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没落令嬢は農業で成り上がる!〜転生教師の魔導農園改革〜  作者: 星川蓮
第5幕:『古代遺物の発見 - 根源への挑戦と裏切り』

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第36話: 『遺物を巡る争奪戦 - 魔術師団の襲撃』

――人が「知」を求める限り、そこには必ず「犠牲」が生まれる。

辺境の地オルターナでは、古より封じられた遺物の調査が進められていた。

それは、文明を滅ぼしたと伝えられる“失われた時代”の残滓。

人々はその力を恐れながらも、同時に渇望していた。


だが、遺物を巡る動きはオルターナだけのものではなかった。

魔術師団――帝都直属の魔導機関が、ついにその存在を嗅ぎつけたのだ。


今、封印の洞窟で交錯するのは、

「守る者」と「奪う者」、そして「知を求める者」の意志。


この戦いの果てに残るのは、希望か、あるいは破滅か。

「生贄だと!? ふざけるなっ!」

ガルムの怒号が洞窟内に響き渡った。老兵は瞬間的に状況を把握し、屈強なマルクたちに指示を飛ばす。

“マルク! お前たちはミレーヌ様を守れ! ゴドウィン様、あの邪悪な石を何とか!”


“我が眷属けんぞくよ、這い寄れ、蝕め!”

師団の長は呪文を唱え、その手から紫黒色の瘴気が渦を巻きながら這い出した。それは床や壁を伝い、たちまち無数の毒蟲や影の触手となって調査隊に襲いかかる。


“辺境の老騎士如きが、我が魔術に刃向かうとはな!”

“これが……本物の魔術師の力か……!” マルクは剣を振るい、迫り来る觸手を必死に斬り伏せるが、その剣は瘴気に蝕まれ、みるみる錆びていった。


“皆さん、外套をしっかりと!” ミレーヌは叫んだ。“キノコの力が守ってくれます!”

魔導キノコの菌糸で織られた外套は、触れる瘴気を浄化し、かすかな蒼い光を放ちながら隊員を守った。しかし、その光は次第に弱まっていく。あまりにも濃厚な瘴気に、浄化が追いつかないのだ。


“ミレーヌ様、ここは退却を!” ガルムが咆哮する。“奴らは遺物を奪う気だ! 我々は足手まといになるだけだ!”


“だが、このまま遺物を渡すわけには……” ミレーヌは歯を食いしばった。彼女の頭は高速で回転する。生物学の知識、魔導キノコの特性、そしてこの場にあるもの……。

“ゴドウィン! あの遺物……今、活性化している! 外部からの刺激に反応しやすいはずだ!”


“おっしゃる通りです!” ゴドウィンは答える。彼は既に祭壇の周囲に防御結界を張り、師団長の放つ魔術の矢を必死に防いでいた。“ですが、制御できない力を乱暴に刺激すれば、大爆発を起こしかねません!”


“爆発……” ミレーヌの目が輝いた。“……それでいい! 私たちの目的は、遺物を綺麗に回収することじゃない! 彼らに渡さないことだ!”


“ですが、ミレーヌ様! それでは我々も……”

“この胞子の瓶を使うわ!” ミレーヌは、緊急用のキノコの胞子が入った小瓶を掲げた。“遺物を刺激して魔力の暴走を引き起こし、その瞬間にこの胞子を撒く! 魔導キノコの力で、暴走した魔力を一時的にでも浄化・吸収できれば、爆発の規模を抑えられるかもしれない!”


それは、文字通り火中の栗を拾うような危険極まりない作戦だった。


“了解しました!” ゴドウィンは迷わずに肯いた。“私が遺物を刺激します! ミレーヌ様、タイミングを!”

“父さん! 俺が……俺が奴らの注意を引きつける!” マルクが叫び、仲間と共に師団の手下たちに向かって突撃していった。


“馬鹿者! 戻れ!” ガルムの叫びも虚しく、マルクたち若者たちの奮戦により、師団の陣形は一時的に乱れる。


“今だ、ゴドウィン!”

“うおおおおっ!”

ゴドウィンは防御結界を解き、全身の魔力を古代遺物に向けてぶつけた。遺物は炸裂するような光を放ち、周囲の空間の歪みが一気に増大する。洞窟全体が激しく揺れ、岩の破片が天井から落下し始めた。


“愚か者! 自滅行為だ!” 師団長が嘲笑う。


“ミレーヌ様、今です!”

ミレーヌは小瓶を力一杯、光り狂う遺物に向かって投げつけた。ガラス瓶が割れ、中から無数の蒼い胞子が飛び散る。胞子は暴走する魔力に触れると、それを栄養とするように激しく輝き、膨張していった。まるで、地中で無数の蒼い閃光が走るようだった。


“なに……!? 我が魔術が……浄化されている!?” 師団長が驚愕の声を上げる。


轟音と閃光が洞窟を包み、全ての者が目を開けていられない。激しい魔力の乱流が吹き荒れる中、マルクの悲鳴が聞こえた。

“ぎゃあああっ!”


閃光が収まり、塵が舞う中、そこには無事な遺物と、その前に立つゴドウィンとミレーヌ、そして彼らを守るように倒れているガルムの姿があった。マルクは仲間をかばい、瘴気の直撃を受けて倒れていた。彼の体は若さとは不釣り合いに老化し、腐敗し始めている。


“マルク……!” ガルムは泣き叫びながらも、動けない我が子の元へ這っていく。


師団の者たちも、魔力の反動と胞子の浄化作用により、一時的に行動を封じられていた。


“撤退だ……” 師団長が悔しそうに呟く。“遺物は暴走状態……手に入れても制御できない……! だが、オルターナの者たち……この恥、忘れん……!”


魔術師団は、瘴気に包まれて撤退していった。


洞窟には、激闘の跡と、重い沈黙だけが残された。遺物は依然として危険な輝きを放ち続けている。彼らは遺物を奪われることは防いだ。しかし、その代償はあまりにも大きかった。


ミレーヌは、マルクの傍らにひざまずき、彼の腐敗していく手を握った。涙が止まらない。

“ごめんなさい……ごめんなさい……”

“お嬢様……謝ることでは……” マルクはかすれた声で言う。“領地の……未来……を……”


彼の言葉はそこで途切れた。


ガルムは無言で、我が子の亡骸を抱きしめた。その背中は、一気に老け込んだように見えた。


ゴドウィンは、依然として輝く遺物を見つめ、厳かな口調で言った。

“ミレーヌ様……。この遺物は、もはや『破壊』か『封印』の選択肢しか残されていません。しかし……あなたのおかげで、『利用』するための可能性……わずかな光も見えました”

彼の目は、マルクの犠牲と、ミレーヌの機転がもたらした新たな希望を映し出していた。

“この犠牲を……無駄にはできません”


ミレーヌは涙をぬぐい、顔を上げた。悲しみと怒り、そして決意が入り混じった、複雑な表情で。

“ええ……。この遺物の力と……どう向き合うか。それが、私たちに課せられた……次の戦いです”


調査隊は、一つの尊い命と引き換えに、古代遺物の危険な真実と、わずかな可能性を手に、地上へと這い上がるのであった。




洞窟の沈黙は、祈りにも似ていた。

ひとつの命が失われ、ひとつの真実が掴まれた。


遺物は依然として脈打ち、封じきれぬ光を放っている。

それはまるで、人の欲望そのものが形を得たかのようだった。


しかし、ミレーヌは恐れなかった。

彼女は知ったのだ。――力を忌避するだけでは、未来は救えないと。


ガルムは息子を抱きしめ、静かに祈る。

ゴドウィンは残された知識を手に、次なる対策を練る。

そしてミレーヌは、涙の向こうに確かな決意を見つけた。


彼らの戦いは、終わっていない。

むしろ、ここからが始まりであった。


――古代遺物と、それに魅入られた人間たちの物語は、

なお、深淵の奥へと進み続ける。

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