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没落令嬢は農業で成り上がる!〜転生教師の魔導農園改革〜  作者: 星川蓮
第5幕:『古代遺物の発見 - 根源への挑戦と裏切り』

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第40話: 『第五幕の終焉 - 侵攻の火蓋』

夜はまだ明けず、沈黙だけが戦場を満たしていた。

しかし、その静寂は嵐の前触れにすぎない。

オルターナ領の未来を懸けた戦いが、ついに始まろうとしていた。


――第五幕・最終局面。

夜明け前の闇が最も深い時刻、ラントフ男爵軍の陣営から、鬨の声と共に攻撃の太鼓が響き渡った。戦いの火蓋が切られた。


「来いっ!」ガルムの咆哮が、緊張に張り詰めた防衛線に響く。「第一陣、歩兵だ! 地雷の準備……!」


境界線に仕掛けられた、魔導キノコの菌糸と魔力を帯びた鉱石を組み合わせた地雷が、敵兵の足を踏み入れた瞬間、次々と炸裂した。閃光と轟音、そしてキノコの胞子が舞い散る。敵兵たちは悲鳴を上げ、隊列を乱した。菌糸は鎧の隙間に入り込み、かゆみや幻覚を引き起こす。


「魔術だ! 卑怯なまねを……!」

「進め!進め! こんな程度でひるむな!」


敵将の怒号にもかかわらず、ラントフ軍の第一波は大きく足止めを食らった。オルターナ領の防衛は、武力ではなく知恵で始まった。


「よくやった……!」見張り台からの報告を受けて、ミレーヌは拳を握りしめた。しかし、彼女の安堵はつかの間だった。


「第二波、騎兵突撃!」ガルムの声が緊迫する。「奴らは地雷原を迂回してくる!」


轟音と共に、鎧に身を包んだ騎兵たちが、柵を破壊しながら突撃してくる。その速度と破壊力は、歩兵の比ではなかった。


「柵が……!」

「防衛班、長槍で迎え撃て!」


ガルム指揮下の男たちが、必死に長槍を構える。しかし、訓練された騎兵の突進は凄まじく、防衛線はみるみるうちに圧迫されていった。槍が折れる音、鎧に肉が叩きつけられる鈍い音、そして戦友の名前を叫ぶ声が交錯する。


「くっ……!」ガルム自身も、槍を構え、迫り来る騎兵と対峙する。老兵の技量で一騎を引きずり下ろすが、その衝撃で悪化した足の傷が疼く。彼の額から血と汗が混じり合って流れ落ちる。


「父さん!」リナが叫ぶ。彼女は避難所の入り口で、怪我をした防衛班員の手当てをしながら、戦況を固唾を飲んで見守っていた。包帯を巻く彼女の手は震えているが、動作は確かだった。


「ミレーヌ様、ここは危険です!」ゴドウィンが Laboratory の窓辺に立つミレーヌを引き離そうとする。

「離れてください、ゴドウィン!私は見ていなければ……! 私が指揮を……!」

「ですが……この窓辺は砲撃の的に……!」


その時、不気味なゴォンという音と共に、空を何かが切り裂いた。

「投石器……!」誰かが絶叫する。


遠方から放たれた巨大な岩塊が、ゆっくりと弧を描き、共有地の真ん中に落下した。地面が大きく揺れ、土煙が舞い上がる。せっかく整備された農地が一瞬で破壊され、近くにいた避難遅れの領民の悲鳴が上がった。魔導キノコの群落の一部も巻き添えになり、蒼い光が不安定に乱反射する。


「あ……あの……ばかやろう……!」ミレーヌは、眼前の破壊光景に言葉を失った。これは、領地の生命線への直接攻撃だ。彼女の目に、マルクの最期の姿が重なった。


「第二撃、準備……!」敵陣からの声が風に乗って聞こえてくる。次の目標は、間違いなく邸宅か Laboratory だ。


「奴ら……邸宅を狙っている……!」ゴドウィンの顔色が変わった。避難所には女性や子どもたちがいる。

「なんて……こと……」ミレーヌは震える。「このままでは……みんな……!」


防衛線は騎兵の猛攻で崩壊寸前。投石器の砲撃により、領地内部は混乱に陥っている。もはや、持ちこたえられる見込みは薄かった。エイランの言葉が現実味を帯びて迫る。


「ミレーヌ様……!」ゴドウィンがミレーヌの腕を握った。彼の目には、苦渋の決断が浮かんでいる。「もはや……これ以上は……!」


「ゴドウィン……?」ミレーヌは、彼の目に浮かぶ諦観と覚悟を見て、不吉な予感に襲われた。「あなた……まさか……あの術は……!」

「ミレーヌ様」ゴドウィンの声は驚くほど静かだった。「貴女が、私を家族と言ってくださった……。その言葉が、私の全ての迷いを消し去ってくれました」

「だめ……!あの術は……! あなたが……!」

「お約束ください」ゴドウィンは優しく、しかし強く言い放った。「この術が終わったら……たとえ私がどうなろうとも……生き残ってください。貴女こそが、この領地の、そして……私の希望なのですから」


そう言うと、ゴドウィンはミレーヌの手を振り切り、 Laboratory の奥へと走り去った。


「ゴドウィン! 待ってっ!」


ミレーヌが後を追う。 Laboratory の奥の部屋――古代遺物の破片を厳重に封印した部屋へと続くドアが閉ざされている。

“ゴドウィン!開けて! お願いだ……!”

ドアの向こうから、ゴドウィンが呪文を唱える声が聞こえる。それは、彼がこれまで使ってきたどの魔術よりも、古く、重く、危険な響きを持っていた。


“我がいのちを橋渡しとせん……いにしえ星脈せいみゃくよ……眠りよりめ、この地をけがす者らに、その身のはてを……見せしめよ……!”


ドアの隙間から、まばゆい蒼い光が漏れ出す。 Laboratory 全体が激しく揺れ、窓ガラスが割れる。外では、暴走する魔力の奔流が渦巻き、突撃してきた騎兵たちの馬が驚いて暴れ出す。空気が震え、全ての音がかき消されるような圧倒的な魔力の重圧が、領地全体を覆った。投石器から放たれた第二の岩塊が、その魔力の壁に触れた瞬間、粉々に砕け散った。


“ゴドウィン……!” ミレーヌはドアを叩き続けた。彼女の頬を涙が伝う。無力感が彼女を襲う。リーダーとして、それとも……家族として、彼を止められなかったことへの後悔が胸を締め付ける。


光はやがて収束し、静寂が訪れる。 Laboratory の揺れも止んだ。外の戦場からは、敵兵が混乱し撤退していく喧騒が聞こえてくる。ゴドウィンの術は、確かに敵を退却させた。

ゴドウィンの決断、そしてミレーヌの叫び――

誰もが覚悟を試される“侵攻の火蓋”の章となりました。

このシーンは私自身も胸を締めつけられながら書き進めた部分で、

物語の転換点として大切にしている場面です。


さて、個人的な話になりますが……

ようやく熱が下がりまして、少し体調が戻ってきました。

最近は周囲でもインフルエンザが流行しているようなので、

皆さんもどうか無理をせず、お気をつけてくださいね。


次回以降もゆっくりにはなりますが、

引き続きミレーヌたちの戦いを描き続けていきます。

これからも、どうぞよろしくお願いいたします。


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