表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【祝!1万PV突破!】没落令嬢は農業で成り上がる!〜転生教師の魔導農園改革〜  作者: 星川蓮
第7幕『魔導農園への飛躍 - 防御から反撃へ』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

69/71

第68話『カイルの贖罪 - 工房の最終兵器』

ギデオンが禁呪を発動させ、戦場は絶体絶命の危機に陥ります。その時、カイルから思いがけない申し出が──命をかけた償いの時が来ました。

ギデオンが唱え始めた禁呪は、周囲の空気そのものを歪ませていた。地面は黒く腐敗し、草木は一瞬で枯れていく。その影響は魔導農園のネットワークにも及び、ミレーヌは思わず膝をつく。


「この呪いは……生命そのものを否定する……!」


「ミレーヌ様!」ガルムが駆け寄ろうとするが、禁呪の影響範囲が急速に広がり、近づくことすらできない。


制御室からゴドウィンの声が通信機から響く。

『あの禁呪は“死の園”と呼ばれるものだ! 範囲内のあらゆる生命活動を停止させる! 止めなければ、領地全体が……』


「どうすれば……」ミレーヌは苦しげに頭を抱える。魔導農園の浄化能力でも、このレベルの死の呪いを中和するのは難しい。


その時、別の通信が入る。工房からの緊急連絡だった。


『ミレーヌ様……聞いてください』


カイルの声だ。彼の声には、どこか諦観に満ちた覚悟が込められていた。


『私には……罪があります。でも今、償う方法があります』


「カイルさん、何を言っているのですか?」


『工房で……最終兵器を開発していました。“生態系調和爆雷”です。これは殺傷兵器ではありません。広範囲の生物の意識を一時的に同一化し、敵味方の区別なく戦闘意欲を消失させる装置です』


通信機の向こうで、カイルの説明が続く。

『しかし、これを作動させるには……媒介者の生命エネルギーが必要です。私は開発者として、その役割を果たします』


一瞬、沈黙が流れる。


「……死ぬと言うのですか?」ミレーヌの声は震えていた。


『償いです。私があの時、情報を漏らさなければ……この戦いも、ここまで苛烈にならなかったかもしれません』


「違います! あなたはもう償っている! 工房の仕事も、前線の支援も──」


『それでも足りません』カイルの声は優しかった。『ミレーヌ様、あなたは私を許してくれました。でも、私は自分自身を許せないんです』


その時、リナの声が割って入る。

『父さん! ダメです! 私が代わります!』

『リナ……お前はこれからだ。未来がある』

『父さんだって未来がある!』


工房内


カイルは、工房の中央に設置された円柱状の装置の前に立っていた。装置の表面には無数の魔導回路が刻まれ、中心には生体組織のようなものが脈打っている。


「リナ、聞いてくれ」カイルは娘の肩に手を置く。「お父さんはね……お前を救った時、人生で初めて正しいことをしたと思った。でもその後……弱くて、間違った選択をしてしまった」


彼の目に涙が光る。

「今、もう一度正しいことをしたい。お前や、この土地の人々を守りたい」


「でも、そんなの……ただの自己満足じゃないですか!」

リナも泣きながら訴える。

「生きて償う方法があるはずです!」


その時、工房の扉が開き、ベルトルト親方が入ってくる。彼はカイルを見つめ、深く頷いた。

「……お前の覚悟、わかった。だが、装置の調整はまだ完璧じゃない。成功率は七割だ」


「それで十分です」


戦場


ギデオンの禁呪はさらに範囲を広げていた。半径五十メートルがすでに「死の園」と化し、そこに入った兵士たちは次々と倒れていく。味方も敵も関係ない無差別の破壊だ。


「狂ってる……!」イザベラが震える声で呟く。「あの人は、本当に狂ってる……!」


ミレーヌは苦痛に顔を歪めながらも立ち上がる。

「カイルさん……お願いします。でも……生きて戻ってきてください」


通信機の向こうで、カイルの優しい笑い声が聞こえる。

『約束はできませんが……できる限りのことはします』


工房、起動直前


カイルは装置の制御パネルの前に座り、首と腕に無数の電極を取り付けられる。装置は彼の生命活動をエネルギー源として稼働する。


「最後の調整完了」ベルトルト親方が報告する。「お前の生命力を徐々に吸収し、三十分かけて最大出力に達する。その間、苦痛が……」


「構いません」


カイルはリナを見つめる。

「お前を……誇りに思っているよ。立派な技術者になったな」

「父さん……」


「では……行くよ」


カイルがスイッチを押す。


戦場


突然、空気が変わった。


ギデオンの禁呪が広がる「死の園」の縁で、新たな現象が起きる。緑色の光の波紋が、死の領域にじわりと浸透し始めたのだ。


「なんだ……これは?」ギデオンが詠唱を中断し、周囲を見渡す。


光の波紋は、枯れた大地に触れると、かすかではあるが新芽を吹かせる。死んだ兵士たちの周囲には、小さな花が咲き始める。


そして最も驚くべきは、兵士たちの意識に起こった変化だった。


敵も味方も区別なく、突然、戦闘行為を止めたのである。剣を構えていた手が下がり、弓を引いていた指が緩む。


「何……しているんだ?」「なぜ……戦おうとしていたんだ?」


彼らは互いを見つめ、自分たちの行為に疑問を抱き始める。憎しみや敵愾心が、霧のように消えていく。


「生命の……つながり……?」


ミレーヌが感じ取る。カイルの装置が放つエネルギーは、あらゆる生命の根源的なつながりを思い出させ、個々の対立を無意味に感じさせるものだった。


「くだらん……!」

ギデオンが怒り狂う。

「そんなおとぎ話じみた力が、我が禁呪に勝てると思うか!」


彼は禁呪の詠唱を再開し、より強力な死の波動を放つ。黒い領域が緑の光を押し戻し始める。


工房


「出力……不足しています……」ベルトルト親方がモニターを見つめる。

「ギデオンの禁呪が強すぎる。このままでは……」


カイルの顔には、苦痛の表情が浮かんでいる。装置は彼の生命力を急激に吸い取り始めていた。

「もっと……出力を……」


「ダメだ! それ以上上げれば、お前の寿命が──」


「構わん!」


カイルは歯を食いしばり、制御レバーを最大まで押し込む。


戦場


緑の光が突然、爆発的に増大する。それは優しい光ではなく、強い意志に満ちた、圧倒的な生命の奔流だった。


光は死の園を飲み込み、枯れた大地を潤し、倒れた兵士たちを蘇生させる。ギデオンの禁呪は完全に打ち破られた。


「不可能……! この私が……辺境の庶民に……!」


ギデオンは膝をつく。禁呪の反動と、カイルの装置の影響で、彼の戦意も消えつつあった。


兵士たちは完全に武器を捨てた。敵味方の区別なく、お互いを助け起こし始める。


「……終わったのか?」ガルムが呟く。


しかし、ミレーヌの表情は暗いままだった。彼女は感じていた──カイルの生命が、急速に消えていくのを。


工房


装置が停止した。静寂が訪れる。


カイルは制御席に倒れ込み、息も絶え絶えだ。リナが駆け寄る。

「父さん! 父さん!」


「……成功……したみたいだな」

カイルの声はかすれている。

「ごめんね……リナ……約束、守れなくて……」


「そんなこと言わないで! 医者を呼びます! すぐに!」


ベルトルト親方がカイルの脈を取る。そして、悲痛な表情で首を振る。

「……遅すぎた。生命力の大半を……装置が吸い取ってしまった」


「冗談でしょう……? 父さん……!」


カイルはかすかな笑みを浮かべる。

「やっと……肩の荷が下りた……お前を……誇りに……」


彼の目がゆっくりと閉じる。手はリナの手を握ったまま、力が抜けていく。


「父さああん!」


リナの泣き声が、工房に響き渡る。


戦場


ミレーヌはその悲鳴を、魔導農園のネットワークを通じて感じ取った。彼女の目から涙がこぼれる。


「カイルさん……」


戦いは終わった。敵は無力化され、ギデオンも捕縛された。しかし、その代償は大きすぎた。


ミレーヌは立ち上がり、兵士たちを見渡す。敵も味方も、もう戦う意思はない。彼らはただ、何が起こったかを理解しようとしている。


「戦い……終わりです」

ミレーヌの声は静かだった。

「怪我人の手当てを。敵味方の区別なく」


彼女は一歩、また一歩と歩き出す。目的地は工房だ。カイルに、最後の挨拶をしなければ。


しかしその時──


捕縛されていたギデオンの目が、突然、不気味な光を宿す。彼の口が動き、聞き取れない呪文が漏れる。


そして、彼の体が黒い煙に包まれ、次の瞬間──消えていた。


「逃した……!?」

ガルムが叫ぶ。


賢者の塔の魔術師ヴァイスが、遠くで冷たく笑う。

「ダンロップの嫡子にも、それなりの逃げ道は用意していたさ」


戦いは終わったが、真の敵はまだ消えていなかった。


ミレーヌはその事実を受け止めながらも、歩みを止めない。今、彼女が向かうべき場所がある。


カイルが命をかけて守ったもの──

彼が最後まで償おうとしたもの──


その重みを、しっかりと受け止めるために。

カイルの覚悟と最期……胸が締め付けられる展開でした。彼が最後に成し遂げたことは、単なる自己犠牲以上のものだったと思います。


戦いは一応終わりましたが、ギデオンは逃げ、賢者の塔の魔術師たちもまだ残っています。しかもミレーヌには、媒介者としての大きな負担が……次回はその苦悩に焦点を当てていきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ