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没落令嬢は農業で成り上がる!〜転生教師の魔導農園改革〜  作者: 星川蓮
第9幕『真実の代償』

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第75話『沈黙の告白 - ゴドウィンの過去』

長い戦いが終わり、オルターナ領に平和が訪れようとしている。しかし、ゴドウィンの目は深い哀しみを帯びていた。彼が三十年間隠し続けてきた真実が、今、明かされようとしている

戦いの終結から一週間が経った。


オルターナ領には、かつてない穏やかな日々が流れていた。魔導農園は安定して稼働し、作物は順調に育ち、人々の顔にも笑顔が戻りつつある。カイルを失った悲しみはまだ癒えぬものの、領地全体に「再生」の空気が満ちていた。


そんな中、ミレーヌは領主館の書斎で、父の遺品の整理を続けていた。


「これは……?」


古びた書棚の奥から、鍵のかかった小さな箱が見つかった。誰にも見せなかったのだろう、ほこりをかぶっている。


ミレーヌは躊躇した。父の秘密に触れるような気がして。しかし、そこにあった鍵穴を見て、ふと自分の首元に手をやる。転生した時から身につけていた小さなペンダント――試しに鍵穴に差し込むと、かちりと音がした。


箱の中には、一冊の古い日記と、何枚かの手紙、そして分厚い借用書の束が入っていた。


「これは……!」


ミレーヌは息をのんだ。借金の額は、彼女が背負わされたものと一致する。いや、それ以上だ。日付を追うと、すべてが彼女が生まれる前――遺跡発見直後から始まっている。


読み進めるうちに、ミレーヌの手が震え始める。


そこには、彼女の知らなかった「父の顔」があった。遺跡の発見、賢者の塔との接触、そして「ある計画」の存在。父は理想主義者などではなかった。遺物の力を追い求め、利用しようとしていた一人の野心家だった。


そして、その研究のために、彼は莫大な借金を重ねていた。


『本日、ダンロップ商会より新たに金貨三千枚を借り入れた。これで遺物の解析装置が購入できる。成功すれば、十倍になって返ってくる』


『研究に行き詰まる。さらに装置が必要だ。また借りるしかない』


『奴らは笑っている。この借金が返せなくなれば、領地を乗っ取れると。わかっている。でも、もう止まれない』


最も衝撃的だったのは、最後のページに書かれた一文だった。


『もし計画が失敗すれば、すべての責任はゴドウィンに被せよう。彼は外から来た者だ。都合のいいスケープゴートになる。そして借金は……娘に背負わせることになるだろう。すまない、ミレーヌ』


ミレーヌはその場に座り込んだ。頭の中が真っ白になる。


(この借金は……全部……父が……)


---


その夜、ミレーヌはゴドウィンを訪ねた。彼の部屋の前で立ち止まり、深く息を吸う。ノックをすると、中から穏やかな声が返ってきた。


「どうぞ」


部屋の中は、古書と薬草の香りが混ざった、彼らしい空間だった。ゴドウィンは机に向かって何かを書いていたが、振り返ってミレーヌの表情を見るなり、微かに眉をひそめた。


「ミレーヌ様……どうかなさいましたか?」


「これ……見つけました」

ミレーヌは父の日記と借用書の束を差し出す。


ゴドウィンがそれを受け取り、数ページめくる。その顔色が、みるみるうちに変わっていく。


「……どこで?」


「父の書斎です。この借金……私が背負わされたもの全部、父が遺跡研究のために借りたものだったんですね」


ゴドウィンは長い沈黙の後、ゆっくりと頷いた。

「……はい。あなたのお父様は……遺物の力を追い求めるあまり、多くのものを犠牲にされた」


「あなたは……知っていたんですか? 父があなたを利用しようとしていたことも?」


「……知っていました」


「それでも、なぜここに残ったんですか? 騙されていたと知って、なぜ去らなかった?」


ゴドウィンは立ち上がり、窓辺に歩いていく。月明かりが、彼の白い髪を銀色に染めていた。


「お話ししましょう。全てを」


---


「三十年前、私は賢者の塔の第四円環に所属していました。研究の日々に生きがいを感じ、古代遺物の謎を解くことに情熱を注いでいた」


ゴドウィンの声は静かに、遠い過去を辿るように始まった。


「そんな時、オルターナ伯爵から招待状が届いた。領地で古代遺跡が発見されたので、調査に来てほしいと。私は喜んでやって来た。これが、運命の分かれ道だった」


「最初は純粋な学術調査のつもりでした。しかし、すぐに気づいた。伯爵の本当の目的は、遺物の『兵器利用』だと。私は反対した。あの遺物は、命を育むために作られたものだ。破壊のために使ってはいけない」


ミレーヌは黙って聞いている。


「伯爵は私の反対を無視して、独自に研究を進めた。そして……失敗した。遺物が暴走し、領地は汚染された」


「その責任を、あなたに?」


「ええ。伯爵は全ての罪を私に着せた。『招き入れた賢者の塔の魔術師が暴走させた』と。私は追われる身となり、逃げ回るしかなかった。そして伯爵は……研究のために借りた借金も、全てあなたに残して、この世を去った」


ゴドウィンは窓枠に手をかけ、深く息を吐いた。


「でも……それだけなら、私はここにはいなかった。逃げ続けていただろう。でも……」


彼は振り返り、ミレーヌをまっすぐ見つめた。


「あなたのお祖父様が、私を匿ってくれた。真実を知りながら、それでも『この土地を元に戻す方法を見つけよ』と。その言葉に、私は残る決意をした」


---


「それから何十年も、私は研究を続けた。領地の汚染を元に戻す方法を、一人で模索し続けた。そして――ようやく、遺物を完全制御する理論が固まった」


ゴドウィンの声が、わずかに震える。


「しかし、その時にはもう……あなたの父は亡くなっていた。そしてあなたは、崖から落とされ、深い昏睡状態に陥っていた」


ミレーヌの背筋が冷たくなる。


「あの時、あなたの命は……危険だった。精神攻撃によって、あなた自身の魂は深く傷ついていた。この世界の魔術では、決して修復できないほどに」


「それで……あなたは何を?」


ゴドウィンはゆっくりと机の引き出しを開け、古い日記を取り出した。表紙には、彼自身の手で「禁術の記録」と書かれている。


「私はある禁術を知っていた。異世界から『別の魂』を呼び寄せ、傷ついた肉体に宿す術だ。成功率は……極めて低い。入ってきた魂が、この世界を受け入れる保証もない。それでも……」


「それでも、やったんですね」


「はい」


ゴドウィンは日記を開き、あるページを指さした。そこには、儀式の詳細と共に、こう書かれていた。


『儀式、成功せり。

しかし、これが正しかったのか、今もわからない。

呼び寄せた魂は、向こうの世界で生きるはずだった命だ。

倒れた後、発見され、治療を受け、回復するはずだった。

私はその未来を奪った。

私が、この手で、彼の人生を終わらせた』


ミレーヌの呼吸が止まる。


「あなたは……死ぬはずじゃなかった。倒れた後、誰かに発見され、病院に運ばれ、治療を受けるはずだった。数日後には目を覚ましていたかもしれない」


ゴドウィンの声は、かすかに震えていた。


「私はそれを奪った。あなたの人生を。家族との時間を。全てを」


「でも……私はここに……」


「その通りだ。あなたはここにいる。この世界で生きている。それが私のしたことだ。死にかけた魂を救ったのではない。生きるはずだった命を、無理やり引き剥がしたんだ」


沈黙が部屋を満たす。長い、重い沈黙が。


---


「では、あの借金も……全部、父のせいだったんですね」


ミレーヌの声はかすかだった。


「はい。あなたは何も悪くない。ただ、父の野心のツケを背負わされただけだ」


「そう……だったんだ……」


彼女はうつむき、しばらく沈黙した。そしてゆっくりと顔を上げる。


「なぜ……今まで黙っていたんですか?」


「二つの理由があります」

ゴドウィンはうつむいたまま答える。

「一つは……精神崩壊のリスクです。自分の人生が『偽物』だと知った時、人間は正気を失うことがある。あなたが強くなるまで、言えなかった」


「もう一つは?」


ゴドウィンは顔を上げた。その目には、深い哀しみと、そして恐怖のようなものが浮かんでいる。


「……あなたに恨まれるのが怖かった」


「恨む?」


「あなたがこの世界に来た時、あなたは死ぬはずじゃなかった。私が、勝手に連れてきただけだ。もしあなたが『戻りたい』と思ったら? もし『お前のせいで全てを失った』と呪ったら?」


彼の声が震える。


「あなたの笑顔を見るたび、思った。『この笑顔は、私が奪った人生の上に成り立っている』と。そして同時に、この笑顔を失いたくないとも思った。自分が何よりも怖かった。あなたに嫌われることが」


「だから……隠していた?」


「……はい」


ミレーヌは立ち上がり、ゆっくりとゴドウィンに近づいた。


「ゴドウィン」


「……はい」


「あなたは……私の人生を奪った。それは確かに、罪だと思う。この借金だって、父のせいで私は苦しんできた。でも……」


彼女は窓辺に立ち、月明かりに照らされた領地を見渡した。


「父が遺跡を発見していなければ、私はここにいなかった。あなたが儀式をしなければ、私は死んでいた。皮肉なものだ。父の野心が、私をここに導き、あなたの罪が、私を生かした」


振り返り、彼女は言う。


「私は杉本大輔だった。でも今はミレーヌ・オルターナだ。この土地を愛し、この人々を守りたいと思っている。それは……偽物じゃない」


「ミレーヌ様……」


「あなたを恨むかどうかは……まだわからない。でも、今はこう言える。この人生も、悪くないって」


ゴドウィンの目から、涙が一筋こぼれ落ちた。


---


深夜、領主館の廊下


部屋を出た後、ミレーヌは一人、廊下を歩いていた。頭の中は様々な感情で渦巻いている。怒り、悲しみ、困惑、そして――どこかにある、奇妙な安堵感。


(杉本大輔としての人生は、確かにあった。でも、今ここにあるのも、確かな人生だ)


ふと、転生の狭間で聞いた女性の声を思い出す。


『お願い……私の領地を……人々を守って』


(あの声は……元のミレーヌか)


彼女は自分の胸に手を当てる。


(あなたの想い、確かに受け取った。父の借金も、あなたの願いも、全部背負って、この人生をちゃんと生きるから)


窓の外では、新しい朝が静かに訪れようとしていた。

ついにゴドウィンの過去と、転生の真実が明かされました。


そして今回明らかになった衝撃の事実――ミレーヌが背負わされた借金は、全て父が遺跡研究のために借りたものだった。娘にツケを回して消えた父親。その罪の意識からか、ゴドウィンは長年、彼女を支え続けてきた。


生きるはずだった命を奪った罪。恨まれる恐怖。そしてそれでもミレーヌを救いたかった想い――ゴドウィンの告白、いかがでしたか?


ミレーヌの反応は「恨むかどうかはまだわからない」。簡単に許すわけでも、完全に拒絶するわけでもない、リアルな反応を目指しました。


そして今回は、定期テストの関係で少し投稿が遅れてしまいました。学生作者ゆえの事情ということで、温かく見守っていただけると嬉しいです…!


次回、第76話『父の遺品 - さらなる真実』では、祖父の役割、そして賢者の塔との因縁がさらに深く明らかになります。


お楽しみに!


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