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【祝!1万PV突破!】没落令嬢は農業で成り上がる!〜転生教師の魔導農園改革〜  作者: 星川蓮
第7幕『魔導農園への飛躍 - 防御から反撃へ』

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第69話『媒介者の限界 - ミレーヌの苦悩』

戦いは終わったが、代償は大きかった。カイルの死、ギデオンの逃亡、そしてミレーヌ自身に迫る危機──媒介者としての負担が、彼女の心身を蝕み始める。

カイルの死から三日が経った。


オルターナ領には、戦いの痕跡がまだ生々しく残っている。焼けた植物の防壁、壊れた装置、そして何より──人々の顔に刻まれた深い疲労と悲しみ。


領主館の書斎では、ミレーヌが机にもたれかかり、苦しそうに息をしていた。彼女の手は震え、額には冷や汗が浮かんでいる。


「ミレーヌ様、もう休まれては」

エイランが心配そうに近づくが、ミレーヌは微かに首を振る。


「だめ……まだ、やることが……」


彼女は立ち上がろうとするが、めまいがしてよろめく。エイランが慌てて支える。


「お嬢様! 無理をなさらないでください! この三日、ほとんど眠っていらっしゃらないじゃありませんか」


「寝られないの……」

ミレーヌの声はかすれている。

「目を閉じると……カイルさんの最後の瞬間が……戦場の痛みが……」


魔導農園の影響


ミレーヌが媒介者として抱える問題は、単なる肉体的疲労ではなかった。魔導農園のネットワークを通じて、彼女は領地全体の「痛み」を感じ取っていたのだ。


負傷した兵士の苦しみ。

死んだ植物の無念。

土地そのものが受けた傷。

そして──カイルが死んだ瞬間の、あの深い悲しみと解放感。


「すべてが……つながりすぎている」

ミレーヌは震える手で胸を押さえる。

「どこが私で、どこが土地なのか……わからなくなる」


エイランは何も言えず、ただミレーヌの手を握りしめる。


その時、書斎の扉をノックする音がした。ゴドウィンだった。彼もまた、カイルの死と戦いの後処理で憔悴していた。


「ミレーヌ様……お話があります」


ゴドウィンは机の向かいに座り、深刻な表情で語り始める。

「媒介者としての負担について、もっと深刻に考えなければなりません。あなたは今、魔導農園のネットワークと深く同期しています。それは良いことですが……危険でもあります」


「どういう……意味ですか?」


「ネットワークを通じて、あなたは土地の感情──いえ、生命の反応を感じ取っています。それは植物の、微生物の、そして人々の感情です。そのすべてを、あなた一人で処理することは不可能です」


ゴドウィンはため息をつく。

「私は以前、似たような状態になった者を知っています。彼は最後には……自分が何者かわからなくなり、ネットワークそのものと同化してしまった」


ミレーヌの顔色がさらに青ざめる。


「どうすれば……」


「二つの道があります」ゴドウィンが指を立てる。

「一つは、ネットワークからの切断。媒介者としての役割を放棄し、普通の人間に戻ることです」

「もう一つは……『分霊術』です」


「分霊術?」


「あなたの媒介者としての負担を、他者と分担する術です。ただし……」ゴドウィンは言葉を選ぶ。「これは禁術です。分担する者は、あなたの負担の一部を引き受け、その代償を払うことになります」


「誰がそんな……!」

「私がします」


その声は、書斎の入口から聞こえた。そこにはガルムが立っていた。


「ガルム……?」

「私は戦士です。痛みや苦しみには慣れています」ガルムは真剣な表情で部屋に入る。「ミレーヌ様が倒れれば、この領地は守れません。ならば、私が代わりに苦しみを引き受けます」


「できません」ミレーヌが即座に否定する。「そんな危険な術で、あなたを傷つけるわけには──」


「すでに傷ついています」


皆がガルムを見る。彼は続ける。

「戦いで倒れた兵士たちの顔が……夜、夢に出てきます。カイルの最後も見ました。ならば、せめて意味のある苦しみにしたい」


長い沈黙が流れる。


リナの選択


その翌日、別の問題が発生した。


工房で、リナが父の遺した装置を操作しようとしているのを、ベルトルト親方が見つけたのだ。


「リナ! 何をしている!」

「父さんの研究……続けます」

リナの目は泣き腫らしているが、意志は固い。

「父さんが命をかけて完成させた技術……無駄にしません」


「だが、お前はまだ若い! そんな危険な──」


「若いからこそ、やります!」


その喧騒を、たまたま通りかかったミレーヌが耳にする。彼女は工房に入り、リナの前に立つ。


「リナさん……」

「ミレーヌ様、お願いです。父さんの仕事を続けさせてください」


ミレーヌはリナの目を見つめる。そこには悲しみだけでなく、確かな決意があった。


「わかった。でも、二つの条件を守ってください」

「はい!」

「一つ、ベルトルト親方の指導の下で行うこと。二つ……無理をしないこと。あなたの父さんは、あなたの未来を何よりも願っていました」


リナの目に涙が浮かぶ。

「ありがとうございます……」


賢者の塔の動向


その頃、オルターナ領から逃れた賢者の塔の魔術師ヴァイスは、西の山岳地帯にある臨時の拠点で、興味深い発見をしていた。


「ゴドウィン……よくもここまで隠していたな」


彼の目の前には、オルターナ領から持ち出した魔導農園の植物サンプルがあった。それらを分析した結果、驚くべき事実が判明していた。


「この生命活性化の効果……単なる古代遺物の再生ではない。何か別の要素が加わっている」


部下の魔術師が報告する。

「ヴァイス閣下、解析が進みました。どうやら……『異世界の知識』が組み合わさっているようです」

「異世界?」

「はい。植物の育成方法、生態系の制御……これらはこの世界の魔導理論だけでは説明できません」


ヴァイスの目が細くなる。

「ゴドウィンが、異世界の知識を得たのか? それとも……あの女が?」


彼は立ち上がり、窓の外を見つめる。

「面白い。調査を続けよ。もし本当に異世界の知識があるなら……賢者の塔はどんな代償を払ってもそれを手に入れる」


ミレーヌの悪夢


夜、ミレーヌはまた悪夢にうなされた。


夢の中では、彼女は魔導農園そのものになった。根は彼女の血管となり、葉は彼女の皮膚となり、花は彼女の感覚器官となる。


そして、そこを通じて、無数の声が聞こえてくる。


『痛い……』(焼かれた植物)

『悲しい……』(死んだ兵士)

『許して……』(傷ついた土地)


「やめて……!」

ミレーヌは飛び起きる。胸は激しく鼓動し、呼吸が乱れている。


エイランが駆け寄る。

「お嬢様! またあの夢ですか?」


「エイラン……私……だめかもしれない」

ミレーヌは震える手で顔を覆う。

「どれが私の感情で、どれが他人の感情か……わからなくなってきた」


「お嬢様……」


その時、窓の外から微かな光が見える。ミレーヌが窓辺に寄ると、そこには意外な光景が広がっていた。


領民たちが、ろうそくを持って集まっているのだ。その中心には、カイルを偲ぶ小さな祭壇が設えられていた。


「カイルさん……ありがとう」

「あなたのおかげで、生き残れました」

「安らかに眠ってください」


彼らは祈り、歌い、カイルの冥福を祈っていた。その中には、戦いで傷ついた元敵兵の姿もあった。


「あの人たち……」

ミレーヌが呟く。


「カイル様の最後の行為は、敵味方の区別をなくしましたから」エイランが説明する。「多くの兵士が、もう戦いたくないと……ここに残りたいと言い出しています」


ミレーヌはその光景を見つめながら、ある感情が沸き上がるのを感じた。それは──感謝だった。土地からの感謝、人々からの感謝。


そして、それと同時に、別の感情も。


(これが……私の役目なのかもしれない)


彼女はエイランに向き直る。

「ゴドウィンを呼んでください。分霊術について……もう一度話を聞きたい」


「お嬢様! でもあれは危険だと──」

「わかっています。でも……このままでは、本当にだめになりそうです」


次の朝、書斎で三人の話し合いが行われた。


「分霊術の詳細を教えてください」ミレーヌがゴドウィンに求める。


ゴドウィンは重苦しい表情で頷く。

「この術は、媒介者の魂の一部を分割し、他者に託すものです。これにより、ネットワークからの情報流入を分散できます」


「代償は?」

「大きく三つあります」ゴドウィンが指を折る。

「第一に、術をかける者──私の場合、大幅な魔力の減衰、あるいは完全な喪失。第二に、受け取る者──ガルムの場合、媒介者としての苦痛の一部を永続的に引き受けること。第三に……媒介者自身、つまりミレーヌ様の場合、能力の一部を永久に失う可能性があります」


「能力の……一部?」

「はい。おそらく、ネットワークとの深い同期能力です。術の後は、今のような完全な媒介者ではなくなります」


ミレーヌは考える。能力を失うことは、確かに恐ろしい。しかし、このままでは自我を保てないのも事実だ。


「成功率は?」

「……六割です。失敗すれば、三人とも命を落とす可能性があります」


重い沈黙が流れる。


「それでもやります」

ガルムが言い切る。

「ミレーヌ様が倒れるよりは、ましです」


ミレーヌは二人を見つめる。ゴドウィンには既に覚悟の色が見える。ガルムの決意も固い。


「では……お願いします」


決断が下された。しかし、その時──


書斎の扉が勢いよく開き、息を切らした通信兵が入ってくる。

「ミレーヌ様! 緊急報告です!」

「どうした?」

「王都から……正式な使者が来ています! しかも、王室の紋章を掲げた大規模な一行です!」


三人の顔色が一変する。


「いつ到着する?」

「あと二時間ほどで、領地の入口に……!」


使者の到着。分霊術の決断。そしてまだ消えない賢者の塔の影──


ミレーヌの苦悩は、まだ終わっていなかった。

ミレーヌの苦悩が深まっていきます。媒介者としての能力が、逆に彼女を苦しめているという皮肉……。分霊術という危険な選択肢が提示され、彼女は重大な決断を迫られています。


王都からの使者が到着するという新たな展開も気になります。これは吉報か、凶報か? ギデオンは逃げたままですし、賢者の塔の動向も不気味です。


次回『分霊の儀式 - 託される想い』では、ミレーヌの決断と、分霊術の行方に焦点を当てます。どうなることやら……

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