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没落令嬢は農業で成り上がる!〜転生教師の魔導農園改革〜  作者: 星川蓮
第4幕:『領地経営の始動 - 暗躍する影と堅牢な基盤』

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第31話: 『自立への道 - 王都への初出荷』

王都への初出荷の日。

それは、オルターナ領が“生き返った”ことを示す第一歩。

だが、成功の裏では、新たな陰謀の影が静かに動き出していた――。

ダンロップ侯爵という巨悪の存在を知り、少数精鋭の「防衛協議会」を結成してから、オルターナ領の空気は再び変わった。表向きの平和な日常の裏で、確かな緊張感と覚悟が流れ始める。それは、領民たちにも感じ取られ、何か大きなことが進行しているという予感が、かえって結束を強固にした。


そんな中、ルフィンとの契約に基づく最初の正式な出荷の日が迫っていた。これは、単なる作物の販売ではない。ダンロップ侯爵の圧力が渦巻く王都に、オルターナ領の存在を宣言し、自立のための資金を稼ぎ出す、文字通りの第一戦であった。


「絶対に失敗は許されない」ミレーヌは農業生産班のリナと共に、出荷する作物の最終検査を行っていた。「品質、規格、全てにおいてルフィンとの約束を守らなければ。一つでも不良品があれば、彼の商会での信用は地に落ち、侯爵派に付け入る隙を与えてしまう」


共有地の倉庫前では、厳しい選別作業が行われていた。リナを中心とした女性たちが、一つ一つの野菜を手に取り、サイズ、形、色、そしてほのかな蒼い輝きを確認する。規格に合わないものは、たとえ少しでも、容赦なくはじかれた。


「このにんじん、曲がりが少し強いわね」

「このキャベツ、外葉の色が少し薄いかしら……」

「でも、どれもみんな、とても美味しそう……」

「我が子のように育てたんだもの……」


はじかれた作物を見て、ため息をつく者もいた。しかし、彼女たちは理解していた。これは感情ではなく、生き残りをかけた戦いであることを。


一方、防衛施設班のガルムは、出荷の荷車を護送するための準備を進めていた。

“いいか、この荷車は、我々の希望そのものだ。魔術師団の野郎どもが、これを襲う可能性も十分にある”

彼はかつての警備隊長としての経験をフルに活かし、荷車に偽装を施し、護送ルートを何パターンも考え、最も安全な道を選定した。

“お前たち数名、途中の見張り崗まで先行しろ。不審な気配がないか、徹底的に確認だ”


エイラン老婆は、子どもたちを集め、別の重要な作業をさせていた。

“さあ、みんな、手をよく洗え。この箱に、藁を敷き詰めるのだ。そうすれば、野菜が傷まない”

子どもたちは真剣な表情で、丁寧に作業した。彼らは詳細は知らないが、これが領地にとって非常に重要な仕事であることは感じ取っていた。


そして、研究開発班のミレーヌとゴドウィンは、最後の、そして最も重要な仕掛けを準備していた。

“これで……本当に効くのですか?”ミレーヌが尋ねた。

“検知システムはほぼ完璧です”ゴドウィンは自信を持って答えた。“問題は、無力化の方ですが……”

彼の手元には、新たに培養した抗魔術キノコの粉末を染み込ませた小さな布製の護符があった。これを荷車の各所に隠し仕掛けるのである。魔術的な攻撃(腐敗の呪いなど)が仕掛けられた場合、この護符がその波動をある程度吸収・分散し、作物への直接的な影響を遅らせ、あるいは防ぐことを期待したものだ。

“完全な防御は難しい。しかし、ルフィン殿が気づくまでの時間を稼ぐことはできるでしょう”


いよいよ出荷の朝が訪れた。厳選された野菜は、丁寧に箱詰めされ、藁で保護され、荷車に積み込まれた。それは、オルターナ領の誇りと生命力が詰まった、小さな宝石箱のようだった。


ミレーヌは、集まった領民たちの前で、最後の言葉をかけた。

“皆さん……この荷車には、皆さんの汗と努力と希望が詰まっています。これを無事に王都に届けることが、私たちの未来を切り開く第一步です。……行ってらっしゃい!”


ガルム率いる護送班の男たちが、威勢のいい声を上げ、荷車を引いて領地を出発した。見送る領民たちから、大きな拍手と励ましの声が送られた。


それから数日間、領地はやきもきしながら待ち続けた。魔術的な攻撃はなかったのか? 荷車は無事にルフィンの元へ届いたのか? そして、王都の客の反応は?


そして一週間後、ルフィンからの伝令の水晶玉が輝いた。ミレーヌとゴドウィンが Laboratory に駆け込み、メッセージを受け取る。


《成功だ! 見事な出来栄えだと商会も大絶賛! 客の反応も上々! 代金は、約束の額で、そちらに送る!》

ルフィンの興奮した声が、水晶玉から聞こえてきた。

《次回の注文書もすぐに送る!量を三割増で頼む! やったぞ、ミレーヌ様!》


その瞬間、 Laboratory 中に歓声が上がった。……といっても、そこにいるのはミレーヌとゴドウィンだけだったが。

“やった……!成功です、ゴドウィン!”

“おめでとうございます、ミレーヌ様!”


すぐにこの吉報は領民全体に共有された。広場に集められた人々からは、沸き上がるような歓声と安堵のため息が上がった。しかし、彼らが最も喜んだのは、代金の額そのものではなかった。


“やった! 俺たちの野菜、王都で認められたぞ!”

“これで……これでまた一つ、あのラントフ男爵ににらみを利かせられる!”

“ミレーヌ様万歳!”


この成功が意味したのは、他者からの評価と、経済的な自立への道筋だった。それは、領民一人一人に、さらなる自信と誇りをもたらした。


ミレーヌはゴドウィンに言った。

“このお金は……借金の返済には使いません”

“では?”

“領地の発展のための、最初の自己資本です”ミレーヌの目は輝いていた。“新しい農具の購入、教育のための教材、防衛施設の強化……。私たち自身の力で稼いだお金を、私たち自身の未来のために使うのです”


オルターナ領は、この日、他者に依存しない、真の意味での自立への、確かな第一歩を踏み出したのである。それは、ダンロップ侯爵という巨大な敵を前にしても、決してひるまない強さの基盤となっていく。

今回登場した「抗魔術キノコ」にちなんで――

実際の世界でも、キノコには“環境の毒を吸収して解毒する”性質を持つものが多いのをご存じですか?

たとえばシイタケやナメコは、放射性物質や重金属を吸収する能力があり、

森の「浄化者」と呼ばれることもあります。


オルターナ領のキノコたちも、もしかしたら魔力の毒を吸い取って、

この世界の森を守っているのかもしれませんね

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