第65話『開戦 - 二つの意志の衝突』
(ココアをすすりながら)あー、まだまだ寒い日が続きますね。皆さん、体調管理は大丈夫ですか? 私は布団から出るのが最近つらいです……。
さて、そんな寒さも吹き飛ばす熱い展開が始まります! オルターナ領にいよいよ本格的な戦いの火蓋が切られます。ミレーヌたちが育て上げた魔導農園の力 vs ギデオン率いる本格軍団。しかも今回は賢者の塔の魔術師まで加わって……もう、緊張で手に汗握りますよね!
準備はいいですか? では、戦いの始まりです
夜明けの灰色の光が、東の山並みをかすかに照らし始める頃、オルターナ領の魔導農園コア制御室では、最終チェックの声が緊張したトーンで交錯していた。
「全防御システム、最終稼働確認完了」
カイルの声には、徹夜の疲れと決意が混じっている。
「植物防壁、起動待機。幻覚霧発生装置、起動待機。魔力転換フィールド、起動待機」
水晶盤には、領地の西側境界から二十キロの範囲が赤く染まっていた。無数の光点が、ゆっくりながらも確実に領地の中心へと向かって移動している。二百を超える敵部隊の進軍だ。
「先鋒部隊、境界から十五キロ」
監視役の若者の声が震える。
「騎兵三十、歩兵百、魔術師集団……十五名確認。そして……攻城兵器の車列があります」
ゴドウィンが水晶盤に近づき、拡大表示された画像を凝視する。
「あの紋章……確かに賢者の塔の統制派です。しかも、『第七円環』の者たち……遺物制御の専門家です」
ミレーヌはコントロールチェアに深く腰を下ろし、両手を扶手上の水晶プレートにそっと置いた。冷たい感触が、彼女の緊張を少しだけ和らげる。
「皆、最終配置についてください。カイルさん、工房のバックアップシステムの確認をお願いします。ガルム、護衛隊の最終配置を。ゴドウィン……あなたは私の傍に」
「かしこまりました」
制御室を出ていく足音が遠ざかる中、ミレーヌは目を閉じた。魔導農園のネットワークに意識を接続する。地中を這う根の感触、風に揺れる葉のささやき、凍った土の中ですら生き続ける微生物の営み──すべてが彼女の感覚の一部となる。
境界線、午前六時
朝霧が立ち込める森の縁で、オルターナ領護衛隊の前衛が最初の敵影を捉えた。
「来た! 弓隊、準備!」
隊長の号令に、二十名の弓兵が一斉に弓を構える。
しかし、現れた先鋒騎兵たちは、予想された行動を取らなかった。彼らは境界線の手前で停止し、整然と横列を組む。そして、その中央から一人の騎士が前へ出てきた。
深紅の外套、白銀の鎧。馬上で優雅に背筋を伸ばしたギデオン・ダンロップは、まるで狩りに来た貴族のように見えた。
「オルターナ領の者たちよ、聞け!」
彼の声は魔法で増幅され、森全体に響き渡る。
「我はダンロップ侯爵家嫡子、ギデオン・ダンロップ! 不法に古代遺物を占有し、危険な魔導実験を繰り返す叛逆者、ミレーヌ・オルターナの身柄引き渡しを要求する!」
護衛隊長が怒りに顔を紅潮させる。
「戯言を! ミレーヌ様はこの土地を救った──」
「救った?」ギデオンの嘲笑が響く。「あの女は、ただ古代の危険な力を暴走させただけだ。我が隣接領地への汚染拡大の危険がある。これ以上抵抗すれば、お前たち全員を共犯者として処断する!」
その時、ギデオンの背後から三人の白いローブをまとった人物が現れた。彼らは地面に複雑な魔方陣を描き始める。
「あれは……!」
護衛隊の一人が叫ぶ。
魔方陣が完成するやいなや、地面が揺れ始めた。境界線に沿って築かれた土木の防壁が、根本から崩れ落ちる。
「地盤を崩す魔法だ! 退け!」
しかし命令より早く、第二、第三の魔方陣が描かれ、防壁はあっという間に崩壊した。賢者の塔の魔術師たちは、単なる破壊魔法ではなく、地質そのものを変化させる高度な術を使っていた。
「第一防御ライン、突破されました!」
制御室に報告が飛び込む。
魔導農園コア制御室、午前六時十五分
「予想以上に早い……」ゴドウィンの額に汗が浮かぶ。
「彼らは遺物の周辺地質を完全に掌握しています。通常の防壁は意味がありません」
「では、『植物防壁』を起動します」
ミレーヌの声は冷静だった。彼女の意識は既にネットワークと深く同期している。
「第一波、起動」
彼女がコントロールチェアの水晶を軽く押す。
境界線から三百メートル内側の地帯で、一斉に異変が起きた。地面が割れ、無数の蔓が噴き出るように伸びてくる。それは鋼のように硬く、触れた騎兵の馬脚を絡め取り、兵士たちを馬上から引きずり下ろす。
「何だこれは!?」
「植物が動く!」
蔓には微かな毒が含まれており、絡め取られた兵士たちは次第に力が抜けていった。殺傷ではなく、無力化を目的とした防御だ。
しかし、ギデオンは動じない。
「お得意の植物芸か。ならばこうだ」
彼は手を上げ、魔術師たちに合図を送る。今度は炎の魔法が放たれた。だがそれは植物そのものを燃やすのではなく、地面を高温に熱し、植物の根を地中で焼き尽くす戦法だった。
「第二防御ライン、幻覚霧」
ミレーヌが次の手を打つ。
今度は無数の噴出口から微かに光る霧が噴出し、敵部隊を包み込む。幻覚性の胞子と魔法薬の混合霧だ。兵士たちは方向感覚を失い、仲間同士で争い始める。
「霧ならば吹き飛ばせ!」
ギデオンの命令で、風の魔法が放たれる。霧は確かに吹き飛ばされたが──
「霧は囮でした」
制御室でミレーヌがほほ笑む。
霧が晴れた瞬間、兵士たちの眼前には新たな光景が広がっていた。そこは見知った戦場ではなく、それぞれの故郷の風景だった。母親が夕食の準備をする台所。幼い子供が手を振る庭。年老いた父母が座る暖炉の前──
「これは……帰還魔法か?」
「いや、違う……幻覚だ! 気をつけろ!」
だが警告は遅すぎた。兵士たちの戦意は、懐かしい風景の前に大きく揺らいでいた。何人かは武器を置き、幻影の方へ歩き出そうとする。
「くだらん!」
ギデオンの怒声が響く。
「塔の者たち、これを破れ!」
白いローブの魔術師たちが一斉に詠唱を始める。今度は「真実の視界」を付与する魔法だ。幻覚は次第に薄れ、現実の戦場が戻ってくる。
「第三防御ライン、魔力転換フィールド起動」
ミレーヌが三つ目の手を繰り出す。
敵魔術師たちが放つ魔法のエネルギーが、突然、領地内に設置された無数の装置に吸い寄せられ始めた。魔力は変換され、魔導農園のエネルギーとして蓄積される。
「我々の魔力が……奪われる!?」
魔術師の一人が驚愕の声を上げる。
「面白い」三人の統制派魔術師のリーダー格、ヴァイスと呼ばれる男が初めて口を開く。「確かに、ゴドウィンらしい発想だ。だが……」
彼はゆっくりと杖を掲げた。
「不完全な模倣に過ぎない」
ヴァイスの杖から放たれたのは、単なる魔力ではなく、特定の「周波数」を持つ魔力の波だった。それは魔力転換フィールドの共振周波数と完全に一致し、装置そのものを共鳴させ、過負荷状態に追い込む。
「装置が過熱しています!」
カイルが制御室で叫ぶ。
「このままでは爆発します!」
「遮断せよ!」
ゴドウィンがカイルに指示する。
カイルが緊急遮断スイッチを押す。魔力転換フィールドは停止したが、同時に重要な防御手段の一つを失った。
前線、午前七時
ギデオンの部隊は、三つの防御ラインを突破し、ついに集落から五キロの地点まで迫っていた。ここまで来ると、魔導農園の集中的な管理区域に入る。
「さあ、辺境の魔女め」
ギデオンが剣を掲げて叫ぶ。
「最後の砦を見せてもらおう!」
その時、ミレーヌの意識は、ある一つの「気配」を感知した。それは敵部隊の中にありながら、周囲とは明らかに異なる──苦悩に満ち、葛藤する心のざわめきだった。
(イザベラ……?)
だがその感覚は一瞬で消えた。今は戦いに集中しなければ。
「最終防御体制へ移行します」
ミレーヌが制御室の全員に告げる。
「ゴドウィン、あなたの出番です」
ゴドウィンは深く頷き、制御室の一角に設けられた補助コンソールに歩み寄った。そこには、彼が三十年かけて解読した遺物の制御コードを入力するための特殊な装置があった。
「古代語による直接制御を開始します。これで、遺物の出力を一時的に300%まで増幅できます。ただし……」
「時間制限がありますね」
ミレーヌが続ける。
「あなたが言った通り、十五分です。それ以上続ければ、遺物が暴走します」
「その通りです。そして、その間は私が制御を担当するため、あなたは他の指揮に専念できます」
「では、始めましょう」
ゴドウィンが古代語で詠唱を始める。低く、荘厳な言葉が制御室に響き渡る。壁面の水晶盤が急激に輝きを増し、遺物からのエネルギー出力を示す数値が跳ね上がる。
外界では、その変化が即座に現れた。
領地全体の植物が、一斉に激しい輝きを放ち始めた。蔓はより速く伸び、葉は刃のように鋭くなり、花々は強力な睡眠花粉を大量に放出する。地面そのものが柔らかくなり、敵兵の足を捕らえる泥沼と化す。
「これが……本当の力か!?」
ガルムが前線で目を見開く。
敵の進軍は、文字通り「土地そのものの抵抗」によって完全に止められた。兵士たちは植物に絡め取られ、花粉で眠らされ、泥沼にはまって動けなくなる。
「しかし、これでも彼らは止まらない」
ミレーヌは水晶盤に映る光景を見つめながら呟いた。
「賢者の塔の魔術師たちが、まだ本気を出していないからです」
彼女の予感は正しかった。
ヴァイスが他の二人の魔術師と視線を交わし、ゆっくりと三つの杖を揃えて掲げた。彼らは三角陣形を組み、一つの巨大な魔法陣を空中に描き始める。
「あれは……」ゴドウィンの顔色が変わった。
「『遺物干渉陣』……! 奴らは、遺物を直接操作しようとしている!」
「阻止できますか?」
「できません! 今、私は遺物の出力を最大化することで精一杯です。その状態で干渉されれば……」
ゴドウィンの言葉が終わらないうちに、魔術師たちの魔法陣が完成した。緑色の光の柱が天へと伸び、そしてオルターナ領の中心──まさに「ヴァーミス・ルミナリス」の真上へと降り注いだ。
制御室が激しく揺れる。警告アラームが狂ったように鳴り響く。
「エネルギー出力、不安定化! 暴走まであと七分!」
カイルが絶望的な声で叫ぶ。
水晶盤には、遺物の制御コードが外部から書き換えられていく様子が表示されている。賢者の塔の魔術師たちは、ゴドウィンが三十年かけて確立した制御システムを、わずか数分で破壊しつつあった。
「ミレーヌ様!」ゴドウィンが振り返る。「あなたにしかできません! 媒介者として、遺物そのものと直接対話を! 彼らの干渉を、あなたの意志で跳ね返すのです!」
ミレーヌは深く息を吸った。目を閉じ、意識を最大限に拡張する。
彼女の意識は、暴走しつつある遺物の核へと飛び込んでいった。
そこで彼女が見たものは──
古代の記憶の断片。
世界を再生しようとした者たちの願い。
そして、その願いが歪み、暴走した悲劇。
そして今、再び──
同じ過ちが繰り返されようとしている。
「……違う」
ミレーヌの声が、制御室に、そして遺物の核の中に同時に響く。
「この力は……壊すためじゃない」
彼女の意志が、遺物の暴走するエネルギーと激突する。
一方、前線では──
ガルムが、混乱する敵部隊の中に、一人の奇妙な兵士を見つけた。その兵士は白銀の鎧を着ているが、動きがぎこちない。そして、兜の隙間から見える髪は──金色だった。
(まさか……)
その時、制御室からの連絡が入る。
『全員、緊急避難を! 遺物が暴走します!』
しかし警告より早く、オルターナ領の中心から、天地を揺るがすほどの轟音とともに、まばゆい光の柱が天へと突き刺さった。
戦いは、予想外の局面へと突入する。
(ほっと一息)うーん、いきなり激しい展開になっちゃいましたね……! ミレーヌ、遺物の暴走を止められるのか、ハラハラします。
そういえば、この寒い時期に植物の防壁とか出てくるとなんか共感しちゃいますよね。私も部屋の観葉植物が寒さに震えてる(気のせい)のを見て、「頑張れー」って応援してます。ミレーヌの植物たちもきっと寒い中頑張ってるんだろうな……って戦闘中にそんなこと考えてる場合じゃないですね(笑)
イザベラが敵陣に潜入してるのも気になります! 彼女、何を考えてるんでしょう。ドキドキします。
次回は『賢者の塔の罠 - 暴走の危機』。遺物が暴走する中、ミレーヌはどうするのか……!
それまで、皆さんも風邪ひかないように温かくして、次回を待っていてくださいね。
ではまた次回お会いしましょう~!




