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【祝!1万PV突破!】没落令嬢は農業で成り上がる!〜転生教師の魔導農園改革〜  作者: 星川蓮
第7幕『魔導農園への飛躍 - 防御から反撃へ』

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第59話『魔導農園、稼働 - 領地の変容』

理論が形になり、物語は次の段階へ進みます。

今回は「命の炉」が持つ可能性と、その第一歩を描きました。

銀鈴亭での密会から帰還して一週間。


オルターナ領の中心部、古代遺物「ヴァーミス・ルミナリス」が安置された地下空洞は、これまでにない緊張感に包まれていた。今日が、完全制御の第一段階起動の日である。


「最終チェック、完了いたしました」


ゴドウィンの声が、広がる緊張を一瞬切り裂いた。彼の周りには、カイルとベルトルト親方を中心とする技術チームが陣取っている。壁面には、カイル工房で製作された制御パネルが設置され、無数の水晶と導線が遺物へと繋がれていた。


「魔力導管の接続点、全て確認済みです」ベルトルト親方が報告する。彼の手は、長年の職人仕事で節くれだっているが、微細な調整には震え一つない。

「出力調整魔方陣、共振率98%を達成。許容範囲内です」

「バックアップ遮断システム、三重に構築完了。万が一の暴走時には0.3秒で完全遮断可能です」


ミレーヌは遺物の正面に立ち、深く呼吸を整えていた。今日、彼女は単なる指揮者ではなく、「媒介者」としての役割を果たさなければならない。イザベラからの警告──賢者の塔の関与の可能性を念頭に、この技術が絶対に悪用されないよう、最大限の注意が必要だった。


「領民たちの避難状況は?」ミレーヌが振り返って尋ねた。


ガルムがうなずく。

「念のため、遺物から半径五百メートル以内の住民全員を避難させました。子供や老人は、より遠くの集落に一時避難しています。皆、不安そうではありますが……理解を示してくれています」


エイランが小さな手提げ袋を差し出した。

「お嬢様、これを持っていてください。冷たいハーブティーと、エネルギーの出る菓子です。長時間の集中には必要です」


「ありがとう、エイラン」


外はまだ夜明け前だった。起動は日の出と同時に行う予定だ。古代の記録によれば、「ヴァーミス・ルミナリス」は太陽のエネルギーと共鳴しやすい特性があるという。


「ミレーヌ様、媒介者としての最終確認です」

ゴドウィンが近づき、低い声で言った。

「起動の際、遺物はあなたの精神状態を読み取ります。恐怖や疑念があると、制御が不安定になる可能性がございます。心を澄ませ、この土地への愛と、生命への敬意だけを想い描いてください」


「わかりました」

ミレーヌは目を閉じ、記憶を巡らせた。

荒廃していた土地で、初めて魔導キノコが芽吹いた瞬間。

領民たちが、初めて普通の作物の収穫を喜び合った日。

子供たちが、浄化された川で初めて水遊びをする笑顔──


「準備できました」


東の空が薄明るくなり始めた。空洞の天井に設けられた採光窓から、最初の朝日が差し込み、遺物の表面をかすかに照らし出す。


「では、第一段階起動を開始します」

ゴドウィンが宣告した。

「カイルさん、メインスイッチを」

「ベルトルトさん、共振モニターを」

「全員、防護魔方陣内に退避を」


技術チームが一斉に動き出す。カイルが重厚なレバーをゆっくりと倒す。低い唸りような音が空洞に響き渡る。


遺物が微かに振動し始めた。表面の古代文字が、一つまた一つと淡い緑色に輝き出す。


「出力上昇、順調です」

「魔力量、予想範囲内」

「周囲の地脈と共鳴を確認」


ミレーヌは遺物の前に進み出た。両手を遺物の表面にかざす。冷たい石肌が、次第に温もりを帯びていくのを感じた。


「生命の炉よ、目覚めよ」

彼女は静かに、しかし力強く語りかける。

「長き眠りから覚め、この土地を癒す時が来た」


遺物の輝きが強くなる。緑色の光が波紋のように広がり、壁面に設けられた魔力導管を通じて、地中へと流れ込んでいく。


「導管、全て稼働確認!」

「地中へのエネルギー伝達、効率92%!」


ミレーヌは目を閉じたまま、自分の意識をエネルギーの流れに乗せた。生物学教師としての知識が、土地の状態を「診断」する。

ここは養分不足、ここは水はけが悪い、ここは微生物が少ない──


彼女の意志が、エネルギーに「指示」を与える。養分を補給せよ、土壌を改良せよ、生命の多様性を増せ──


「信じられない……」

モニターを担当する若い技術者が息をのむ。

「指定区画の土壌成分が、リアルタイムで変化しています!養分濃度が20%上昇!」

「pH値が最適範囲に収束!」


外では、何かが起き始めていた。


遺物を中心に半径一キロの範囲で、土地が「呼吸」を始めたかのように見えた。朝露をまとった草葉が、より鮮やかな緑色に輝き、枯れかけていた木々の枝先に、新しい芽が一斉に膨らみ始めた。


「見て! あの花が!」

避難場所から様子を見守っていた老農夫が叫んだ。

「昨日までつぼみだったのに、開き始めた!」


確かに、野原に咲く無名の花々が、次々と花開いていた。それは魔法のように速く、しかし自然そのものが持つ生命力の爆発のようにも見えた。


地下空洞では、起動が第二段階へと移行していた。


「領地全体への拡散を開始します」

ゴドウィンが指示を出す。

「セクターAから順次、エネルギーを開放!」


ミレーヌの意識は、領地の隅々へと広がっていく。彼女は目を閉じたままでも「見えて」いた。

北の森で、古い木が新しい枝を伸ばす。

西の川で、水が澄み、小さな魚が跳ねる。

南の畑で、土が柔らかくなり、種が目覚める準備をする。


「全セクター、起動完了!」

「魔導農園システム、全域稼働確認!」


その瞬間、領地全体が微かに光った。一瞬だけ、朝日がより鮮やかに輝いたかのような、錯覚とも現実ともつかない光景だった。


ミレーヌはゆっくりと目を開けた。遺物は安定した緑色の輝きを放ち、心地よい温もりを発している。


「成功……しました」

ゴドウィンの声には、三十年の重みが込められていた。

「完全制御……『ヴァーミス・ルミナリス』は、再び生命を育む炉として稼働いたしました」


技術チームから歓声が上がった。抱き合う者、涙をぬぐう者、跪いて祈る者──


ミレーヌは空洞を出て、外の光景を見た。


目の前に広がるのは、彼女が知るオルターナ領ではなかった。


草木は生き生きと茂り、花々は色とりどりに咲き乱れ、空気は清冽で、土の香りが豊かに漂っている。魔性の汚染の名残は、もはや微かに感じられるだけだった。


「お嬢様……これは夢ですか?」

エイランが涙ぐみながら尋ねた。


「いいえ、エイラン。これが、オルターナ領の本来の姿です」


領民たちが、避難先から戻り始めた。彼らの表情は、驚き、戸惑い、そして歓喜に変わっていく。


「父さん、見て! 草がふかふかだ!」

「この土の匂い……子供の頃を思い出す」

「うちの畑の作物が、一晩でこんなに……」


老農夫のエズラが、震える手で土を掴み、顔を近づけて匂いをかぐ。

「これだ……これが本当の土の香りだ……六十年ぶりに……」


その日、オルターナ領では、計画されていない祭りが始まった。


人々は家から食べ物や飲み物を持ち寄り、広場に集まった。魔導農園の成功を祝い、そして失われていた自然の恵みを取り戻したことを喜び合った。


「ミレーヌ様、試してみてください」

リナが小さな籠を持ってきた。中には、今朝収穫されたばかりの野菜や果実が入っている。

「今までにない美味しさです!」


ミレーヌは真っ赤なトマトを手に取り、一口かじった。甘みと酸味のバランスが完璧で、みずみずしく、そして──ほのかに魔力を帯びている。


「これは……普通の作物ではありません」

ゴドウィンも味見し、目を見開いた。

「栄養価が極めて高く、しかも微かに治癒効果がある……まさに『魔導作物』です」


夕方、領主館で緊急会議が開かれた。


「まず第一に、この成功をどう活用するか」

ミレーヌが議題を提示した。

「魔導作物は、私たちの経済的自立にとって強力な武器になります」


カイルがうなずく。

「加工次第で、高級食品や薬品として高値で取引できるでしょう。『蔓』のネットワークを通じて、安全に流通させられます」


「しかし、危険もあります」

ガルムが警告する。

「この変化はあまりにも目立ちます。外部からすぐに気づかれるでしょう。侯爵派はもちろん、他の勢力の注目も集めるはずです」


ゴドウィンが深刻な表情で付け加えた。

「そして、賢者の塔の動きが気になります。もし彼らがこの成功を嗅ぎつけたら……」


その時、一人の若い領民が息を切らして駆け込んできた。

「ミレーヌ様!境界の見張りから報告です!」


「どうした?」

「領地の端で……旅の商人らしきグループが、土地の様子を熱心に観察しています。一人は、どう見ても普通の商人には見えない服装をしていました。まるで……学者のようです」


書斎の空気が凍りついた。


「もう来たのですか……」


ミレーヌは窓の外を見つめた。夕日に照らされた領地は、黄金色に輝き、かつてない豊かさを誇っている。


この成功が、新たな戦いの始まりになるかもしれない。


しかし、彼女は怯えなかった。むしろ、確信を持っていた。


「この土地を守る力は、もう私たちの手中にあります」


彼女は立ち上がり、一同を見渡した。


「明日から、次の段階に進みましょう。魔導農園を、単なる農業技術から、領地全体を守る『要塞農園』へと発展させます」


「そのためには?」ゴドウィンが尋ねた。


「三つの柱です。第一に、防御結界の研究。第二に、魔導作物を活用した警備システム。第三に……この技術を、他の苦しむ土地にも広めるための準備です」


夜、ミレーヌは一人、領主館の屋上に立った。眼下には、魔導農園の穏やかな光が領地を包み、星明りと共に優しく輝いていた。


「父様……見ていてください」


彼女は星空を見上げた。


「これが、オルターナ家の新しい始まりです。決して、誰にも壊させません」


風がそよぎ、新緑の香りが運ばれてきた。それは、約束に満ちた未来の匂いだった。

実験は成功しましたが、まだ完成ではありません。

力をどう扱うかが、これからの鍵になります。

続きも読んでもらえたら嬉しいです。

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