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没落令嬢は農業で成り上がる!〜転生教師の魔導農園改革〜  作者: 星川蓮
第6幕:『王国の影 - 政治という戦場』

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第44話: 『決断 - 敵地への旅立ち』

第44話をお読みいただきありがとうございます。

今回は、物語の大きな転換点となる「王都行きの決断」を描きました。ミレーヌたちの覚悟が試される話です。では本編をどうぞ。

ミレーヌの王都行きの決断は、オルターナ領に新たな波紋を広げた。最も激しく反対したのは、老兵ガルムだった。


「何を言い出すか! 王都だと言うのに! あの……ゴドウィン様をあのような姿にした連中の、真っただ中へ……!」

書斎で行われた「防衛協議会」で、ガルムは拳をデスクに叩きつけて立ち上がった。マルクを失った悲しみと、ミレーヌへの心配が彼を激昂させている。

「この俺が……この身を挺してでも止める!」


「ガルム、落ち着け」ゴドウィンが静かに、しかし力強く諭す。彼は病室から無理を承知で出席し、毛布に包われて椅けつに座っている。

「ミレーヌ様の……決断は……正しい……。我々が……ここで……じっとしていても……侯爵の……魔の手は……必ず……再び……迫る……」


「だが……!」

「ガルムさん」ミレーヌはガルムの怒りと悲しみに満ちた瞳をまっすぐに見つめた。「私だって……怖いです。王都なんて、未知の世界です。でも……」

彼女の声は震えていたが、確かに響いた。

「ここで、目を背けていたら……マルクさんや、他の犠牲になった方々の……思いまでも……無駄にしてしまう気がするんです。ゴドウィンが払った代償も……」

ミレーヌの目に涙が光る。

「私は……もう、ただ守られるだけの存在ではいられない。自らの手で、未来を切り開く……それが、領主としての責任だと思うから」


リナは黙ってうなだれていたが、ゆっくりと顔を上げた。

「……ミレーヌ様が行かれるなら……私は、ここで待っています」

彼女の目も潤んでいる。

「あなたが戻って来られる場所を……この領地が、しっかりとした基盤でいることを……私たちが守ります。だから……どうか……必ず戻って来てください」


エイラン老婆は、むっつりと腕を組み、ミレーヌをじっと見つめていた。

“……ふん……。ならば、わしも一言言わせてもらおう”

老婆の声は低く響いた。

“王都へ行くなら……オルターナの誇りを忘れるな。てめえは、ただの辺境の領主じゃない。数多の犠牲の上に立つ、戦いの領主だ。そのことを、肝に銘じて行け”


「はい……」ミレーヌは深くうなずいた。


ガルムは、しばし沈黙した後、深いため息をついた。

“……わかった……。俺の負けだ……”

彼はミレーヌを見つめ、その目には依然として不安の色が濃いが、どこか諦めにも似た覚悟が宿っていた。

“だが……ミレーヌ様が行かれるなら……この俺も……お供する……!マルクの分まで……ゴドウィン様の分まで……俺がこの命で貴女を守ってみせる……!”

“ガルムさん……”

“父さん……”リナも複雑な表情でうなずいた。


こうして、王都行きのメンバーが固まった。ミレーヌ、ガルム、そして屈強な防衛班員二名。ルフィンが手配した護衛と合流し、小さな隊列を組んで向かうことになる。


出発の前日、ミレーヌは一人で Laboratory を訪れた。ゴドウィンはベッドで起き上がり、何か書物を読んでいた。

「ゴドウィン、明日、出発します」

“……はい……”

ゴドウィンは本を置き、ミレーヌをじっと見つめた。彼の目には、かつての鋭さはないが、深い慈愛と心配の色が満ちている。

“王都では……観察を……忘れずに……。貴族たちの……言葉の……端々に……罠が……仕掛けられています……”

“ええ、気をつけます”

“……そして……これを……”

ゴドウィンは枕元から、小さな銀のペンダントを取り出した。それは、複雑に絡み合う植物の模様が彫られた、ごく質素なものだ。

“これは……護符です……。私の……残りの……わずかな……魔力を……込めました……。危険を……感知すると……微かに……温かく……なります……”

“ゴドウィン……!そんな……あなたの体に負担を……”

“構いません……。これが……私に……できる……最後の……魔術……かもしれません……から……”

ゴドウィンはミレーヌの手を握り、ペンダントを押し付けた。

“どうか……無事に……帰って……来て……ください……”


ミレーヌは、その冷たい指の感触と、込められた想いに、言葉を失った。彼女はペンダントをしっかりと握りしめ、うなずくことしかできなかった。


いよいよ出発の朝。領地の入り口には、多くの領民たちが見送りに集まっていた。彼らの表情は、不安と期待が入り混じっている。

「ミレーヌ様、気をつけて……!」

「必ず戻って来てくださいね!」

「ガルムさん、ミレーヌ様をよろしくお願いします!」


ミレーヌは馬車の踏み台に立ち、集まった領民たちを見渡した。

“皆さん……!行って参ります!”

彼女の声は、朝もやの中に力強く響いた。

“私は、オルターナ領の領主として、この地の未来を確かなものにするために王都へ向かいます!どうか……私の不在中……お互いを支え合い、この領地を守り続けてください! 必ず……戻ってきます……!”


“行ってらっしゃい!!!”

領民たちの声が一つになって響き渡る。その中には、リナやエイラン、そして無理をして起き出してきたゴドウィンの姿もあった。


ミレーヌは馬車に乗り込んだ。ガルムたち護衛も馬にまたがり、ルフィン先導の隊列が動き出した。


振り返れば、領地の入り口で、いつまでも手を振り続ける領民たちの姿が、遠くにかすんでいく。ミレーヌは、ゴドウィンから預かったペンダントを胸に握りしめた。


(行ってきます……。そして……必ず戻ってみせます……。この絆を……この希望を……守るために……)


馬車は、未知なる戦場である王都アヴァロンへと、ゆっくりと確実に進み始めた。オルターナ領の命運を分ける、新たなる戦いの幕開けであった。

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。

更新が遅れてしまいましたが、体調がようやく少し落ち着いてきたので、なんとか今回の話を投稿できました。


皆さんはインフルエンザなど大丈夫でしょうか?

季節柄、体調を崩しやすい時期なので、どうか無理せずお過ごしください。


次回もゆっくりペースになるかもしれませんが、引き続き応援していただけたら嬉しいです。ありがとうございました。

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