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没落令嬢は農業で成り上がる!〜転生教師の魔導農園改革〜  作者: 星川蓮
第6幕:『王国の影 - 政治という戦場』

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第50話『決定的な証拠 - 裏切り者の正体』

仮面舞踏会の裏で動き始めた“真実奪還”の計画。

今章ではついに、ミレーヌが父の死に繋がる核心へ踏み込むことになります。

華やかな舞踏会の影に潜む裏切りと、決定的な証拠──物語が大きく動き始める回です。


仮面舞踏会は佳境に入り、優雅な音楽とともに人々が舞踏場で旋回していた。ミレーヌは一見すると平静を装いながらも、内心では焦燥感に駆られていた。セリーヌからの合図がまだない。計画は順調なのか、それとも──


「オルターナ様、お疲れではございませんか?」


振り返ると、侯爵家の使用人と思われる中年の男性が立っていた。彼は銀の盆に載せたシャンパンを差し出しながら、目だけをわずかに動かして合図を送る。これは商会情報部の潜入工作員だ。


「少しばかり熱がこもっておりまして」ミレーヌは扇子であおぎながら、あらかじめ決められていた合言葉を返す。


「では、涼しい廊下をご案内いたしましょう」


使用人に導かれ、ミレーヌは華やかな広間から外れる。ガルムが警戒して後を追おうとしたが、ミレーヌは微かに首を振って制止した。二人きりで動く方が目立たない。


侯爵邸の奥深く、書庫へと続く薄暗い廊下に連れて行かれると、そこにはセリーヌと、一人の小柄な男が待っていた。男は五十歳前後、安物の礼服に身を包み、額に脂汗を浮かべている。


「ミレーヌ様、時間がありません。こちらがアルフォンス氏です。十年前、オルターナ家の鉱山事業の会計担当を務めていました」


アルフォンスは震える手でハンカチを握りしめながら、早口で語り始めた。


「お許しください、お嬢様……当時の私は、ダンロップ侯爵家に家族を人質に取られておりまして……帳簿の改ざんを強要されたのです」


ミレーヌの心臓が高鳴る。ついに、直接の証言者が現れた。


「詳細を」


「はい……ギデオン様は、当時のオルターナ伯爵と何度も会談され、その度に特別なワインを振る舞っていました。ある日、私に『この小瓶をワインに混ぜるように』と命じたのです。『気分が高まる薬だ』とおっしゃって……」


アルフォンスは皺くちゃな羊皮紙の束を取り出した。


「これは当時の原本の写しです。改ざん前の真の数字が記されています。そして……これはギデオン様が私に渡した小瓶の残りです。ずっと隠し持っていました」


ミレーヌはその小瓶を受け取ると、慎重に栓を抜いた。中にはわずかに褐色を帯びた粉末が残っている。彼女はほんの少し指先につけ、匂いをかいだ。


「……トレフォイルの根と、デビルズブレスの混合粉末」


生物学教師としての知識が瞬時に働く。これらは単体では薬草だが、特定の割合で混合され、長期にわたって摂取すると、心臓に負担をかけ、最終的には自然死のように見える症状を引き起こす。


「まさに『静かなる終わり』です」セリーヌが厳しい表情で頷く。「これでギデオン・ダンロップが直接関与した証拠が揃いました」


「アルフォンスさん、あなたの証言とこれらの証拠は、法の場で──」


ミレーヌの言葉が途中で止まった。廊下の向こうから複数の足音が近づいてくる。


「見つかりました!」私兵の怒声が響く。


「早く!」セリーヌがアルフォンスを押す。「裏口から脱出を!」


しかし時既に遅し。武装した私兵たちが廊下を塞ぎ、その中心にはギデオン・ダンロップが立っていた。彼の口元には冷ややかな笑みが浮かんでいる。


「オルターナ様、どうやら迷子になられたようですね。そしてアルフォンス……長いことどこに隠れていたのですか?」


アルフォンスは恐怖に震えながら、ミレーヌの背後に隠れた。


「ギデオン・ダンロップ」ミレーヌは証拠の書類と小瓶をしっかりと握りしめた。「これで貴方の罪は明らかです」


「罪?」ギデオンは嘲笑った。「何の証拠があるというのですか? こちらの書類はすべて偽物。そしてあの小瓶? 貴女がこっそり持ち込んだものに決まっています」


私兵たちがさらに近づいてくる。セリーヌは戦闘態勢を取ったが、数の上では明らかに不利だ。


「ミレーヌ様、先に行ってください!」セリーヌが叫ぶ。


その時、突然、建物全体を揺るがす爆発音が響いた。天井から粉塵が落ちてくる。


「どういうことだ!?」ギデオンが狼狽する。


「どうやら商会の方々も、準備をしてくれていたようです」セリーヌが微笑んだ。


混乱に乗じて、セリーヌは私兵二人を素早く制圧した。「今です!」


ミレーヌはアルフォンスの手を引いて逃げ出そうとした。しかし──


「お嬢様……お逃げください……」


アルフォンスの声が突然弱々しくなった。振り返ると、彼の胸から鮮血が流れ出ている。いつの間にか放たれた短剣が深々と刺さっていた。


「アルフォンスさん!」


「すみません……お嬢様……やっと……償いが……」


アルフォンスはミレーヌに証拠の書類を押し付けると、その場に崩れ落ちた。彼の目は虚空を見つめたまま、動かなくなった。


「逃がすな!」ギデオンの怒声が響く。


ミレーヌは涙をこらえ、証拠をしっかりと抱きしめて走り出した。セリーヌが囁く。


「東の階段です。商会の者が待機しています」


二人が廊下を駆け抜けると、そこには商会工作員たちと合流するガルムの姿があった。


「ミレーヌ様! 無事で!」


「ガルム……でもアルフォンスさんが……」


「今は脱出が最優先です!」セリーヌが指示を飛ばす。「侯爵邸の外には追手が待ち構えています。正面からは脱出できません」


ミレーヌは証拠の書類を見つめ、決意を新たにした。アルフォンスの命と引き換えに手に入れたこの証拠を、必ずや世に示さなければならない。


「裏庭から馬厩へ回り、馬で脱出するしかありません」ガルムが提案する。


「同意です」セリーヌが頷く。「我々が囮になります。ミレーヌ様はガルムとともに急いでください」


ミレーヌは唇を噛みしめた。また、誰かを犠牲にしなければならないのか。


「お願いします、セリーヌさん……どうか無事で」


「心配ありません。これが我々の仕事ですから」


商会工作員たちが囮となって西方向へ走り出す中、ミレーヌとガルムは反対方向の裏庭へと向かった。ミレーヌの手には、まだアルフォンスの血が温もりを残していた。


父の無念を晴らす証拠は手に入れた。しかし、その代償はあまりにも大きすぎる──。

第50話を読んでいただき、ありがとうございます。

今回は、真相に最も近い証拠が明らかになると同時に、重い代償を払う展開となりました。

ミレーヌが抱えた喪失と決意は、この先の戦いに大きな意味を持つことになります。


次回も、どうぞお付き合いいただければ嬉しいです。

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