、それからゆっくりと口を開いた。

「……お見せするものがあります」


彼は自分の部屋へ戻り、しばらくしてから一通の封筒を持って戻ってきた。黄ばんだ古い封筒には、ミレーヌの父の筆跡で「娘へ」と書かれている。


「これは……?」


「お父様が亡くなる直前、私に託されたものです。『もし娘が真実を知る時が来たら、これを渡してほしい』と」


ミレーヌは震える手で封筒を開けた。


---


『ミレーヌへ


お前がこれを読んでいるということは、ゴドウィンが真実を話したのだろう。

そして、お前は私のことを「愚かな父」と思っているかもしれない。

その通りだ。私は愚かだった。


しかし、一つだけ知っておいてほしい。

私はお前を愛していた。

遺跡のことばかり考えていたように見えたかもしれないが、

お前が生まれた時、初めてお前を抱いた時、

私は「この子のために、より良い領地を残したい」と心から思った。


その思いが、間違った方向に進んでしまっただけだ。


ゴドウィンに託したのは、お前の命だった。

もし私に何かあったら、お前を守ってほしいと。

彼はそれを引き受けてくれた。

その代わりに、私は彼に一つの約束をした。


『もしもの時は、お前の好きにしろ。娘を救うためなら、どんな手段を使っても構わない』と。


私は知っている。

ゴドウィンが何か「禁術」を研究していることを。

でも、それでお前が救えるなら、それでいいと思った。


お前は私の娘だ。

私の血を引く者だ。

だから、きっと強い。


たとえどんなことがあっても、お前は立ち上がれる。

そう信じている。


父より』


ミレーヌは手紙を読み終え、しばらく動けなかった。父の想い、父の罪、父の願い──全てが混ざり合って、胸の中を渦巻いている。


「お父様は……最後まで、私を想っていてくれたんだ」


「ええ」ゴドウィンが静かに頷く。「方法は間違っていたかもしれません。でも、あなたへの愛情は本物でした」


---


その日の午後、領主館の廊下


イザベラは庭を散歩していた。傷もほぼ癒え、歩くのにも支障はない。ミレーヌはそんな彼女を見つけ、声をかけた。


「イザベラ、少し話せる?」


「ええ、もちろん」


二人は庭のベンチに並んで座った。春の日差しが暖かい。


「最近、いろいろあって……頭の中を整理したくて」

ミレーヌはそう言って、遠くを見つめた。


「何かあったの?」


「ええ……」ミレーヌはしばらく間を置いてから、口を開いた。「イザベラ、あなたは『生まれ変わり』って信じる?」


「突然ね」イザベラは少し驚いたが、真剣に考え始めた。「そうね……この世界にも、魂は輪廻するという教えはあるわ。でも、私はそれほど詳しくないの」


「そう……」

ミレーヌはそれ以上は言わなかった。


イザベラは何かを感じ取ったようだったが、無理に聞こうとはしなかった。

「何か悩み事があるなら、いつでも聞くわよ。力になれるかはわからないけど」


「ありがとう。でも、今はまだ……」


「わかった。話したい時に話せばいい」イザベラは優しく微笑んだ。「でも、一つだけ言わせて。あなたが誰であろうと、私にとっては『ミレーヌ様』よ。それは変わらないから」


ミレーヌは胸が熱くなるのを感じた。

「……ありがとう」


---


夕方、工房にて


リナはカイルの遺した装置の前に座っていた。彼女の目は赤く腫れているが、手はしっかりと装置を調整している。


「リナ」


ミレーヌが工房を訪れると、リナは振り返って微笑んだ。

「ミレーヌ様。見てください、父さんの装置、もっと小型化できました」


そこには、掌に乗るほどの小さな球体が置かれていた。カイルの命と引き換えに完成した「生態系調和爆雷」の、さらに進化した姿だった。


「これなら、もっと簡単に使えます。それに……」リナは装置を優しく撫でる。「父さんの意志が、ここに詰まってる」


「リナ、あなたは……偉いわ」

ミレーヌは彼女の肩に手を置く。

「お父さんは、きっと誇りに思ってる」


「ミレーヌ様……」リナの目に涙が浮かぶ。「私、決めたんです。この装置を、もっと多くの人を救うために使いたい。父さんみたいに、誰かのために役立てたい」


「一緒にやろう」ミレーヌは微笑んだ。「私たちで、この技術を広めていくの」


---


夜、領主館の屋上


ミレーヌは一人、屋上に立っていた。満天の星空が、辺境の地を優しく照らしている。


(杉本大輔としての人生と、ミレーヌ・オルターナとしての人生──どちらも、私だ)


彼女は胸のペンダントに触れた。母から譲られたそれは、今は父の手紙と一緒に、彼女の心の支えになっていた。


「父さん、母さん……見てますか?」


呟きは、星空に消えていく。


「私は、ここで生きていきます。あなたたちが残したこの領地で、あなたたちの想いを引き継いで」


足音がして、振り返るとゴドウィンが立っていた。


「ミレーヌ様、少しお話を」


「何ですか?」


ゴドウィンは彼女の隣に立ち、星空を見上げた。

「私は近々、賢者の塔へ行こうと思います」


「賢者の塔に? なぜ?」


「全てを終わらせるためです」ゴドウィンの横顔は、覚悟に満ちていた。「統制派との因縁、私の罪、そして遺物の真実。全てを、私の口で証言する」


「でも……危険じゃないですか?」


「ええ。でも、それが私の役目です」ゴドウィンはミレーヌに向き直った。「あなたは、ここに残ってください。領地を、人々を守るために」


ミレーヌは彼の目をまっすぐ見つめた。

「わかった。でも、必ず戻ってきて。約束して」


ゴドウィンは微笑んだ。

「ええ、約束します。あなたに裁かれるまでは、死ねませんから」


二人はしばらく無言で星空を見上げていた。


---


翌朝、領地の門


ゴドウィンを見送るため、多くの人々が集まっていた。ガルム、イザベラ、リナ、エイラン、そして領民たち。


「ゴドウィン、無事で帰ってこいよ」

ガルムが力強い言葉をかける。


「ええ、必ず」


「先生、これ持っていってください」

リナが小さな球体を差し出す。

「父さんの装置です。もしもの時に」


ゴドウィンはそれを受け取り、優しく撫でた。

「カイル……ありがとう。必ず、役立てる」


「ゴドウィン」

ミレーヌが前に出る。

「あなたは……私の恩人であり、罪人でもある。でも、それ以上に、大切な仲間だ」


「ミレーヌ様……」


「行ってらっしゃい。戻ってきたら、また一緒に農園を眺めましょう」


ゴドウィンは深く頭を下げ、馬車に乗り込んだ。


馬車がゆっくりと動き出す。見送る人々の姿が、次第に小さくなっていく。


(必ず戻る。あなたに裁かれるために)


ゴドウィンは胸に秘めた誓いと共に、新たな旅立ちへと向かっていった。


父の手紙、リナの成長、そしてゴドウィンの旅立ち──多くのことが動いた76話でした。


今回は、ミレーヌが転生のことをイザベラに話さないよう修正しました。彼女はまだ、誰に何をどこまで話すべきか迷っている途中です。「生まれ変わりを信じる?」というぼんやりした問いかけだけで、具体的な告白はしていません。彼女の心の整理は、まだこれからですね。


そしてゴドウィンは賢者の塔へ。彼の運命やいかに?


次回、第77話『賢者の塔からの使者』では、ゴドウィンの旅立ちと同時に、新たな動きが……お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ