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【祝!1万PV突破!】没落令嬢は農業で成り上がる!〜転生教師の魔導農園改革〜  作者: 星川蓮
第7幕『魔導農園への飛躍 - 防御から反撃へ』

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第54話『遺物の真実 - ゴドウィンの告白』

第54話では、ついにゴドウィンが胸に秘めていた“過去”と“罪”が語られます。

遺物の正体、汚染の理由、そして彼がこの地にとどまり続けた本当の動機――物語の核に触れる回です。

古代遺物の研究は、凍結された取引という現実の危機を前に、かえって加速していた。魔導農園の心臓部となる「コア」の完成が、領地の自立にとって不可欠であることが誰の目にも明らかだったからだ。


遺物が安置された地下空洞は、かつての不気味な静けさから、活気ある工房へと変貌しつつあった。領民の有志たちが魔力の導管を設置し、ゴドウィンの指示に従い複雑な魔方陣を地面に刻んでいく。


ミレーヌは、遺物の表面に浮かび上がる古代文字の解読に没頭していた。彼女の生物学の知識は、文字そのものの解読には役立たないが、そこに記された「生命」「循環」「再生」といった概念を、図像や文脈から推測する手がかりにはなった。


「……ここには『種を蒔く』という表現がある。しかし、それが単なる農耕の比喩ではない……何かを『育てる』『増殖させる』という意味合いが強い」


彼女が呟くと、背後からゴドウィンの声がした。


「お見事でございます」


ミレーヌが振り返ると、ゴドウィンは複雑な表情で遺物を見つめていた。彼の目には、長年背負ってきた重い秘密を吐露する決意と、それを口にすることへの恐れが入り混じっている。


「ミレーヌ様。そろそろ、この石が何であり、なぜ私がこれを恐れながらも必要とするのか……お話ししなければなりません」


空洞内の作業員たちに退室を促すと、ゴドウィンは遺物の前に腰を下ろした。炎を灯したランタンの光が、古代の石の表面を揺らめかせる。


「私はかつて、『賢者の塔』に属しておりました」


ミレーヌは息をのんだ。賢者の塔――王国の最高学府にして、魔導と学問の頂点に立つ組織。その名は世界中に知られ、入ることさえ叶わぬ知識の聖域として語られていた。


「塔は七つの『円環』に分かれており、それぞれが異なる分野を司ります。私は第四円環『地脈と古代の叡智』に属しておりました」


ゴドウィンの声は、遠い過去を思い出すように低く続く。


「塔の使命は、失われた古代文明の知識を回収し、人類の進歩に役立てることです。このオルターナ領の地下にあるものも、我々が五十年前に発見したものの一つでございます」


「しかし塔は……純粋な学術機関ではないのですか?」


ゴドウィンの口元がわずかに歪んだ。


「表向きはそうでございます。ですが塔の内部には、常に二つの流れがありました。『知識は人類の共有財産であるべき』とする開放派と、『危険な知識は選ばれた者だけが管理すべき』とする統制派です」


彼は立ち上がり、遺物の側面に手を当てた。


「この装置の真価が明らかになるにつれ、統制派が勢いを増しました。彼らはこれを『戦略的資源』と位置づけ、塔の、ひいては王国の権威を強化するために利用しようとしたのです」


「この装置は?」


「正式名称は、古代語で『ヴァーミス・ルミナリス』――『光る子宮』あるいは『生命の炉』と訳せます」ゴドウィンの目が輝いた。「地中の魔脈からエネルギーを吸い上げ、それを『生命を育む力』に変換して周囲に放射する装置でございます。荒廃した大地を再生し、作物を豊かにし、病気を癒す……本来はそんな慈悲深いものでした」


ミレーヌの頭脳が高速で回転する。汚染の中和、植物の異常成長、土壌の急速な再生――すべてが符合する。


「では、なぜこれが『汚染源』となったのですか?」


「二つの理由がございます」ゴドウィンの表情が苦渋に歪む。「第一に、長い年月による制御システムの暴走。第二に……塔の統制派による、愚かな『応用研究』でございます」


彼の声に怒りが込もる。


「統制派は、この炉の出力を兵器転用できないかと研究を始めました。『生命を育む力』を逆転させれば、『生命を奪う力』にならないか――そう考えたのです」


ミレーヌは背筋が凍る思いがした。


「炉の安全制限を解除し、強制駆動を試みた結果、制御不能な魔力の逆流が起こりました。本来なら生命を育むはずのエネルギーが、歪み、腐敗し、『魔性』として周囲の土地を侵食し始めたのです」


「それが、オルターナ領の汚染の原因……」


「その通りでございます。実験は失敗に終わり、炉は緊急停止させられました。しかし、すでに漏れ出した歪んだエネルギーは回収できず、この土地を蝕み続けたのです」


ゴドウィンは深く息を吐き、続けた。


「私は実験に反対する開放派の筆頭でありました。炉は本来の目的――大地の再生のためにこそ使うべきだと主張いたしました。ですが、統制派は強大な政治的後ろ盾を持っていました」


彼の目に、深い悲しみが浮かぶ。


「塔は内部の対立を外部に知られまいと、事件の隠蔽を決定いたしました。そして『実験事故の責任者』として、私と同志たちをスケープゴートにしたのです。我々は塔から追放され、同時に『危険な知識を濫用した魔術師』として王国から指名手配されました」


ゴドウィンはミレーヌをまっすぐ見つめる。


「私は、偶然この地に逃げ延びました。そして、この地を治めていらっしゃったお祖父様に庇護を求めました。お祖父様は事情をお聞きになると、一つだけ条件をお出しになった――『この土地を元に戻す方法を見つけよ』と」


ミレーヌは言葉を失った。すべてがつながってきた。祖父の庇護、ゴドウィンの忠誠、そしてこの遺物の真実。


「では、あなたはずっと……この炉を修復する方法を?」


「三十年間、研究を続けてまいりました」ゴドウィンはうなずく。「しかし、一人の力には限界がありました。炉の制御には、魔術の知識だけでなく、生命そのものへの深い理解が必要でした。それはまさに、あなたがお持ちの『生物学』という叡智でございます」


彼は恭しく一礼した。


「ミレーヌ様。あなたがこの地にお現れになったのは偶然ではございません。あなたの知識と、私の知識が合わさる時、初めてこの炉は本来の役目を取り戻す。そう確信しております」


ミレーヌは震える手で、遺物の表面に触れた。冷たい石の感触の下に、かすかな鼓動のようなものを感じた気がした。


「この炉が完全に稼働すれば……どれほどのことが可能ですか?」


ゴドウィンの目が輝いた。


「理論上は、この一帯を完全な沃土に変え、季節を問わず豊かな実りをもたらします。魔力を帯びた作物は、薬としても、魔導素材としても、比類ない価値を持つでしょう。そして何より……」


彼は声を潜めた。


「……炉のエネルギーを適切に導けば、領地全体を覆う『浄化と保護の結界』を張ることが可能でございます。外からの汚染も、侵攻も、この結界の内側には及ばないでしょう」


ミレーヌの心臓が高鳴った。これこそが、侯爵派の脅威に対する最終的な答えだ。


「しかし、危険はないのですか? かつての暴走が再び……」


「ございます」ゴドウィンは厳しい表情で認めた。「炉を完全起動するには、三つの『鍵』が必要でございます。第一は、炉自体の制御コードの完全解読。第二は、炉と調和する『媒介者』の存在。第三は、起動の瞬間に膨大なエネルギーを供給する『源』でございます」


「媒介者?」


「炉のエネルギーを、暴走させるのではなく、生命と調和させる方向に導く存在でございます。それは、深く生命を理解し、なおかつ強い意志をお持ちの方でなければなりません」


ゴドウィンはミレーヌをまっすぐ見つめた。


「あなたこそが、その媒介者でいらっしゃると存じます。私はそう確信しております」


空洞内が深い沈黙に包まれた。ランタンの炎がゆらめき、二人の影を壁に大きく映し出す。


「わかりました」ミレーヌは静かに言った。「この炉を、父祖の地を救うために使おう。あなたの知識と、私の知識を合わせて」


彼女は遺物から手を離し、ゴドウィンに向き直った。


「ただし、一つだけ約束してください。どんなことがあっても、この技術を『兵器』として使わないこと。それだけは、絶対に」


ゴドウィンの目に、三十年ぶりに涙が光った。


「かしこまりました。生命を育むためにこそ、この知識を使わせていただきます」


二人は固い握手を交わした。過去の過ちと、未来への希望が、この地下空洞で一つの決意となって結晶した。


遺物は静かに佇み、その内部では、長い眠りから覚めようとする古代の力が、かすかに鼓動を始めていた。



読んでくださってありがとうございます!

今回はゴドウィンの長い沈黙にようやく区切りがついた回でした。ようやくここまで来た…という感じです。

ここから領地再生編が一気に動き始めるので、次回もゆるっと楽しんでもらえたら嬉しいです!

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